131.大神官
「ありゃ、三人は?」
「もういった」
パーティー中盤。予定通り三人は抜けたらしい。
「他の奴らは三人がいないことに気付いてないがな」
「ゼクト君の魔法だよね」
「精神干渉魔法な。認識阻害魔法に似てるやつだ」
精神干渉魔法って聞くと、洗脳とかそっち系が思い浮かぶんだよね。
今回なんかは、意識が三人のことに向かない様にするものらしい。
「便利だね」
「やれることが多いのは利点だが、そのせいで目をつけられるのがな」
「あら、お義兄さまは面倒なのではなく、あの子の隣にいれなくなるからでしょ?」
声の主の方を見ると、淡い紫色のドレスに白い扇を広げ、ゼクトを睨む令嬢がいた。
「はじめまして、皆様。わたくし、カラリエ姉さまの妹のマリティア・ヒリア・フォルモリアです。お義兄さま、あの子は?」
「義兄って呼ぶな、気持ち悪い。リリーは仕事だ仕事」
カラリエさんの妹さん。だからお義兄さまって呼んでるのか……。
「………あら、あなた変よ?」
「え、私?」
マリティアさんがぐいっ、と顔を近付けてくる。
「こんなのはじめて見るわ。なんでこんなことになってるのかしら。あなた、幻獣種? それとも古代種かしら」
「え、えと……幻獣種、です」
「そう。でもおかしいわ。あなたから何故か」
「ご令嬢、困っているのでその辺で」
サジュエルが間に割って入って助けてくれる。
「あら失礼。…………婚約者がいるなんて聞いてないわ」
後半ボソッと言っていたけれど、聞こえない。
「……今度私もそっちに行くわ」
「は? 俺の仕事になるから嫌なんだが」
「こんなことになってる状態を維持してみなさい。あの子のおもちゃ決定よ。分かってるでしょう。あの子は壊れてるのよ」
「それを直せないから現状維持を結論で出された。余計なことするな。おもちゃだろうがなんだろうが、飽きなければ安全は保証されてる」
「それは飽きなければの話よ。あなたもフォールト従兄さまもあの子の興味を得ているけれど、この子がそうかは分からないわ」
情報量が多い。
マリティアさんが言ってるあの子はリリアナだよね? で、私の何かが変らしくて。おもちゃ? になって。ゼクトとしては現状維持をするためで。安全の保証はされてるから大丈夫で。
「………おや、騒がしいと思えばマリティアじゃないか」
「あら、大神官さま」
「はじめましてだね。慈愛の女神の国の子たち」
大神官さまって、ナイジェルさんと同じ地位の人じゃん。
「………なるほど。君が異例の事態を引き起こした子かな」
大神官さんが私に触れようとすると、バチッ! と音が鳴り、弾かれる。
「ふむ。あの子は随分君を気に入っているようだ」
「え、あの、大丈夫ですか?」
「平気ですよ。少し驚いた程度です。この程度で危なくなれば笑い者ですから」
「分かっているのなら勝手に出歩かないでください。あなたを探すの苦労するんです」
「………やぁやぁ、元気だったかい?」
大神官さんは、戻ってきたリリアナに手を振り、クスクスと笑った。
マリティアの独り言はサジュエルにはしっかり聞こえてました(アイリスにも聞こえれば良かったのに)。