23話
長谷川慎司の申し出に戸惑った。
「ならさ…僕と直接契約しない?」
いきなり言われた言葉に、耳を疑った。
てっきり『出て行け』と言われるとばかり思っていた。
だが、違っていた。
「そのまま彩のままでいて…そして半年じゃなくて僕が成人する
までここにいて婚約者をしていて欲しい」
「いや、いいけど…それだと困らなね〜か?」
「別に構わない。それに彩ちゃんの学費も全部出すよ?それと家
の食事、洗濯、掃除全部する分バイト代も出すよ?どう?」
「いやいや、お手伝いさんいるじゃん?」
「夜食と、僕の散歩に付き合ってよ。どう?」
「それは…ありたいけど…」
お前にメリットねーじゃん?
聞きたかったが、やめた。
せっかくの好条件を取り下げられたら困るからだ。
「それでお前はいいのかよ?」
「慎司。名前で呼んで?それと…彩…じゃなくて…」
「彩でいいよ。その方が周りに怪しまれないだろ?」
「分かった。それと…本当に処女だったのか?」
いきなりの質問に吹き出しそうになった。
「バカっ!男だって言っただろ?童貞だし、処女だよ。ばーか」
笑うとやっぱり可愛く見える。
見た目は男そのものだけど、それでも…慎司の心臓がいつも以上に
鼓動が早い。
彩が男だった。
正確には彩の兄の爽だったのだ。
それでも、一緒にいるとキスしたくなるのは変わらなかった。
「あのさ…キスしていい?」
「はぁ?それは彩だったからだろ?」
「そうじゃなくて…君とキスしたいんだけど…」
最近予想外によく話すようになったし、自分の感情を出すようにな
った。
大学でも、長谷川が変わったという人が意外そうに眺めていた。
前は何にも興味ないようで、冷たくあしらっていたのだが、今はち
ゃんと話せるようになったと言うのだ。
再び女子の熱が再燃するも、何人もが撃沈していた。
告白すると、やっぱり前のように冷たくあしらわれた。
普通に話す分には問題ない。人間と話していると思える。
前はロボットか何かかと思ったほどだったからだ。
「長谷川くん、人間らしくなったね?」
「篠原先輩ってお節介ですよね?」
「そう?なら、労ってくれてもいいのよ?」
「そうですね〜、最近出来た店でもいいですか?」
「何?デートのお誘い?」
「違いますよ?今度彩と行こうと思うんです。下見です」
この冷たさも、今は悪くないと思われていた。
「はいはい、下見でもいいわ。付き合ってもらいましょうか!」
それでも嬉しそうに言う会長を見ると、周りも薄々勘付いている。
叶わぬ恋なのだろう…と。
長谷川慎司は入り込んでいる婚約者とはどんな女性なのだろう?
大学内ではその話題で持ちきりだった。
どうしたらこんなに人が変わったようになるのか?
どれだけベタ惚れなのだろうか?
いや、それ以上にその女性は可愛いのか?
それとも綺麗なのだろうか?
いや、目の前にいる篠原会長よりとは考えにくい。
では、もしかしたらエロいのだろうか?
噂は勝手に尾鰭、背鰭をつけ加えて大きくなっていく。
今度大学の大きな祭りが秋にある。
そこで彩を連れてこようと思っていただけに長谷川は少し心配に
なった。
秋になれば次の生徒会役員人事がある。
確実に篠原会長が退任し、後釜に据えるのは長谷川だろうと言わ
れている。
もちろん、本人から何度も打診があった。
そうなれば、祭りをゆっくり眺めている暇などない。
駆り出された仕事で手いっぱいで、彩を一人にしてしまう。
男といえど、やっぱり気になるのである。
一緒に回りたい。
それは長谷川が一人で考えている事だったが、どうしても家だけ
じゃなく、外でも堂々と歩きたい。
爽はそれを嫌がったが、女装して他の人の目に触れさせたくない。
と言うのが長谷川の考えだった。




