168.古い友
王太子視点です。しれっと魔界まで行ってます。
「彼女の本質って、何だと思う?」
「………急になんだ」
久しぶりに帰って友人の部屋に入ってのんびりしている。
いやー、やっぱりここの空気は美味しいね。
「つか、不法侵入してくるなよ」
「良いじゃん。俺らの仲だし」
「人に全部投げてった奴が何か言ってんな」
んー、酷い言われようだ。
カトラル……今はヴァーミリオンだっけか。いつになってもこいつは苦労人だな。
昔はやりたい放題の俺たちをまとめて、今はいなくなった皇子の代わりに仕事して。
………想像以上にハードだな。あいつがいれば楽だったろうけど。
「つか、いるなら手伝えよ」
「えー、書類仕事パス」
「時期国王がそれで良いのかよ」
優秀な部下がいるからね。それよりも、
「彼女、死んでるよね? 正確には、一度死んでる」
「…………お前が他人に興味を持つなんて珍しいな」
「だって気になるじゃん。『魔力の泉』なんて」
生き物にはそれぞれ、器がある。
その器には満杯の水が入っていて、その水が魔力、器は身体。器から水が溢れることはなく、使うときは器から必要分の水を掬う感覚だ。
それを『魔力の泉』は無視している。
器から止めどなく溢れる水。そして器の下で水を受け止めるまた別の器。常に満杯であり、枯れることがない。まさに泉。それを人間が耐えきることなどできない。だからこそ、再従妹殿は一度死んでいるはずなのだ。
「一度器を壊し、新たに形成しないと耐えきるなんて無理だろ」
「…………それは学者としての意見か?」
「そうだね。『魔力の泉』に耐えきれる存在を俺は知らない。あるとすれば、龍王の子ども。人間では不可能だろ」
まあ、その龍王の子どもも、もう死んでるんだけどね。俺もその子どもが生まれる前に死んじゃったし。
「見たかったな、龍王の子ども。あーあ、あんとき簡単に死んじゃったからなぁ」
「それはお前の不注意だ。俺のせいじゃねぇぞ」
「知ってる。でもフローリアとかバカみたいに泣いてたじゃん」
「あれはまあ。仕方ないだろ」
仕方ないとか言ってるけど、お前無理だとか言ってすぐに俺のこと切り捨てたの覚えてるからな?
「守護者ってそんな特別なのかね」
「…………嫌みか?」
「だってあんま知らないし。世界樹と守護者のこと」
魔界と天界の境にある浮島の中央にある大樹。世界を管理してるだのなんだのとか。まあ、興味ないけどさ。その守護者とやらが、こいつらしい。
「別に特別なことは何もしないが、何が起こってるのか誰に聞くでもなく把握できるのは利点だな」
「それ、君の天使にも適用されるの?」
「ない。俺が守護者なだけであって、あれは他だからな」
…………こいつは、元神族。だからこいつの天使も守護者の役割があると思ったけれど、違うらしい。
「…………他人を道具として見るのは変わらずか?」
「問題ないだろ。そう見ててもどうせ勝手についてくる」
こいつ、本当に再従妹殿に似てるよね。
「じゃ、俺帰るね」
これ以上いると殺られそうなため、さっさと逃げる。
勝手に出てきたけど、あっちじゃ何日経ってるのかな。やばい、怒られそう。