6話
玄関を入ってキッチンへと向かった。
食堂と言ってもいいくらいの広くて大きなテーブルには二人分の
食事が準備されていた。
まだ、長谷川は帰ってきていないようだった。
最後まで残るタイプではなさそうだったが、そこは責任感でもあ
るのだろうか?
見回りしながらパンフレットを渡してくれたり、来客の事も気遣
ってくれていた。
少し誤解しているのかもしれないと、少しだけ思い直す。
「悪い奴じゃない…んだよな〜」
部屋に帰るとラフな格好になる。
下着にはぱんぱんにパットが詰め込まれており、はめるだけで胸を
強調する。
予備のために数個買っておいてある。
こんな事にバイト代を使いたくなかったが、バレれば元も子もない
ので仕方がない。
家までスカートを履くのが嫌で短パンを買っておいた。
これもあまり好きではないが、男もののズボンを買うわけにもいか
ないので我慢した。
素足に短パンは結構楽だった。
そんな時、玄関で音がした。
「おかえり…遅かったじゃん」
「帰ってたのか………」
「なんだよ……」
じっと見つめてくる視線に耐えられずに悪態をつくとゆっくりと近
づいて来た。
目の前まで来ると、つい後ずさってしまう。
ドンッと壁に背が当たるとドキリとしてしまう。
長谷川の手が爽の頬を撫でると顎に手が添えられる。
そして顔が目の前まで近づいたところで、思いっきり蹴り上げてい
た。
「ぐっ………なにするっ……」
「それはこっちのセリフだろ!この変態っなにしやがるっ!」
いきなりの事で動転していたが、流されまいと反撃したはいいが、
丁度蹴り上げた場所が悪かったらしい。
同じ男としては、痛いでは済まない。
「いきなり、なにすんだよ!」
「…もう、いい」
痛いのか、ぎこちない歩き方で二階へと上がっていってしまった。
流石に婚約者といえど、高校生に手を出すなど許せるはずがなか
った。
ましてや、爽は男で…
流されて手を出されれば、すぐにバレてしまう。
それだけは避けなくてはならなかった。
食事を済ませると足早に部屋へと戻った。
早く風呂には入りたいが、重なると困る。
あえて、先に入ってくれてればいいのだが、二階に上がってから全く
降りてこないのだ。
「まさか、やり過ぎたのか?」
少し心配になって来た。
食事にも降りて来ないし、風呂もまだ。
これは、別の意味でヤバいのでは?
と思い返す。
一番奥の部屋をノックしてみる。
コンコンッ…コンコンッ…。
中は静かで返事もない。
余計に心配になるではないか!
爽とて、わざとではない。いきなりだったし、襲われると思って反撃
しただけだ。
これにはれっきとした正当防衛だと思う。
それがいくら婚約者と言っても変わらないだろう。
まだ未成年なのだ。
自分に言い聞かせると、ドアを開いてみる。
中は暗くて見えない。
電気をつけるとパッと明るくなった。
照明に煌びやかなシャンデリアが飾られており、趣味が悪そうに思え
てしまう。
奥のベッドに蹲るように眠っているようだった。
部屋は広いけど、その割にものが少ない気がする。
クローゼットは別にあるのだろうか?
タンスもなければ収納スペースが見当たらない。
ベッドもシルクの布で、触り心地は良かった。
どの部屋も豪華だとは思ったが、ここは格別だった。
「金かけてんだな〜」
「おい、なぜ入って来た?」
いつのまにか目を覚ました、長谷川が起き上がると睨みつけていた。
「あ、いや、風呂先に入るかなって…呼びに来たんだけど…」
「…」
睨むが何も言わないと余計に気まずい。
「ノックはしたからなっ…それにさっきのは正当防衛だからな!そっ
ちが先に手を出そうとするから…」
言い訳に聞こえるかもしれないが、大事な事なので、言っておく事に
したのだ。
最後まで聞くと、長谷川はため息を漏らした。
「僕は君には興味がない。だが、君は僕に好まれたいんだろう?違う
のか?」
「違っ……わねーけど…そう言うんじゃない…です」
「なら、なんだ?身体の関係があれば堂々とここに入れる。そう思っ
て来たんじゃないのか?」
「…なっ」
いきなりの事に、言葉に詰まる。
そんな事考えもしなかったからだった。