第2章「賢者との出会い」
あの日、公園で初めてソクラテスに出会った時のことは、今でも鮮明に記憶している。
その朝は頭がぼんやりと霞んでいた。前日についに梅雨明けを告げるニュースが流れたものの、その日の天気はいまひとつ晴れ模様とは言えなかった。空は濃い灰色の雲に覆われ、蒸し暑い空気が体に張り付いている。事件の捜査が全く進展しない現状に、イライラと焦燥感が募る毎日が続いていた。
その日もモヤモヤした頭を叩き直すべく、ぶらぶらと公園を歩いていたときのことだ。すると、灰色の毛をした野良猫が寄ってきた。「迷子かい?大丈夫?」そう声をかけてみると、驚くべきことにその猫が人語で返事をしてきた。「ほお、あんたとは話せるらしいな」。目を疑う光景に唖然とした。
その猫、ソクラテスは前世が人間の賢者だったらしい。推理力が人一倍優れているらしく、今は猫の身体に生まれ変わったのだという。まるで神がかりのような出会いに、戸惑いを隠せなかった。
「その事件、手に負えないのかね?」ソクラテスが穏やかに問いかけてきた。「そうですね...»とため息が出てしまう。自分が優秀だと信じていたのに、なぜこの程度の事件が解決できないのか。自信を無くしかけていた。
「ほら、任せるんだ」ソクラテスは強い口調で促してきた。「私の知恵を授けてやろう。この事件もきっと解決できる。約束するぞ」。信じがたい光景に半信半疑だったが、新しい視点を得られる可能性に期待が膨らんだ。そうして公園をゆっくりと散歩しながら、ソクラテスと事件の解決策について語り合うことにしたのだった。
ソクラテスの推理手法は斬新だった。「動機から考えるのが一番だ」と教えてくれた。犯行に至った理由やきっかけに注目し、そこから順を追って考えていけば新事実が見えてくるのだという。推理小説の熱心な読者である自分としては、それが立派なトリックだと感嘆した。物事を新しい視点で見る大切さを思い知らされる経験となった。
ソクラテスの知恵は、人を見抜く力に宿っているのかもしれない。短時間の会話の中で、自分の性格や傾向を見極め、効果的なアプローチを見定めている。小柄な猫の体からは想像もつかないほどの洞察力を持っていることに気づかされた。
公園での有意義な会話を終え、疲れ切った自分の身体に力が入るのを感じた。ソクラテスの知恵を借りることができれば、この難事件も必ず解決できると確信した瞬間だった。




