196.意外な言葉
「お前とユラエスはいない。アメリアはベッドから起き上がれない。姪っ子殿はちょうど良いストレス発散場所だったろうね。自分たちが初めて会ったとき、それはもう警戒心が強かったよ」
言葉の節々から嫌みが伝わってくる。
メルトさん、本当に公爵のこと嫌いなんだな……。
「だいたい、お前らがさっさと親権を放棄すれば良かったんだよ。扱えないで放置するなら、手放せば良かったんだ」
「あの子を物みたいに言うな」
「じゃあどうするの? 姪っ子殿、もうとっくのとうに人を殺してるよ? まともに顔も合わせないのに、姪っ子殿を制御できるの? 今更?」
リリアナが、人を殺してる?
話が呑み込めない。だって、リリアナとはほとんど一緒にいる。人を殺す素振りなんてない。
「姪っ子殿とは契約を交わしてる。もし、彼女が契約を満たせなければ、悪いけど強制的に彼女の籍は消させてもらう」
「そんな勝手な!」
「これでも譲歩してる。姪っ子殿も知っている。言われてないのはそんだけ信用されてないってこと」
話すことは終わり、と先生を叩き起こす。
「シエル、起きて。帰るよ」
「…んぁ? 姪は」
「リオに呼ばれてた。さっさと帰るよ」
「なんか機嫌悪くね?」
メルトさんは先生を無視してさっさと帰ってしまう。気まずい空気を感じたのか、慰められる。
「………あー、メルトの言ったことはあんま気にすんな」
「…お前がそう言うときは、大抵気にすることがあるときだろう」
「何聞いたかはしんねぇけど、お前がそうなってんなら姪のだろ? メルトが言ったのも事実だろうが、別に姪はお前を嫌ってねぇよ」
先生の口から出た意外な言葉。追撃するのかと思っていた私たちは虚をつかれた。
「姪は本当に拒絶すんならハゼルトにとっくのとうに来てるだろ。俺らがどんだけ言ってもそっちいるのは姪もお前のこと嫌ってないからだろ。好きなのかと言ったらどうかは知らんけど。普通に分かれ」
いや、分かれと言われましても………。
確かに何度も先生たちの提案断ってたっぽいし、公爵を嫌ってる訳ではないって話を聞いて分かってはいたけども。
「じゃ、これからやることは俺に関係ないから」
先生はそう言って出ていく。
「………時間…」
「リリーのは取れるから公爵休み取れ」
「シエルたちのが全てこっちに来ていて終わらん」
「……それ、私が泣いてきた人たちにゼルメルに案件渡すよう言いました」
サーフェルト公爵、止めてあげてください。
リリアナの時間は大丈夫として、公爵か……。
「休み使えよ」
「……あー、あったな。そんなの」
「帰る機会ないから忘れてましたね」
社畜か! 少しは休んでください!
「大変だなぁ……」
ニーチェル公爵が他人事なのは何故。
「お父さんはまぁまぁ帰ってくるよね」
「月一で絶対帰ってるからな。バカは一回、家に帰らなすぎて妻に実家に逃げられてたし」
「う………」
「帰らなすぎたら子どもに興味無くされるし」
「うぐ……」
「放置し過ぎて帰ったらかなり驚かれたり」
「………」
「こんなダメな例が三人も近くにいれば帰るだろ」
しっかり家のこともやってください。そこ三人。
妻に実家に帰られた人は仕事を放り投げて泣きすがって戻ってきてもらったとか……。