10.思い出話……?
「なんでリリーと殿下の婚約が成立してるのか、って顔だな」
あ、バレてる。
「理由としては、幾つか。一つ目、第二子をハゼルトに預けるのはシエルと夫人間で約束されたことであり、公爵が関与していなかった」
「公爵は知らなかったのか」
「二つ目、夫人が亡くなったこと。これによって、公爵にそれを伝えることができなくなった。俺もリリーも子供だし、あそこの奴らはなんとしてでも揉み消すからな」
二つ目がなんか不穏なんだけど?
「三つ目は、私が原因ですね。さすがにやりすぎました」
「何したの………?」
「少し大規模な魔法を…………」
「あれが少しは終わってるからな?」
何をした………。
「大事にならなかったのはシエルのおかげだからな」
「あの時ばかりは感謝ですね」
本当に何をした。先生が動くとかかなりでは?
「…………まさか、あの時の」
「リリーだな」
「伯父上が急に来たと思ってなんだと不思議だったが………」
ユラエスは、あれか………とため息をつく。
「大騒ぎになったからな」
「笑い事じゃない」
ジトッ、とゼクトを睨むけどスルーされてる。
「何があったの?」
「部屋が半壊」
「へ?」
ティアナが令嬢らしからぬ声を出すけど、さすがに見逃される。
えー、と? 部屋が半壊するって何!?
「リリーが魔力暴走起こして部屋は半壊、シエルが来てなんとかなったと思うと部屋に誰もいねぇし、帰ってきたのは一週間後。しかも、その後に皇帝陛下に謁見」
「ゼクト連れてこうとしたら伯父様に拒否されますした」
それは先生が正しいんじゃないかな?
「まぁ、二つの子供を大人しか居ないとこに連れてくのは、さすがにな」
「あー、それは……」
「どうなったの?」
「シエルが付き添うことで決まった。それでも駄々捏ねるから謁見の間までは俺も行った」
駄々っ子のリリアナ、見てみたい………。
「魔法使って逃げようとするし」
「生活範囲が自室、お母様の部屋、裏庭、森だった私が急に連れて行かれてそのままな訳ないじゃないですか」
行動範囲狭っ。
…………あれ? シティアル公爵領は確かに森に面してるけど、そこって。
「…………え、森って、『死の森』ですか?」
「え、逆に領地にそこ以外の森ってあるんですか?」
「無いな」
マジですかい。
死の森は、シティアル公爵領に面しているけれど、国の領土ではない。理由としては、誰も入れない。入っても出てこられる保証がないから。
死の森は、それはそれは昔、まだ魔物やらなんやらが溢れていた時代にある一族が他種族と共存していた森であり、その名残か未だにあそこは魔物たちの巣窟なのだとか。そのため、立ち入り禁止となっており、どうしても入ると言う場合、命の保証はできない。
そんな危ない森にリリアナは幼い頃から行ってたとか………。
もしや、ユラエスも? と思い、顔を向ける。
「さすがに俺はやってない」
「まず、森で何してたんだよ」
「え、普通に遊んでました」
死の森でどう遊ぶの。良く死ななかったね。
「あそこ、表向きは公爵家が管理してますけど、ハゼルトのですし」
「あそこって持ち主居たんだ」
「いや、あそこで暮らしてた一族の子孫がハゼルトなだけで、持ち主は居ないぞ」
ややこしい。
…………て、なんか聞き捨てならないものが。
「ハゼルトって『古き民』なの?!?」