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持たざる者な少女

家に帰ると天使の幼馴染が迎えてくれる。に登場する田渕寧音視点の物語。


安芸幡豆紗が沢山出てきます。


外伝的な感じ。補足……とはまた違うようなのです。

「……髪、きれい」

「えっ……?そう?」

 正面から聞こえた声で読書中だった私の意識が現実に引き戻され、顔をあげた。

 自然に、顔をあげていた。

 視界の先には、正面の椅子に腰掛けた男子が、窓から射し込む夕陽の朱い光に照らされた顔で見つめていた。

「あれっ、漏れてた?あぁ〜」

 彼は右手の掌で顔を覆って、椅子の背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ。

 無意識のうちに胸中に漂っていた言葉(セリフ)が漏れたらしく、恥ずかしそうに呻いた彼。

「……ありがと、褒めてくれて」

 私は天井を仰ぐ彼に、照れたままにぼそっとお礼を告げた。

「あぁ……うん。……そろそろ最終下校時間だから出ようか、田渕さん」

「そう、だね……安芸くん」

 私は彼に図書室の退室を促され、首肯して椅子から腰を浮かせ立ち上がる。

 彼の側に居られる瞬間(とき)が名残惜しくて、勇気をふり絞り、彼に二人で下校をしようと誘おうと声をかける。

「あのっ、安芸く——」

「あっ、いたいたぁ安芸くんっ!さっ、帰ろっ!」

 図書室に足を踏み入れ、彼に駆け寄りながら明るい声で颯爽と現れた白久に決死の誘いは掻き消された。

「友恵。そ、そう……だね。ごめん、田渕さん……また、明日」

 彼は白久に腕を絡められ、居心地悪そうな表情をしてから、申し訳なさそうに私に謝り、図書室を後にした。


 私の想い人である安芸幡豆紗には、芸能人だと言われても疑うことなく受け入れられる美人な白久友恵という幼馴染がいる。

 私には、彼女に勝るようなモノなんてない。



♦︎♦︎♦︎♦︎



「——おぉいっ、なに寝てんだ田渕。さっさと起きて黒板写せぇー」

「……っ!すみません……多田羅せんせ。以後気をつけます……」

「おーう、そうしてくれぇい。続けんぞぅ〜」

 気怠げに返事して、授業の再開を告げながら教卓へと歩きだした多田羅教諭。

 背後から笑い声が漏れた。

 授業が再開し、滞りなく進んでいく。



「日頃の行いのおかげで、さっきので済んだねー」

「そうだね〜ゆっきぃーと違ってね」

「んー、でアキくんって元カレ?」

 日頃の居眠りを悪びれることなく、笑みを浮かべて訊いてきた樫葉悠妃乃(かしばゆきの)

「っ……元カレなんて居ないって。知ってるくせに……」

 唇を尖らせ、拗ねながら否定する私。

「すぐいじけるぅ〜寧音はぁ〜。隠してんでしょ〜そういうのぅ〜!」

「いじけてないし、隠してないっ!」

 粟色のうねる髪の毛先を、ひとさし指にくるくる巻きつけながら、からかう樫葉に力強く否定する私。

「じゃ、アキくんってのとどういう関係?」

 彼女が空いた左手で汚れないように包装紙から出したチョココロネに齧りつきながら、訊いてきた。

「どういうって……」

「恋人にできなかった人?」

「っ……違っ!」

 先程まで会話に割り込まなかったいさなが、横から確認するような声音で発した。

 私は言い当てられ、動揺してしまい、声を荒げてしまった。

 周囲にいたクラスメイトらの視線が集まる。

「どうどう、寧音ぇ。落ち着け〜落ち着け〜」

 肩を上下に揺らす私に、馬を落ち着かせるようにした樫葉。

「ぅう……馬じゃない、私は……」

 昼休みの教室は賑やかだった。











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