170.迷惑
カラシャ視点となります。
「…………うざい」
全部入る前に殺したけど、多すぎてムカつく。
一、二、三…………全部で三十。前回の二倍か。
「やっぱお嬢様だよね」
彼女の力は恐ろしい。無意識による抑圧と支配。自分に適正のある者かを自分でも知らない間に確認して切り捨てているんだから。
「お嬢様のあれは本当にすごいよ。シエルとメルトの二人で慣れてたはずなのに」
さっきまで彼女の無遠慮の魔力に当てられていたせいで、手が震えている。
「………これがねぇ」
シエルたちの理解者となってから、伯爵家次男としてではなく、二人の友人として扱われ、必要だから暗殺技術なども教わった。二人の近くにいるから、必然的に魔力への耐性も強くなった。なのにこれだ。
ハゼルト最高傑作。メルトがそう言うのも頷ける。
「これ酷いな。もうちょい時間かかりそう」
シエルが中和してくれてもこれだ。本気出されたらひとたまりもない。用心しないと。
「やっぱり部外者はダメだね。耐性を付けたところで意味がない」
これが血縁であるゼルメルやユラエス君ならまた違うんだろうね。ハゼルトの血を欲しがるバカたちの気持ちが少しは分かるよ。
「………カラシャ様、主より言伝です」
「ん、どうしたの」
「あちらが動いたと。念のため、今からご準備を」
「了解。君たちの主に『お疲れ』って言っといて」
もしかしたら、自分の主に矛先を向けるかもしれないのだ。労いくらいするべきだろう。
「カラシャ様も、お気を付けください。あの方のお力を耐えるのは至難ですので」
そう言って去っていく。
それにしても、あの方ね。彼女が裏で大切にされているのがよく分かる。令嬢であるのにまったく令嬢らしくないうちの姪とはまた別の意味で令嬢らしくないのが彼女だ。
「………これどう処理しようかな」
目の前に広がる血溜まりを見て、さっきのに片付けてもらえば良かったと後悔する。後片付けは苦手なのに。
しばらく考え、放置することにした。
こういうのは、できるのに任せるのが良い。
朝になって一般人が見つけても、それはそれで楽だ。何もする必要がないし、隠れ蓑になる。あるとすれば、ゼルメルたち上からの呼び出し説教くらい。どうせまともに聞いてないから時間食うだけで非効率だ。
「呼子だけ鳴らそうかな」
あいつら用の言い訳を作っておこうと思い、一応持ってた呼子を鳴らして離れる。
警備隊が来ても来なくても問題なし。
「………あれ、結構早い」
走ってくる音が複数。警備隊が来てる。さっさと逃げよう。
次の日、皇宮に呼ばれて叱られた。魔力は一切使ってないのにどうしてバレたんだろうか。
カラシャの仕業と判断されたのは、魔法を使わずにカラシャが作った状態を作れる人が少ないからです。あと、普段の適当さからです。
第三章、これにて完結! 次回から第四章三学期に移っていきます。