148.動き出す何か
「それで、下のは何」
「生き物、と仮定している」
魔法陣の真下、地面を見ると、不自然な程何もなかった。
ただ一点、半径二十メートル程の大穴に丸い何かが埋まっており、その周囲は腐敗しているように見える。
「仮定? お前にしては珍しいな」
「見てろ」
ゼロさんは手を大穴に向け開き、魔法を放つ。少し離れたこの位置からですら、魔力が強いため肌が痛くなる。
魔法が直撃した大穴は、無傷だった。
「見ての通り、私の魔法で傷一つ付かない。無機物であることはないだろうが、これ程固い生き物など知らん。故に『仮定』だ」
「それと私たちを連れてきたのに何の関係が?」
「調べても分からない。これは異常だ。故に、どうにもできない場合、これを『抹消』する。お前は水の王の知恵を借りるのに必要なだけだ。詐欺師二人は魔法でのごり押し。火の方は念のための予備だ」
念のためと守護獣に用があるから呼ばれたとか……。
「ゼロから他者に知恵を借りるなんて言葉が出てくるなんてね」
「お前の守護獣に聞けよ」
「…………話してくれん」
ゼロさん、酷い扱いしてる先生ですら会話してもらえるよ?
「ゼロはコミュ力がな」
「ムリムリ。やろうとすれば一年中部屋に籠る引きこもりだよ? 人と話すのなんて学院くらいじゃないか」
「酷い言われようだね」
「実際そうだろ。一週間籠られて引きずり出すのにかかった労力忘れたか?」
ゼロさん、ユートさんにも言われてますが。
ゼロさんは気まずくなったのか、プイッ、と顔を背けた。
「話進めるけど、君の魔術での破壊は?」
「この辺り一帯を通り越して周辺国死ぬ。それでも良いなら可能だ」
「却下」
「もっと規模小さいのやれよ」
「ない」
「作れ」
「短時間では無理だ」
時間があればいけると?
「これが最年少ねぇ……」
「黙れ」
「おーおー、あっちと打って変わって態度がわりぃな」
「安心しろ。普段はしない」
「こっちでもやるな」
「なら息が詰まる環境をどうにかしろ」
ゼロさんは、はぁ、とあからさまにため息をついた。
「とりあえず、詐欺師二人とやってみるか」
「ごり押す気満々じゃないか」
「私に一任した第一が悪い」
面倒だと言いながらも魔法を放つ気満々の二人。
「せーの」
リアン君がわざわざタイミングを合わさせようと掛け声をするも、三人とも好きなタイミングで魔法を放った。
「…………どうだ?」
「無傷だな」
「呪術使った方が」
「「それは被害がヤバいから却下」」
この世界に呪術の概念あるんだ………て、呪いあるからそりゃあるか?
「……どうやら必要なくなったようだ」
地面を見てみると、大穴の中が動き出した。
「何、これ……」
「お目覚めだ」