エピローグ
未だに私には国一番の修復師だと言う自覚は無い。
結婚後まもなく子供を授かった。
妊娠が分かるとオスカーが過保護になった。まず、乗馬禁止を食らった。
乗馬禁止は結局のところ出動禁止と等しい。空いている時間の騎士の訓練なども以ての外である。
そうなると修復師棟にいる理由があまり無くなる。
皆に申し訳ないし、ヴェルゲの街の家にいようかと言うと、目の届く所に居て欲しそうなことを言う。
仕方がないので、修復師の講師の仕事を貰い、新人教育の担当に配置換えをしてもらった。といっても、そうそう新人が出てくる訳でもないので、五班とか、六班とか、中央や東駐屯地からやって来た研修生とかを教えていた。実はあまり授業の評判は芳しくないようである。教え方は下手だとオスカーのお墨付き貰っているし、仕方がない。でも、研修を受けた修復師は何がしか得るものはあるようで、少しずつ大きな亀裂を塞げるようにはなっているらしい。
講師の仕事は一時的という事で、部屋は一班のままである。
いいのか?本当に?
まあ、給金が大幅に減らされたのは仕方がない。
娘が産まれると、ヴェルゲの家に住んだ。在籍は一班のままである。休養日の度にオスカーが帰ってくる。時々亀裂が大きくて私に出動要請が掛かるとメイドに娘を預けて出て行く。
私に再び出動手当が入るようになった。しかし、使うことが無いので貯金は全く減らない。ペトラの両親は、最近は私からの仕送りを受け取らないのだ。自分たちとニックの稼ぎで身の丈に合った暮らしをすると言う。里帰りの度にお土産を持っていくくらいである。こちらの生活全般はオスカーが全部出してくれる。と言うか、私に払わせてもらえないのだ。
三か月に一回の連休はギーゼンとペトラと交互に行く事にしている。だが、向こうにすれば半年に十日足らずしか孫の顔を見られないのは辛いらしい。
時々ギーゼン伯爵夫妻が孫の顔を見にやって来る。アガーテにすっかり領地を任せているらしい。アガーテも今度結婚が決まったとの事。お相手は婿入りしてくれるそうだ。意外な事に、恋愛結婚らしい。王都の領地経営コースで知り合った侯爵家の次男で、アガーテがこれと決めて押しまくったそうな。
ヴェルゲの街に弟のテオがやって来た。騎士の予備隊に合格したらしい。ほお、頑張ったじゃないか。騎士寮で合宿のような生活をしている。これからも大変だろうけど、頑張れ。姉ちゃんは応援しているぞ。
オスカーは娘に甘い。私にも甘い。激アマである。
出会った初めの頃のあの鬼教官はいったいどこへ消えたのだろう?
オスカーにそれを言うと、「班長が甘やかしてたからな」と訳の分からない理屈を言う。
娘が少ししっかりしてくると、オスカーが班長に直談判して、一班の部屋に子供を入れる許可をもぎ取った。毎日顔を見たいらしい。修復に私の力が有るのと無いのでは全然違うとか言って私を復帰させた訳だが、娘の歩き始めた瞬間などを見逃したくないのが本音に決まっている。
意外な事にマルクが娘と遊んでくれる。リボンをひらひらさせると娘は大喜びする。まるで猫じゃらし?
エルマ姉さんなどは、私を危険にさらす選択だ、なんて怒ったが、実際修復に行くと、オスカーが私に貼り付いていて剣に触る事すら無い位である。
出動時の為に専属の子守を修復棟の三階に住んでもらっていると、コルネリアの子供を預かったり他の女性騎士に頼まれたりと段々子供が増えてきて、結局部屋をいくつか繋げる改装をして騎士団内保育所が修復師棟に出来上がった。
コルネリア曰く、私のような替えのきかない女性がいると声を上げやすいらしい。なるほど。
ギーゼンの両親だけは孫の顔を見に行きにくくなったとオスカーに不平を言ってるそうだ。
ヴェルゲの家には勿論休養日ごとに帰る。朝、目覚めて隣にオスカーがいると今でも嬉しくなる。
「まーま、ぱーぱ、きらきら」
或る日、娘の手から白い光がキラキラ零れているのを見つけて、オスカーと私は顔を見合わせた。
オスカーはため息をついた。
「運命決まってしまったな」
「まあ、私たちの子供だしね」
私は笑った。
「やりたくないけど、鍛えないとな……嫌われたくないなぁ」
私はオスカーの肩にもたれ掛かりながら頷く。
「大丈夫。一緒にやろう?」
「そうだな」
そして今日も空は澄んで、街は賑わい、人々は活気づいている。
時々開く次元の裂け目はキチンと修復され、人々は安心して暮らしている。
次元の裂け目の修復師の物語 Fin.
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
宜しければ☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです。




