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休養日

 出動の翌日、一班は休養日となった。

 今までの休養日は、私は出動しなかったので、オスカーの命令で勉強させられていた。だが今日は、大手を振って休めるのである。


 うふふ、何をしようかな?町の見物に行こうかな?買い物かな?


 そこで大事なことに気が付き真っ青になった。


 ……私、お金持ってない!


 ここに来てから1回目の給金は先払い分だったので、貰えなかった。ペトラ村を出る時、母に渡した分である。

 2回目の給金はまだ出ていない。

「あああ、折角の休日なのに……」


 一班の部屋の居間のソファーで頭を抱えていると、部屋から出てきた私服姿のオスカーが訝しんだ。

「初めての休養日だろう?今日は勉強しろとは言わないぞ。町に繰り出さないのか?行った事無いのだろう?」

 半分涙目でオスカーを見上げた。

「お金持ってないんです……」

 オスカーは目を丸くした。

「何故だ?」

「一回目のお給金は先払いで実家に渡していて、二回目はまだだし……」

「実家に?」

「うち、この間の魔物の襲来の時に父が足をやられて働けなくなって、母はおなかが大きくて。それで私、修復師になったんです」

 オスカーは驚いたようだった。

「……それは大変だったな」

 知らなかったな、と呟いていたが、私の腕をいきなり掴んだ。

「今日は奢る。町に出よう」

「え?」

「ついでに色々案内しよう。初めてなのだろう?」


 え?え?え?

 この人、鬼じゃなかったっけ?

 天使様でしたか?


 私は半ば引きずられるように外に出た。


***


 町は中心部分に噴水の広場があって、放射状に石畳の道が伸びていた。

 広場は人で溢れていた。子供からお年を召した方まで、皆生き生きと活動している。

 広場に面した商店はとても煌びやかで、キラキラしい服だったり宝石だったりを売っている店や賑やかなカフェがあった。楽師が広場で音楽を奏でていた。

 

 私は鬼改め天使様にぐいぐい腕を引っ張られて、服を売っている店に連れて行かれた。

「この子に合いそうな服を頼む」


 えええ!


 天使様は私の腰が引けてるのに気づいた。

「休日くらい騎士服を脱げ」

「そ、そんなに奢られる理由がありませんっ」

「なら、初出動のお祝いという事にしておく」


 天使様は何着か手に取ると私にパパパっと当てて、うん、これかな、とか言いながら店員に渡す。

 そりゃ、私はどれ見ても初めて見るし、選べと言われても困るけど私の意見は?とか思ったが、有無を言わせず店員さんに奥の試着室に連れて行かれた。

 そこで騎士服を脱がされ、天使様の選んだ水色のワンピースを着せられた。

 髪型も変えましょうね、とか言って、ちょいちょい、とハーフアップにされ、そばかすを隠すくらいに軽く化粧をされ、可愛いブーツを履かされた。

「出来ましたよ」

 と言って天使様の前に引き出された。

「うん、いいじゃないか」

 天使様の笑顔初めて見たー!

 うわ、なんかドキドキする!


 着てきた騎士服と履いてた靴はキチンと袋に入れてもらって渡された。

「邪魔だが、騎士服は他人に託せないからな。ワンピースにこの大きな袋は合わないから、今日は俺が持ってやる」

「ありがとうございます!何から何まで!」

「ま、日ごろ良く頑張ってるからな、お前」

 と言って、ポンポンと背中を叩かれた。


 うわー

 めっちゃ嬉しい!

 これは夢ではないですか?


 その後は、街を案内してもらい、カフェに連れて行ってもらい、ケーキなるものを初めて食べさせてもらい、広場で楽師の調べに合わせて踊ったり、本当に楽しい一日を過ごした。


 夕方、修復師棟に戻り、一班部屋へ入ると、フェリクスに驚かれた。

「うわ、可愛いじゃないの。どうしたの、それ」

「オスカー先輩に買っていただきました!」

「へえ、オスカー君に」

 フェリクス班長は一緒に帰って来たオスカーを見るとにやりと笑った。

「やるじゃないの」

「何がです。可哀そうに、初めての休養日なのにリリーは手持ちが無くて外出も出来ないところだったんですよ」

 班長は目を丸くした。

「あ」

「あ、じゃないですよ。班長、把握してましたよね!本来これは班長の仕事でしょうが!」

「あぁぁ、そうだった、一回目の給金、親御さんに前払いで渡したんだったねぇ、ごめん、すっかり忘れてた……でも可愛い女の子連れての休日、楽しかったんじゃないの?」

「コホン、指導担当者の責任ですから」

「マルク君にはそんな事してたっけ?」

「なんであの怠け者にそんな事をしてやる必要があるんです?」


 オスカーは手に持っていた私の騎士服と靴が入った袋をポンと私に返してくれた。

「皺が出来てるかもしれないから早めに吊っておけ」

 はい、と言って受け取る。

「オスカー君、やっぱり君、指導担当者向きだよ、そういう世話女房みたいに細かいところ」

「誰が世話女房ですか!」

 

 班長はオスカーを怒らせる天才ではなかろうかと良く思う。

 

 自分の部屋に入ってクローゼットの扉にはめ込まれている鏡を見る。

 水色の奇麗なワンピースを着た、自分でないような女の子が映っていた。


 自然に頬が緩む。


 脱ぐのがもったいない。

 でも、部屋で着ているのも、もっと、もったいない。


 丁寧に脱いで、ハンガーにかけて、きちんとブラシを掛けた。


 天使様!ありがとうございました!

 


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