244.事故? それとも
「んー、可愛い!」
疲れる………。
「夫人、リリーの顔が死んでる」
そう思うなら助けてよ。
「抱き締めてるのをどう助けろと」
「止めてよ」
「めんどい」
『止めろ』
「人形が喋ってる風だと途端に口悪くなるの止めろ」
本音が出てるだけだから。
そんな話をしていると、侍女たちが入ってきた。
「……奥様、ゼクトを少し借りてもよろしいですか?」
「大丈夫よ」
なんか嫌な予感がするため、腕の中から抜け出して部屋の端の方へ行く。
「それで、どうしたの? 皆して」
「奥様、それは悪魔です。奥様を呪ったのもそれです」
「この子は私の子よ?」
「成長を止めて死んだはずの子どもが生き返って成長するはずありません!」
私が生きている理由を知っているこの人と知らないこいつらでは話は平行線だ。
「奥様はこれに惑わされています!」
「誰が何と言おうと、この子は私の子。それ以上はあなたたちでも許さないわ」
珍しく怒っている様子。
この人怒れるんだ、と場違いなことを思っていると、標的が私となっていたらしい。いや、元々私ではあったんたけど。
「お前さえいなければ!」
この人に怒られて思考が鈍ったのか、元々するつもりだったのか。その場にいたバカたちが刃物を投げてきた。とは言え、短剣などではなく、フォークやナイフなど。当たったところでかすり傷だろうが、やられるだけな訳がない。
「なっ……!」
魔法で全て受け止め、返してやる。
ただ、誤算が起きた。
「っ!!」
「………は?」
何故か、そいつらから離れた場所にいたはずの母親が、そいつらを庇った。
訳が分からない。何故庇う?
魔法で返したため、もちろんそいつらが投げたときよりも速度も違えば刺さったときの深さも違う。
母親の背中から、血が出る。
助けなけなきゃ。
「奥様!」
「急げ!!」
バタバタと音がするけれど、気にしてなんていられなかった。
「…なんで」
「………ごめんね」
近付いてきて、抱き締められて。
まだ温かさは感じられた。でも、そうじゃなくて。
「……ごめんね。こんなお母さんで。ダメなお母さんで、ごめんね」
うわ言のようにそう言ってくる。
早く止血しないと。じゃないと。
「元々、後ちょっとだったから、もう、意味ないよ。ごめんね。こんなの、見たくないよね」
「……なんで」
「ごめんね。ちゃんと、あの子と一緒に産んで、あげれなくて。辛かったよね。お兄様たちの、言うこと聞いてれば、もっと、幸せだった、はずなのに。私の我が儘で、ごめんね。ユラエスにも、あの人にも、最後に会いたかったな」
人は死を自覚してはいけない。それは、命を諦める行為だから。だから。
「リリアナ、きっと辛いこと、まだあるだろうけど、大丈夫。あなたは、たくさん、優しい人たちに、会えるから。皆と、仲良くしないと、ダメだよ? あの人も、ユラエスも。会えてないけど、あなたのこと、大切にしてくれるから。だから」
幸せになって。
そう言って、糸が切れた操り人形みたいに、動かなくなった。
脈もない。息もしていない。
このとき、初めて自分がこの人を殺したのだと自覚した。
アメリアにはもっと出てて欲しかったけどグダる気がしたので無理やりやってこうなりました。アメリア、すまん………。




