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俗に言う恋人繋ぎ





「私は、維澄との関係性が変わるのが、怖いんだよ……だって、世間一般で言う恋人って、ずっと一緒に居られないことの方が多いじゃん……私、生きてる限り維澄とずっと一緒に居たいし…予定では、維澄が選んだ人と、しっかり幸せになってくれる所を眺めて、景子さんに代わってちゃんと維澄の子供までこの腕に抱き締めたいって思ってるし……なんならあわよくば維澄の孫も一緒に愛でる人生設計だったし………まぁ、私の勝手な願望は置いといて、もし仮に維澄と恋愛関係になったとしても、そのあと上手くいかなくて、ギクシャクしちゃって、もう二度と維澄と会えなくなったりしたらって……考えるだけで、寂しいよ………」


 そう。維澄の将来のためとか何とか言っといて、私は結局、夢にまで見た「家族」を失うことが怖いだけなのだ。何があっても、決して揺らがないと思っていたものが、今維澄の一言でいとも簡単に揺らいでしまっていることが、ひどく恐ろしい――


 なんて、自分勝手なのだろう。


 

「……はぁ。なにそれ。可愛すぎ」


「はあ゛あああああ……!!??」


 大人らしい建設的な会話を、なんてしおらしい意識は吹っ飛んだ。木っ端微塵だコノヤロウ。かわいい…??なにが?今のどこらへんが?大人のくせに情けない自分勝手な本音と願望を語っただけだが???


「ねぇ、羽紡。さっき言ってた将来設計には、羽紡の幸せは含まれてるの?俺の幸せを、ただ保護者として見守っていくのが、羽紡の幸せ?でもさ、ごめんけど俺、そんな幸せは羽紡にあげられないよ。だって、俺は羽紡がいないと幸せになれないし、俺が羽紡を幸せにするつもりだから」


この子は、当たり前みたいなどこ吹く風顔して、何を語ってくれてるんだろうか。その愛情過多による殺し文句は、本当に私の心を殺すことになると、知っているんだろうか――?


 

「今の、名前の要らない関係性っていうのも特別感があって嬉しいけど、俺はそれじゃ満足できないの。羽紡の、唯一になりたいんだ」


 

「私の、唯一……?」


「うん。それで、いつか羽紡にも俺の唯一になってほしい」


「維澄の、唯一……」


「だからさ、本当に俺との未来を考えられないか、これから一緒に確かめてみてもいい?羽紡がひとりで考えたところで、変わんないだろうから」


「た、確かめるって?一体なにをどうやって……?」


「まずは…」


そう言って維澄は、まだ混乱から抜け出せないでいる私の手を、なんてことないようにさらっと繋いだ。あらまぁ懐かしい。3人でテーマパークに行った時、年下のくせに生意気にも私が迷子になりそうって言って繋いできたのが、最初で最後かなぁ。


 そんな温かい在りし日の記憶を思い出し、さっきまでとは打って変わって、どこまでも安心出来る温もりに包まれているような気分になった。ちょっと落ち着いてきたかも…


「嫌じゃない…?」


「嫌なわけないじゃん。懐かしいね」


「なら、次はこっち」


そうして維澄は、その温もりが離れないうちに、指と指を絡めて、さっきよりもしっかりとした力で手を握ってきた。


 こ、これは、俗に言う恋人繋ぎか…!


 思い出すのは、社会人3年目の春のこと。維澄も無事大学に入ったし、ちょっとお試しで付き合ってみるのもありかなぁと、緊張しながら告白してくれた、取引先として知り合った一個年下の佐藤くんと繋いだ以来だ……


 結局、初めてのデートの途中でお花摘みに行って戻って来たら、なぜか「……僕には、僕には無理そうです!ほんとにごめんなさい!」と走り去って行ったっきり、なんの進展もなかったんだけど……あの優しいタレ目が印象的だった、気の弱い佐藤くん……穏やかな彼が突然悲痛な顔で叫び出すものだから、ショックとかいうよりただただ度肝を抜かれた記憶がある。なんか、わかんないけど私が何かやらかしたんだろう。ごめんね…どうか彼が今もどこかで幸せでいてくれますように。南無。


「これも嫌じゃない…?」


 これまた在りし日の記憶から私を引っ張りあげたのは、どこか不安そうに揺れている維澄の瞳。ヘーゼルに少しオリーブが入ったような、綺麗な薄い色彩をしている。私が大好きな、景子さんと維澄の色だ。

 

「うん。別に手汗を気にするような間柄でもないし、全然大丈夫」


「良かった……じゃあ、次」


 お次はなんだい。


 私は、その瞳を見つめたまま、3人で過ごした穏やかな記憶を思い描いていて、完全に油断し切ってしまっていたのだ。


「……抱きしめていい?」

 

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