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青天の霹靂




 はて――?



 今この子は、なんと言った?



 

〜〜色を取り戻しつつある頭の中で、Replay〜〜



 

 "はつ、おれとつきあってください――"


 そうだ。確かそう言っていた。


はつ、は、私だ。羽に紡ぐで羽紡。慣れ親しんだ私の名前。じゃあ、付き合ってください、は?


どこに?なんてさすがに言わない。この年まで生きてきたのだ。経験は無いとはいえ、察せるものは察せる。


でも、だけど、それが意味するところは、すなわち――――

 

 

「俺の、彼女になってください」



必死に脳内フル活動させている私を慮ることなく、より直接的な攻撃を与えてきた。無情にも、ポカーンと開かれたままのこの間抜けな口に、より徹底的で直接的な言葉をぶち込んできたのだ。私の聞き間違いでは無いといことを知らしめるかのように、ゆっくりと――



 なにこれ。なんなのこれ。こんなの。意味わからん。いつのまにか低くなっていた、やけに耳に心地いいその声が、今は全く心落ち着かないものに思えた。景子さん、たすけて。おたくの息子が、なんか訳わかんないこと言ってる。


 

「……あー、やっぱり。訳わかんないって顔してる。今まで欠片も勘づいてなかったんだよね…?と言うか、恋愛対象だなんて欠片も見なしてなかった、が正解か……なら、信じてくれないでしょ?さっき俺が言ったこと、ちゃんと忘れてくれてた?……まぁ、俺にとっては全てなんの問題もないから、ずっと忘れてくれててもいいんだけど」


「いや、いやいやいやいや、ちょっと待てい。一旦落ち着こうか。ん?んん…?私が、維澄の……?いや、ないないない、どう考えてもあんたと私は、違うでしょう?弟っていうのも友達っていうのもしっくり来ないけど…でも景子さんを差し置いて母親って名乗るのも烏滸がましいし……まぁその点に関してはさすがにまだギリ20代のなけなしの矜恃が無きにしも非ずなんだけど……いやでも、恋人…っていうのは完全に予想範囲外と申しますか……それこそ青天の霹靂と言いますか……………」


 ちがう。混乱のあまり色んなことを口走っているが、私が伝えたいのはこんな、しろどもどろはよせ、ハッキリしろ!と言いたくなるような言い訳じゃない。そう、大事なのは、私と維澄の間にある関係性のネーミングではなく、もっと根本的な問題なのだ!


「世界には、もっといい人がたっっっくさん居るんだよ、維澄!!!中高一貫の男子校に通って、やっと大学に入って青春を謳歌するかと思ったらまた男だらけの理工学部で、維澄が出会った女性の数なんて、世界規模で考えたらミジンコクラスなんだからねっ!?だから、目を覚まして!そう!!そんな簡単に世界を諦めるな、少年!!!」


 そうだ!私が言いたかったのは、これだ!何も私にすることは無い。まだまだ若いんだから、もっと広い視野で、もっと広い世界を見ろ!言いたいことはそれだけだッ!!!!


 自分がほんとに言いたいことを言葉にできたら、先程までの混乱も少し収まるというもの。はぁー、スッキリした。

 

「……はぁーー。あのさ、羽紡。俺はもう少年なんて歳じゃないんだけど。それに、また脈絡吹っ飛ばしすぎ。一方的に意味不明なこと喚いて勝手に落ち着かないでよ。俺は、例え世界にもっといい人が居るとしても、この先、誰に出会ったとしても、一生羽紡しか好きになれない。羽紡しか愛せないんだよ」


「…ウっ……ぅうおいっ!あっぶないなぁ!いきなり砂糖を吐くなっ!撒き散らした砂糖をその形のいい口にしまえ!三十路が死んでしまうだろう…!!!」


その母親譲りの美麗すぎる凶器のような顔面で悩ましい表情の元そんな艶っぽい声で告白なんぞしてこないで欲しい。あぶない。恋愛のれの字もなく29年生きてきたこの命が枯葉のように吹き飛ぶところだった。

 

「……だからさ、年齢がどうとかそんなのどうでも良いんだって。羽紡にどんだけ欠点があろうと、俺には全部愛おしく見えてるからなんにも気にしないで。世間体も、常識も、何も信じないで。ただ、俺が羽紡を愛してるってことだけ、信じてくれない?」



こんな、本気の目を見てしまったなら――


そして、仮にもしそれを受け入れてしまったなら――


私は、もう一瞬前までの、忙しいけれど平和で充実した、安穏とした世界には、戻れなくなる――

 


もう、軽いノリでは誤魔化せない――


 

そう悟った私は、大人しく大人らしい建設的な会話に励むことにした。



きちんと、本心を添えて。


 

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