建国の老賢者は女王の亜父
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
執務室を訪れた私を、彼は温和な微笑と丁寧な拱手礼で迎えてくれたのです。
「御足労頂き光栄で御座います、愛新覚羅紅蘭女王陛下。この徐福達、恐悦至極に存じます。」
「何を仰るのです、亜父。亜父が相国として御導き下さったからこそ、今日の私が存在するのですから。」
宰相として、そして我が中華王朝の精神的主柱として。
この老賢者が私や国に尽くして下さった恩は、一言では語り尽くせません。
「未だに亜父と御慕い頂けて光栄で御座いますよ、陛下。されど私も老い先短い身の上。果たして何時まで御仕え出来ますやら…」
「引退の意志は揺るがないのですね、亜父…」
即位前からの功臣にして、建国の立役者。
そんな亜父の引退は、断腸の思いでした。
されど彼の意志は尊重せねばなりません。
そもそも私には、最初から分かっていました。
何時までも亜父に頼れない事を…
そして私は、政務を退く徐福達に代わる宰相候補を選ぶ必要に迫られたのです。
「如何でしょう、陛下?司馬花琳将軍などは?」
「彼女は政務に携わるより、将軍の方が本領を発揮出来る人物です。」
引退間際の相国の一言で浮かぶのは、即位以前からの旧友の顔でした。
敢えて晋の皇位請求権を行使せぬ謙虚な彼女を政務に駆り出すのは、流石に酷な話です。
「軍師の張荒烈なら、後任に適任では?」
「軍略と内政では必要な素質も変わりますからね…」
亜父の言う通り、張良の血を継ぐ軍師は軍略で輝く逸材。
それに軍師と宰相を兼任させては、流石に負担が大き過ぎるでしょう。
「では、亜父の部下で後事を託せる逸材は?」
「将来を考えるなら陛下より若い世代の方が宜しいかと。これからの中華王朝の宰相には若く柔軟な発想が必須です。そして人材は、内外に広く求めるべきなのです。」
既存の人材は適切な所に収まっています。
ならば未だ世に出ぬ逸材を推すべきでしょう。
「実は台湾に心当たりが御座います。楽永音という若者は未だ十七歳ですが、大学院に飛び級した秀才で政経学にも明るいとか…」
私の脳裏に浮かんでいたのは、報道番組で特集された天才少女の面影でした。
あの聡明さと弁舌は、我が国の未来に役立つはず…
「陛下の御眼鏡に適うのならば確かな方でしょう。鳳雛が大成出来るよう、私が責任を持って教え込む所存です。」
そうして宰相としての英才教育を果たした時、亜父は真の意味で肩の荷を下ろせるのでしょう。
亜父の為にも、国の為にも。
この人事に失敗は許されないのです。