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拉致

「もう、いつ樽が出て来てもおかしくないねぇ」

 私たち一班は騎士隊の第三隊とともに再びキスケ村に来ていた。


 どうやって、裂け目を早期に発見して、原因となっている術具、もしくは術者を取り除くことができるのか。

 この三週間程で様々検討した。

 だが、結局、人海戦術でとにかく見張る方法しか無いと結論付けられたのだ。もし「敵」が人間などであれば、見張りの騎士がそれを引きずり出す。魔獣であれば、殺す。機械の類であれば壊す。

 裂け目が出来た瞬間を修復師達は感じ取れるので、笛を吹き鳴らす予定だ。一班修復師は交替で寝ずの番をした。


 月夜だった。

 私は寝ていたけれど、肌が粟立つ感覚に飛び起きた。


 当番だったオスカーが笛を吹き鳴らし、騎士達が一斉に自分の持ち場を探す。


 私は方向を特定した。

「ここから南東方向!距離およそ七百メル!」

 あらん限りの声で叫ぶと、待機組の騎士が一斉に駆けだした。


 私たちもそちらへ走り出す。

 騎士の叫び声と剣戟の音が聞こえてきた。

「術具と術者を確保!」

「戦闘中!」


 必死で走る。オスカーはもう遥か先を走っている。

 騎士たちが入り乱れて戦っている。

 

 裂け目が見えた。そこから次々に奇妙な格好の兵士が湧いていた。どうやら、先に確保した術者を取り返したいようだ。

 早く塞がなければ、いくらでも増援が来てしまう。


 私は大きな術布を出した。

「オスカー!そっちお願い!マルク、上の方を留めて!」

 

 マルクはまだかなり後ろだったが、弓を正確に射ってくれた。矢は私の布を亀裂の最上部に運んで亀裂のへりに突き刺さった。左側はオスカーが白い炎を纏わせた剣で瞬時に固めていった。私が右側を固定しようとした時。


 固めきっていない術布の向こうから にゅっと手が伸びてきて。


 私の腕が掴まれた。 


 そして亀裂の向こうに引きずり込まれる……


 ヤダ!


「リリー!」


 その時、反対の手を力強く引っ張られた。

 オスカーだった。


 オスカーの剣は私の手を掴むむこうの兵士を貫いた。


 だが、私を引っ張った反動でオスカーが亀裂の向こう側に体が傾き。




 向こう側の兵士のたくさんの手がオスカーに絡みついて。


 


「ダメぇぇぇぇっ」



 オスカーが向こうへと引きずり込まれた。



「オスカー!オスカー!」


 私も向こうへ行かなけりゃ!


「リリー!来るな!」


 オスカーの叫びが聞こえて。


 向こう側で何か大きな魔獣がこちらへ口を大きく開けて息を吸い込んだのが見えた。その口から炎が見えたと思った瞬間。



 亀裂はきらりと光って消えうせてしまった。



「え?」



 私は振り返った。

「班長、修復してしまったの?」


 班長もなかば呆然としながら頭を振った。


「いや…… おそらく向こう側でオスカーが閉じたんだろう……」


「そんな、なんで、なんで!」


 あれほどずっと感じていたオスカーの気配が無い。何処にも無い。私はあちこち見回したが、オスカーはいない。


 いるのはあちら側からやって来た何名かの兵士と、ローブを被った一人の男。


 騎士の一人が暴れるローブの男を後ろ手に拘束している。

 他の兵士たちは殆どが先頭不能の怪我を負わされて、次々に縄を打たれていた。


「これが術具か」

 班長が手にしたその剣に見えるものは、柄の部分に禍々しく光る石がはめ込まれていた。


 班長はローブの男に向かった。

「よお、お隣さん」


「〇◎×☆△●!」

 男が叫んだ。


「言葉は通じないか。でも、姿は良く似てるじゃないか。ちょっと調べさせてもらうよ」


 班長はその男の頭に手を置いた。


 班長から白い光が男に注がれた。


 男が暴れるのをやめた。


 何だろう?

 あれは、私が初めに能力があるかどうか調べられた時の光だ。そしてオスカーに魔力を融通してもらった時とそっくりだ。でも敵に魔力を融通する訳がない。


「……ふうん、なるほどね」

 騎士隊のカルステン隊長が班長のそばにやって来た。

「どうです?」

「うん……そうそう、素直にね……うん、それは酷いねぇ……」


 班長の魔力の融通の副作用が分かった気がする。班長は心を探れるのだ。


「それ、貸してくれる?」

 私は術具らしき剣を騎士から受け取るとそれに力を込めてみた。だが、私の力は反発するのか、剣に弾かれてしまい、剣を取り落としてしまった。

 涙が出てきた。

 剣をもう一度持ち上げて、空間を切る。

 

 だが、空間に穴は開かない。

「オスカー」

 涙が止まらない。

「私が捕まりそうになったから」

 剣を振り回す。

 後ろからマルクがリボンでその剣を取り上げた。

「馬鹿馬鹿ぁ!なんで私の代わりに!向こうに!行っちゃうのよ!」

 大泣きしているのをマルクが躊躇いながら頭を撫でてくれた。




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