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天の声が紡ぐ恋



「いっ……」


「ん…?」

 

「……っい加減にしろよこの青二才がッ!!!!私がその顔に弱いって知っててやってんだろ…!!あ゛!?てか、望み通りの人生だぁ!?!?どこがだよその無駄にいい記憶力で私が言ってた言葉をもう一度よぉぉぉく思い出せッ!!! "維澄が選んだ人" が私な時点で、前提から大きく狂ってんだろうがッ!!!!」


 一思いに今の気持ちを爆発させた私は、取り戻した指質をもう二度と取られないように右手で防御しながら、肩で荒く息をする。

 

そう、お察しの通り私は決して育ちのいい女では無い。子供の情操教育の為に日頃維澄の前では封印しているが、当然のごとく口が悪いのである。


「ふっ。あははっ。"保護者の顔"をかなぐり捨てた羽紡、久々に見たけど、何回見ても唆るね。最高」

 

「……チィッ!くそがっ!気持ち悪いこと言ってんなよガキ!へらへら笑うなッ!勝利を確信したニヒルな笑みを浮かべるなっ!!!!っこんの腹黒スパダリバカ息子がぁぁぁぁあああーーーー!!!!!!」


 

「……スパダリ…?へぇ〜。羽紡からそんなこと言われるなんて初めてだ。異性として意識してくれた進展の証だね。うれしい」


怒りと焦りと羞恥でさらにボロボロと本性をさらけ出しているのにそれをものともせず、それどころか誤魔化すための"偽物の怒り"であることを当然のように見抜き――


腹黒とバカ息子をすっかりスルーして、心の底から幸せそうにはにかむ笑顔は、どこか幼い面影を残した、私の大好きな笑顔で――



 こんな顔されたら、全力で拒める訳が無い……



維澄のことがそもそも人間として大好き、いや、長い月日を共に過ごしてきたせいでもはやその欠点さえ愛しく思ってしまう私は、この戦いにおいて圧倒的に不利だ。勝てない。今ここで決着をつけようとしたとて、当たり前のように長期戦でかかってきている相手に勝つことなど、できない。



では、どうするか。


ここは、戦略的撤退しかない。

 

――維澄だけじゃなく、私だって景子さん直伝の"勝てない勝負はしない"主義だ。





 


 その後、ひたすら「かえれ」という言葉しか発しなくなった私を仕方なさそうに見て、「今度はまたうちに来てよ。羽紡が好きなチーズグラタン作って待ってるから」とわざとらしくほんのちょっとの寂しさを滲ませて笑った維澄を部屋から追い出したあと、私はひとり今後の作戦会議に突入した。


面会謝絶?会話断絶?ありあり。おおありだ。


可愛い維澄に冷たくするなんて嫌だと親心は叫ぶが、そんな甘いことは言ってられん。維澄の人生を大きく覆すことになる緊急事態だ。なんでもやってやろう。そっちがその気なら、私だって好き勝手やってやる――



 


 戦略的撤退を決めたこの日以降、ひとり脳内会議で出た作戦を元に、なかなかこちらの精神的に来るものがある強硬手段を取れるだけ取ってみるものの。


 確かに景子さんのDNAを感じさせる知略と用意周到さ、大胆不敵さと、そしてどこまでも落ちてしまえる柔らかな優しさを以てして、私の頑なな心は徐々に陥落していくことになる――




 あぁ、景子さんどうしよう。あなたの笑顔に決して私が勝てないように、あなたの息子の笑顔にも、どうやら私は激弱みたいなんです。あなたの宝物は、私が幸せにするだけじゃなくて、私も幸せにしてくれるなんて、そんな可愛くて憎らしいことを言って来るんだけど……こんなに良い子に育ったのに、私と一緒になって、本当にいいのかな――



『いいぞぉ〜維澄っ!それでこそ私の息子!もっとガンガンいっちゃえ!初恋の羽紡ちゃんを狙い落とせっ!!あ、わかってると思うけど、もちろん、羽紡ちゃんのこと幸せにしないと、許さないかんな…??』




そう、メガホンを手にノリノリで応援したあと、実の息子にドスの効いた声で脅しをかける天の声が、確かに揺れ始めている私の耳に、届けられた、気がした――――

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

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