167.魔術師たちの会話
フェミル視点となります。
「ねえねえ、あの子大丈夫なの?」
「貴様はほとんどをそう呼ぶから誰か分からん。全てをそれにまとめるな」
「ゼロちゃんよ。もうそろそろじゃない」
「まだ時間があるだろう。それに、十中八九問題ない」
第三魔術師、ヘヴンは良く分からない。
男であるのに女のように振る舞い、それでいて男としての実力をはっきりと示す。
女になろうとするのなら男を捨てれば良い。
男でありたいのであれば女のような振る舞いをしなければ良い。
意味の分からないこいつと話すのは、非常に疲れる。それに毎度ながら答えを返す私も、似たようなものか。
「なんでそう思うの? 心配じゃないのかしら」
「心配ではあるが、あれは手を貸されることを嫌う。ならば何もしないが正解だ」
「そう………。あなた、いつもそんなんじゃつまらないんじゃないかしら」
こいつは毎度ながら、本当によく私に突っかかってくるな。あれか、かまってちゃんと言うやつか。面倒でしかない。それは子どもがやるから良いのであって、千越えたジジイがしても気持ち悪いだけだろう。
「誰がジジイよ!」
「貴様だ貴様」
心を読んでそう言うということは自覚があるのだろう。見苦しい。
「フェミルちゃんなんて二千越えるでしょ!?」
「千と四百だ」
正確にはもう少し低いだろうが、細かく言うのも面倒だし、何より重要視していない。
「ハゼルトってなんでそんな若作りのくせして年齢気にしないの!?」
「気にする必要がないだろう」
ハゼルトはあの国の建国当時から侯爵位をもらってはいるものの、当主の数は他の建国時からいる家と比べ圧倒的に少ない。理由としては、魔力が多いからだ。
魔力を多く持つ者は大抵長寿だ。事故などで死んだり、戦争で殺されたりしなければな。魔力とは生命力そのもの。枯渇は死と同義でもある。だからこそ、魔力を消費し過ぎれば種族関係なく倒れ、身体が魔力を使うことを拒絶する。
「ハゼルトが魔力を枯渇することはない。自然に愛された民たちはその恩恵を持って、代々人ではなく、自然に仕えた。これって本当なの?」
「事実だ。ハゼルトは精霊か悪魔と契約を交わし、力を得る。自然に守られた者たちは自然に漂う魔力を集め己のモノとする。それに至っては、魔術師が行うこととそう変わらん」
違いなど、祝福を受けているかどうか程度だろう。
「ゼロちゃんが呪いと呼ぶものは、母への呪いか、母を想う気持ちか、どちらかしらね」
「どちらでも良い」
あの子の母はあの子を庇わず、あの子を殺そうとした者たちを守り死んだ。それが事実だ。
親は子を愛せない。逆もしかり。子は親を愛せないのだ。親からの愛情を受け育ったあの子の母は、それを知らない。だからこそ、死んだのだ。多くの者が死に、あの子が心を壊す結末を作って。
「あの子は生きようとしていない。それを変えるのが、私の役割だろう」
「………フェミルちゃん、あなた」
「私は、あの子を救うためなら、命を賭けよう。それで少しでも、あの子のためになるのなら」
第三魔術師の本名はロトリアです。『ヘヴン』は魔術師として活動するための偽名みたいなものです。魔術師は全員持ってます。