228.逆行人との出会い
ある日、ゼクトは誰かに呼ばれてしまったため、兄と一緒に森にいた。普段ここで過ごすから、大抵の地形は把握できている。
この森には、人が来ることはほぼない。入れば二度と出ることができないと言われているらしいから。
けれども、
「…………! 誰!?」
急に現れた人の気配に、兄が警戒し、私も一歩後退りはするものの、警戒する。
「………誰」
「あ、えと」
十三から十五程の女の人。
言葉を詰まらせ、焦っている。
「私、日奈」
「ヒナ?」
服装から、貴族なのだろう。だけど、何故ここに。
「……にぃ、大丈夫」
敵意はない。そこまでの脅威もない。あるとすれば、異様な魔力だけれど、問題ない。
「…………シアがそう言うなら」
兄も警戒を解きはする。
「何してるの?」
「…………にぃは人と会っちゃダメだから」
「ふぇ?」
「にぃと人前で話すと、怒られる……」
できるだけ他の人みたいに、流暢に話すことはできる。長くはないけど。
「そりゃあ、シア。誰にも見えない相手に話してたら正気を疑われるだろ」
「見えてる人居るよ?」
「特殊なんだろ」
兄は人に認識されない。死んでるから。私が見えるのは魔力の共有を行っているから。ゼクトは普通に見えるらしい。原理は知らない。
「………ねぇ、にぃ。分かってないっぽいよ」
「そりゃそうだろ」
普通は理解できないだろうね。知ってたけど。
「どうするの?」
「……………見たところ、逆行人だろ」
逆行人。確か、時間の捻れに入ってしまい、過去か未来、どちらかに干渉してしまった存在。もしくは、世界の意思が何かを変えるために送る存在。
「知らなくて良い」
「あ、はい……」
「………」
魔法でいろいろと調べてみるけれど、よく分からない。
「俺はルグ。こっちは妹のシア」
「よろしく」
「あんたは逆行人と言って、簡単に言えば迷い人。どうやって来たとかは分かんないけど、シアが警戒しないのは珍しいし、特にどうこうする気はないよ」
念のため、こっちの名前を使う。
「逆行人はいろいろな例がある。街を歩いてたらだとか、寝ていたらだとかな」
「あれま……」
「寝ていてなら、目が覚めれば良い。歩いてたとか言ってる奴はいつの間にか帰ったとか言ってたな」
全部、母親の記憶覗いて知ったことだけどね。
「それまでは、まぁ。ゆっくりしな」
「…………」
「ごめん。シアちゃんの視線が……」
……さすがに見すぎた。どうにかならないかと聞かれたけど、私的にこの人気に入ったし。
「シア」
「………」
「気に入ったのは分かったから」
「……………」
「それは本人に聞こうか」
視線だけで兄に伝えると呆れられた。
良いじゃん。ゼクトも兄も男だし、女の人の話し相手欲しいんだもん。
「………ヒナねぇ」
「愛いのですが?」
「シア、良いって」
やったね。
「さて、そろそろ時間っぽいな」
「へ………?」
「多少時間が歪んでる。また会うかは知らんが、そんときはそんときだ」
「じゃーね」
ヒナねぇは帰っていった。というより、消えた。まぁ、帰ったんだろうけど。
「なーんか不思議な奴だな」
「ね」
今回はかなり前にアイリス視点で書いたもののリリアナ(シア)視点でした。