240.死の王
前半リリアナ視点、後半ちょこっと(?)ゼクト視点となります。
『そんなこんなで悪いが、お前たちを呼んでる』
「誰が?」
『森にいる「死の王」だ』
死の王。聞いた、と言うより見たな。神族が作った人工生命体。それが森にいるのか。
「………隠れてたか」
『人の前に出るのは少なからずリスクを伴う。理解してくれ』
それは分かってる。どっちかと言うと、約二年半も私たちが気付けなかった程のレベルの高い魔法が知りたい。
「最近のリリー、知識欲旺盛だね」
「旺盛、なのか?」
『貪欲の間違いだろ』
聞こえてるからね? 私の方が君らより魔力多いんだからね? やろうと思えば君らのこと結構好きにできるんだからね?
「リリーが拗ねるからさっさと行こ」
拗ねてない。そう言っても訂正されることがないのは知っている。
向かった先は私たちがよくいる森の大樹のところ。
「………上か」
日の光を遮る巨大な影。
降りてきたのは、漆黒の竜だった。全身が黒い鱗で覆われ、瞳は黄色に輝いている。
「思った以上に大きいな」
『はじめましてだな。神子』
「呪い子の間違いでしょ。これを祝福と呼ぶのはあまりにも残酷じゃない?」
神子。神に祝福された子ども。不老不死を祝福と呼ぶのは、あまりにも酷いだろう。老いることも死ぬこともない、永遠の命。多くのものが欲しがるこれは、持っているものからすれば呪いだ。
もし、自分の周りのものが全員死んでも、自分だけは生きている。どれだけ苦しい思いをしても死へ逃げることができない。
『祝福にも種類がある。知恵の祝福もあれば、子のように不老不死の祝福も』
外れ枠引いたのか……。
『子の「泉」も祝福の一種だ。悪いものばかりではないだろう』
「多少はね」
魔法を使えるようになって、実験とかかなりやってるけど、魔力切れを起こすことはほとんどないから、それだけは便利かな。
「それだけのために俺らを呼んだのか?」
『いや。お前たちに別の話がある』
「別の話?」
『兄の方は既に「秘術」を継いでいるだろう』
兄が秘術を?
「………一応、やりはした」
『子よ。あれは得るものと失うものを選ぶ。もしやるとしても、失うものの価値を考えろ』
得るものと失うもの。………兄は何を得て何を失ったんだ?
「……リオ、リリー。ちょっと死の王と話したいから先帰っててくれ」
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リオとリリーには言って先に帰ってもらった。
「ほら、さっさと話せよ。俺に用があるんだろ」
こいつが俺らの前に姿を見せなかったのはリリーに会うのに気が引けたのもあるだろうが、八割は俺だろう。
『……何故、従者の真似事などしている』
「リリーの伯父に拾われたんだよ。今は孤児だ。それに、ここならリリーの婚約者としても暮らせる」
迷惑はかけるだろうが、俺は昔よりも今の方が気楽で良い。あっちもあっちで、俺がいなくても十分回る。
『あの子を悲しませるな』
「それを、リリーから兄を奪ったお前が言うか?」
リオは秘術の代償で命を差し出した。それで得たのは妹であるリリーの命。
「悪魔だろうと神だろうと、死を覆すのは禁忌。お前は、自分の主を生かすために、自分の主が大切にしている兄の命を奪った」
死を覆すことを可能とする存在たち。
そいつらのうちの一人。自身を定義せずに亡くなった少女から「死を司る力」を引き継いだこいつは、リリーを生かすためにリオと交渉し、契約を結んだ。
「せいぜい足掻け。俺は知らん。元より、俺の関心はあの子にある。あの子の造ったお前らにはないんだよ」
だから、俺を頼るのはお門違いだ。
ゼクトの「関心」のところを「感情」にするか「愛情」にするかで悩んだ結果、「感情」になりました。ゼクトと死の王の会話の詳しい部分は後々。