3話
朝、目が覚めると見慣れぬ天井が映った。
「あ…そっか、俺変な奴のところに来てたんだ…」
背伸びをすると着替えて部屋の外に出る。
なぜか部屋にトイレも完備されているので、はっきり行ってこの部屋
だけで何日かは籠もっていられそうだった。
一応は婚約者なのだから顔を合わせないわけにはいかないだろうと思
うと気が重い。
女性の服は可愛いいが、生地は薄いし足元はスースーして気持ち悪い。
「どうしてこんなもん着るんだ?全く意味わかんねぇ〜」
いつも彩が可愛いい服を見て着たそうにしていたのが理解できなかっ
た。
動きやすい方が楽だろ?
という考えは何かあった時に逃れるように。
という爽の考えだった。
一階に降りると、すでに食事の用意が整っており、慎司が先に食べて
いた。
「お、おはようございます」
「なんだ、起きたのか…」
「え、えぇ…」
「…」
「…」
会話が続かない。
黙々と食べるとスッと立ち上がり出て行ってしまう。
彩と会話するつもりは、はたからない気がする。
まぁそれでもいい。
一年間無事に過ごせるならそれでいい。
あとは彩にバトンタッチすればそれで爽の役目は終わりだ。
それまでは大人しくするのは一番だったからだ。
鞄に着替えと教科書を詰めると家を出る。
朝の残った朝食をせっせと弁当に詰めると家を出た。
高校は共学で男女の制服に違いは少ない。上はシャツが角襟か丸襟
かの違いだし、下はズボンかスカートかの違いだった。
なので着替えもシャツとスカートだけ用意した。ウイッグと着替え
は駅前のロッカーに隠して学校へと向かった。
「おーい、爽ちゃーん!昨日は帰り早かったじゃん?」
「あぁ、ちょっと引っ越す羽目になったかたな」
「えぇ〜引っ越したの?あの安アパート?」
「まぁ〜そうだな…」
「バイトしてるんだよね?足りないなら貸そうか?」
「いや、いいよ。飯さえ食えればどこでも寝れるし…」
学友の伊藤尚弥は爽の高校での友人だった。
爽の親の事も知っていて、気軽に話せる間柄だった。
「そういえばさ〜、昨日見かけたんだけど〜ほらできたばかりのカジノ
前で創士さんと美代子さん見かけたんだけどさ〜」
「また行ったのかよっ…懲りねーな…」
「そりゃ、日本にカジノなんて昔は考えられなかったもんね〜。一攫千
金を狙う人も多いけど…大体は借金作るだけで終わるよね〜」
呆れたように言う。
そもそもカジノは外国からの客用に作られた娯楽施設で、日本国民が遊
ぶ用には作られていない。
依存しない為にと、高い税金をかけて、入るのさえも規制しているのだ。
なのに、あの人達はどういった経緯かよく入り浸っては借金を増やして
いるのだ。
「でも〜体よく追い出されててさ〜」
「コレ以上借金を増やさないで欲しいよ…」
「あははっ、そうだね〜」
今日はバイトの日だ。
朝は朝食があったし、昼は朝食を弁当に詰め込んだ。
夜はバイトの賄いを食べつつ、夜食は家で頂く予定だ。
こんな居酒屋にあのお坊ちゃんが来るわけはないので安心して働ける。
帰りは遅くなってしまったが着替えてウイッグを被ればどこからどう見
ても女子高生だった。
駅で着替えると家へと向かう。
もう帰って部屋で休んでいるのだろうか?
食事は爽の分だけが残されていた。
すぐに駆け込む様に食べ終わると食器を洗って片付けておく。
お手伝いさんは5時には帰宅らしく、クリーンな職場環境らしい。
今日起きてぐしゃぐしゃのシーツも綺麗に整えてられていた。
多分、他にも色々と見られていないだろうか?
不安になる。
が、下着も全部女子用を用意されていたし、前まで履いていた爽の男物
の下着はすでに処理されていた。
親が先に証拠になるものは処分したのだろう。
唯一残ったのは学校に来ていく、制服と体操着だった。
これでは休みに着ていく私服が女性の服しかない。
尚弥に見られたらきっと笑い物にされるだろう。
「いやいや、ないだろ…」
「何がないんだ?」
「ふわぁっぷ!」
いきなりの声に驚くと食べているものを落としそうになった。
「なっ…起きてたんですか…」
「ここは僕の家だ、何をしてようが自由だろう?」
「そ…それも、そうですね〜〜〜」
「どうしてこんなに遅いんだ?部活はしてないと聞いていたが?」
彩に関心があるのだろうか?
少し意外思えた。
「いえ、バイトです」
「バイトだと?する必要はないだろ?」
「ないわけないでしょ!せめて遊ぶお金くらいはないと…」
「何を言っているんだ?先に支度金に百万渡してあっただろ?」
「…は?いくらって言いました?」
聞き間違いかと思った。
多分数十マンくらいだろうと思っていた。
ほとんど服で消えたと聞いたが、違っていらたしい。
百万もどうやって使ったんだ?
それも数日でだ!
「だから、親に渡してあっただろ?聞いてないのか?余ったら彩に渡
しておくと聞いたぞ」
「あの…余らなかったと聞いていますし、私は一銭も貰ってません」
「…どう言う事だ?」
「だから〜、きっと自分たちで使ったんでしょ?そういう人ですよ」
腹が立った。
自分を身売りしておいて、自分たちは貰った金でまたギャンブルで豪
遊していたのだろう。
本当に呆れて何もいえなくなった。