第1章 静かな街で起きた連続殺人事件
朝日の光がカーテンの隙間から差し込み、私の顔をそっと明るくする。だが私の目はまだ閉じられたまま、枕で何となく頬をこすりつけている。寝起きの私の頭は、まるで水底のように静かでぼんやりしている。
いつものようにベッドサイドのアラームが鳴り響き、私を現実世界へと引き戻す。「もうそろそろ起きる時間か...」と呟きながら、私は枕を抱え込むようにしてもう少し横になろうとした。だが記憶の片隅で、今朝具体的な用事があることを思い出し、むずがゆさにかられる。
そうした時、耳慣れたポップ音楽のメロディが流れ出し、スマートフォンの着信音だと気づく。「あ、そうだ、記録係の刑事から連絡が来るって言われていた」。私は思い出したように身を起こし、目をこすりながら通知を確認した。
「村瀬さん、おはようございます。あのファイル、用意できましたので受け取りに来てください」
ファイル...。私は記憶をさかのぼり、そうか、ある事件の資料をもらうことになっていたのだと再認識する。「あら、そうそう。ありがとうございます。ちょうど出勤するところなので、すぐ確認させていただきます」。スマホに返信を入力する。
そうして窓から朝日を見上げながら、ゆっくりと起床の準備を始めた。
コーヒーメーカーが静かに湯沸かしを始める。キッチンに広がるコーヒーの香りを、私は深く吸い込む。苦味と香りが段々と目覚める感覚を促してくれる。
コーヒーをマグカップに注ぎ、ゆったりと一口。喉を潤し、胃の中で温もりが広がる。「ああ、やはり朝からの一杯は欠かせない」。コーヒーの効能に満足し、準備を続ける。
だが記録係からの連絡は、頭の片隅を静かに揺さぶっていた。用意されたファイルの中身が気になって仕方がない。「まあ、職場に着いてから内容を確認するしかないだろう」。そう自分に言い聞かせる。
通勤電車はいつものように混み合っていた。疲れきったサラリーマン、私語を交わす学生たち。それぞれに想い思いの表情で、この時間を過ごしている。電車の揺れに身体を任せながら、私は少しだけファイルのことを考えるのを制止できない。
警察署に着き、記録係の刑事と会釈を交わす。「お疲れ様です。ファイルは...」。「はい、こちらです」。言葉を切り、手渡されたそれを受け取る。「ありがとうございます。すぐ確認させてください」。そう言って刑事の視線を避け、階段を駆け上がり、自分のデスクに着く。
コーヒーを口に運びながら、ファイルを開く。中を見るなり、私は息を呑んでしまった。
いや、この静かな街で、こんなことが...。女性が殺害されているというのに、信じられない思いが先に立つ。記載された内容を確認し、疑う余地がないことを悟る。
早速、鳥居の部屋を訪ね、事態を報告する。すると鳥居の目が怒りで鋭く光るのが見て取れた。「すぐに捜査本部を立ち上げろ。お前に任せる」
「はい!」
重大事件の捜査を任されたことに、私の心臓が高鳴る。
手掛かりを求めて現場へ駆けつけるが、有力な証拠は見つからない。ひたすらに現場を捜索する日々が始まった。
田中と二人三脚で捜査を進めるものの、行き詰まりを感じる。科学的解析を専門とする園田に頼るしかない、と判断した。
報告書作成と並行し、証拠品の検査結果を待つ時間は長かった。コーヒーを飲み干し、マグカップを握りしめながら、私は思考を巡らせる。
そしてある日、園田から連絡があった。被害者と無関係のDNAが発見された、可能性の高い犯人の痕跡だ、と。私は大きく息をつき、ほっとする。久しぶりにほほ笑む。
一人部屋で手がかりを推理していると、疲労が身体を引きずり出す。まだ捜査は道半ばだ。コートを羽織って夜道を歩み、家路につく。
自宅の窓から眺める街は、いつも通りの平穏な風景。だが知識として知るこの街で、誰かが事件を起こしていることが、まだ実感としてつかみ切れない。それでも、この事件を解決したい、手がかりがほしい、そう切に願うのだった。




