5話
一番会いたくない人間にこんなタイミングで会うとは思ってもい
なかった。
「何をしていると聞いているんだが?」
「はっ、またお前か!邪魔すんなよ?連れにうちの大学の案内し
てるだけだろ?あっちいけよ!」
「違います!いきなり掴まれて…」
「そうです、俺らさっき来たばかりで…いきなり来いって」
尚弥と一緒に反論すると、林田はすぐに腕を離した。
「ケッ……つまんねーの」
さっきと全く態度を変えるとすぐに帰っていく。
助かった…と思うのも束の間。
会いたくない人間が爽達の方へと近づいてきたからだった。
「あ…あの。なんですか?」
「いや、見て回るならこれを持っていけ。」
「あ…ありがとう…ございます」
案内のパンフレットを渡された。
そこには全体の見取り図が書かれている。
何がどこで何時にやるかまで書いてあったので、助かった。
まさか、長谷川慎司に助けられるとは思わなかった。
そしてパンフレットの端っこに生徒会長の顔写真が貼られていた。
綺麗な女性だった。
「生徒会長って女性なんだな〜綺麗な人だな〜」
「そう…だな」
どうにも納得いかない。
目的を果たすと、爽はそのままバイトの時間になっていた。
「じゃ〜俺このままバイト行ってくるわ」
「もういくのか?」
「あぁ、金を稼がないとならないからな」
「俺はまだ、もうちょっと食ってくわ」
「だろうな!じゃ〜またな!」
尚弥をおいて別れると、急いで駅に向かった。
昼過ぎにやっと着くと賄いまでには、一応間に合ったのだった。
昼からも休みの日は営業していた。
ランチタイムは結構人が来たようだったが、その後のおやつの時間も
最近始めたらしく、まばらだが人が入るようだった。
「昼過ぎも開けるんですね〜」
「あぁ、どこも不景気だからな〜、それにこんなイケメン君がいれば
女子も来やすいだろ?はははっ」
大将はごっつい顔で怖がらせるからと店の奥に引っ込んでしまった。
接客はバイトの役目で、顔で流行らせようとしているにが丸見えだった。
まぁ、そうでもなければ高校生をバイトに雇いはしないだろう。
家の事情があるにせよ、わざわざ学校にも説得に来てくれたほどだ。
本当に感謝している。
「いらっしゃいませ〜…2名様ですか〜」
奥の席に通すとメニューを持って再びいく。
爽は笑顔で接客すれば大体は上手くいく。
顔がいいって言うのはこう言う時に得なのだ。
そして女子なら絡まれる事もあるが、そこは男だ。
無難な対応でなんとでもなるのだ。
今朝の南陵大学でのしつこい林田には少し困ったが、なんとかなった。
バイトを終えると駅前まで来た。
久しぶりに本屋でも…とも思ったが、早く着替えて帰らなければ文句を
言われるのが分かっていたので、急いで着替える。
靴は革靴のままでもがいはないのでそのままでいく。
帰り着くとちょうどお手伝いさんが帰るところだった。
「あ、今朝の朝食美味しかったです。いつもありがとうございます」
「いえいえ、そんな…喜んでもらえて仕事のしがいがあります」
「あのーこの前、お菓子を入れてありましたよね?あれって手作りですか?」
そういえばと、商品表示のないケーキを疑問に思っていたのだ。
「あぁ、あの日は慎司坊ちゃんの誕生日でしたので。慎司坊ちゃんの好きな
ケーキレシピは戸棚の中にありますので、それを作っただけです」
「そうなんですね〜すっごく美味しかったです。今度教えて下さい」
「そんな事を言ってもらえるなんて……ぜひ、お教えします。今日はこれで」
「はい、お気をつけて」
お手伝いさんは本当に親切な人だった。
部屋の片付けも全部一人でやっているのが嘘のようだった。