絵に描いたような
現代ものの年の差ラブストーリーです。
高校3年間の評定と養育者の収入、将来どんな人生を送りたいかという長文レポートを提出したのち、見事選ばれるに至ったとある一般企業からの給付奨学金。それに合わせて大学の授業料減免制度も利用し、家庭教師のバイトをかけ持ちしながらなんとか手に入れた、六畳一間のワンルーム。麗らかな4月初旬、私は憧れの一人暮らしを始めた。
大学の初日の講義を受け終わり、愛しのマイスイートルームへるんるんで帰り着く。すると、隣の部屋の玄関前でランドセルを机に勉強している男の子を発見した。
うわぁお。お隣さんだ。
ひとり暮らしだし、ご時世的にもしない方がいいだろうと近隣の挨拶回りなどはしなかったため、今回が初遭遇である。いつかすれ違ったらその時に軽く挨拶くらいさせてもらおうかなと考えてはいたが、まさかこんな状況で目撃することになるとは。子供が廊下に座って勉強しているだなんて露ほども想定していなかったため、かなりびっくりした。
まだ明るい時間ではあるけど、そのまま見過ごすことも出来ず、少年の傍にしゃがんで声をかける。
「こんにちは。なにしてるの?」
「……課題」
ちらっとこちらを一瞥した後、すぐに問題集に戻されたその顔は、まさに絵に書いたような美少年だった。無愛想さも、絵に書いたようなそれだけど。
色んなパターンで思春期を拗らせて来る下の子たちと生活していた私からすれば、不遜な態度なんてあらまぁかわいいといったものだ。
「鍵を忘れたのかな?」
「……見たら分かるでしょ」
小学生とは思えない鋭利な視線と言葉で、傍迷惑そうな空気と話しかけるなオーラをビシバシ飛ばしてくる。うむ。偉いぞ少年。防犯的には、そのくらいの対応が丁度いい。
この辺は、私が通っている大学の他にもいくつかの学校があり、その他にも多くの企業が軒を連ねる地域のため、治安はとてもいい方だ。だがしかし。まだ肌寒い春先のこの季節に、子供がひとり外で親の帰りを待ち続けていると思うと、とてもじゃないが部屋で寛ぐことなどできない。
余計なお世話かもしれないが、私の心の衛生的にも、好きなように過ごさせてもらおう。
ガチャり。と一度鍵を開け、教材やパソコンなどが入ったトートバッグを置き、高校時代から愛用しているジャージのズボンにサッと着替え、すぐさま読みかけの小説とポテチを手に取って外に出た。
ガチャり。
「なんで戻って来たんだ」と口にせずとも伝わる少年からの不審そうな視線など、私は気にしない。ここは私の城でもあるのだ。苦労して手に入れたマイスイートルームの玄関前で私があぐらをかいて小説を読もうが、寝転がってポテチを食べようが、自由なのである。
そうして、それ以降少年とはなんの会話もないまま ――私が途中で麦茶を取りに行ったり、お腹が鳴った少年にポテチの袋を差し出して餌付けしたりはしたものの――マンション前の廊下にはただひたすら少年が走らせる鉛筆の音と私が捲る本の紙の音が響き続け……
日も暮れかけた夕方。カッコイイ黒のスーツに食材の詰まったエコバッグを引っさげ、まんまるに開いた目でこちらを唖然と見つめる景子さんに、私は出会った。