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百獣の海王シ・シャーク  作者: ?がらくた
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第1話 頭までB級

B級小説じゃなくて、Z級小説かもしれない。

とある男の自宅兼事務所にて




「続いてのニュースです。白鰐町にて、またも怪事件が発生しました……は……で……」


何の感情移入もしていないかのように、アナウンサーが淡々と読み上げる。

ニュースの話題は少年が最初の犠牲者になった、連続怪死事件についてだ。

どうやら現場付近には動物の毛が落ちており、その正体はなんとライオンの毛だったらしい。

近くに動物園があって、そこから脱走したわけでもないようだ。

しかしライオンの歯の形状と、死体の噛み跡は一致せず、事件解決は難航しているとのこと。

目の前で誰かが亡くなったわけではない。

所詮は紙の上に書かれた命。

彼も事件に、心を痛めていたわけではなかった。


(謎の嚙み跡、ねぇ。きな臭い事件だな。もしかして俺様の出番か?)


そんなことを考えていると、玄関が勢いよく開かれた。


斬人(きりと)ーッ。頼まれたモノ、買ってきたヨ!」

「シャーコか。荷物を置いたら、さっさと出ていけ。お前みたいな金髪ねーちゃんが近くにいたら、俺までサメに襲われるだろーが。サメ映画のお約束だ」


鮫口紗子(さめぐち・さえこ)

米国人の父と日本人の母を持つハーフで、斬人からはシャーコと呼ばれる女助手が、ポリ袋片手にやってきた。

苛立つ斬人が声を荒げると


「斬人、もしかして朝から晩までB級サメ映画のこと考えてるノ?! 頭までB級だネ!」


紗子は、明るい口調で嫌味を言い放つ。

ウェーブのかかった金髪に透き通るような碧眼という、容姿に恵まれた彼女は、とんでもない毒舌家だ。

天は二物を与えず、という言葉が、彼女との出会いを通して重みを増した。


「ふざけんな!  お前に危機意識が足りないだけだ。海はもちろん、空にも陸にも家の中にも、サメはいるんだぞ!」

「wow! 重症だネ。そんなことより、お客さんだヨ」

「鮫島様でいらっしゃいますでしょうか。実はご依頼がありまして……」


シャーコに連れられた茶色のスーツが似合う壮年の男が、斬人に訊ねた。

それなりに大きな案件が舞い込んできそうだ。

失礼のないように接さないと。


「どういったご依頼で?」


傲慢な彼は柄にもなく、かしこまった敬語で話し始める。

助手に玄関の側にある応接室に案内させ、ソファに腰掛けてもらうと。壮年の男はゆっくりと重たい口を開いた。


「白鰐町の連続不審死は、ご存じですか?」

「ええ、もちろん。テレビでも、今はその話題で持ち切りですから。ところで、なぜ私の元に?」


そう言われた斬人はテレビのチャンネルを回して、率直に聞いてみる。

サメ退治、しかもただのサメではない怪物退治専門の斬人の元にやってきたのだ。

何かしら情報を得てから、自分に辿り着いたのだろう。


「実はあの連続怪死事件、サメの歯でやられたみたいなんです。今朝のニュースでやっていたんですが……」

「……あ、本当にそうみたいですね」


つけっぱなしにしていたテレビから聞こえた情報で、彼が嘘をついていない裏が取れた。


「頼みます。白鰐町の安全と息子の……勇のために……」


そういって依頼人の男は、涙ながらに話し始めた。

彼の息子である猫田勇(ねこた・ゆう)は、この連続怪死事件の最初の犠牲者。

来年に小学校に入学する予定だったらしい。

まだまだ先のある息子がいなくなった辛さは、想像に難くない。


「契約書はこちらです。依頼を達成した暁には、証明の写真を送らせていただきますので、住所の記入を。進捗状況を知りたい場合、メールアドレスか携帯電話の番号をお願い致します」

「はい」

「私どもは警察と違って、権力はありません。なので怪物の調査に、少々時間がかかってしまうこともあります。以上の点に、ご了承いただけますか」


前金に達成報酬の1割。

海外での調査が必要な場合は、別途料金を請求する場合がある旨を伝えると、猫田少年の父は全てを快諾した。


「ありがとうございました。無念を晴らしてくれたら、勇も喜んでくれると思います」

「こちらこそ。息子さんの将来を奪った怪物、絶対に始末してみせます」

「では、失礼します」


猫田少年の父の丸い背中を見送り、玄関の扉が閉まると


「……ハァ。猫かぶり疲れたな」


依頼を引き受けて、依頼主が去った後に彼がぼやく。

出会ってしまえば退治自体は一瞬なのだが、探すまでに骨が折れる。

これから面倒で地道で、単調な作業が始まると思うと、気が滅入った。


「話、終わったノ?」

「ああ、依頼者は最初に殺された息子の親だった。俺様にかかればシ・シャークなんて、すぐに殺せるさ」

「斬人、いつにもまして張り切っテル! 優しいネー!」


嘲るようにニヤつく彼女を無視して、彼は話を進めた。


「とりあえず事件の概要を調べるか。まず被害者の特徴と、事件発生の日時と場所。そこから化け物サメの生息地を割り出すぞ。依頼こなしたら、久々に豪遊すっからな!」

「探偵みたいでかっこいいネ! ヤキニク、ラーメン、テンプラ! 油っこいもの、全部タベヨー!」

「俺様はそういうもんより、サメせんべぇが食べたいな。ひと段落したら取り寄せるわ。それよりサメサメ~。機械のサメと進〇の巨人が戦うとか、絶対に面白れぇじゃん」


彼女に買ってきてもらったB級映画DVDの数々を見比べながら、斬人は独り言を呟く。

その様子を、シャーコは呆れたように眺めていた。


「oh 。いい趣味してるネ。私はお菓子とアイス貰うから、ゴミ映画が見られるプラスチックゴミは、斬人の好きにしていいヨ!」

「人の趣味に難癖つけんな。あと俺様の金で勝手に頼んでもいないもの、大量に買ってるんじゃねぇ。いいから寄越せ!」


そういって斬人は、机の上の袋に手を突っ込む。

取り出すとそれは、斬人の好きなのり塩味のポテトチップスだった。


「お前、これ俺のために買ってきてくれたのか?」

「うん、そーだヨ!」

「……シャーコ。お前、案外いいやつだな」

「元々は斬人のお金だし、私の懐は痛まないしネ。斬人のお金で食べるタダメシ、最高だヨ!」

「前言撤回。テメーあんまり調子乗ってると、サメおびき寄せるための餌として使うからな。覚悟しとけよ」


ちゃっかりしている彼女を睨み、ポテトチップをバリボリ貪りながら、斬人は悪態をつく。

夏の熱さを感じられるようになりつつある、6月の出来事だった。

主人公の鮫島斬人という名前は、本名じゃないです。

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