プロローグ
二作目です。前回同様、宜しくお願いいたします。
前作のビギナーズラックを越えたい……
一見、のどかな農村だった。
畑の中ほど、丁度人間の頭位の高さだろうか。
突然、プツ、と音がしたかと思うと、何もない筈の空間に裂け目が出来始めたのだ。
畑で作業をしていた男が「うん?」と言って、そちらを見る。
すると、ニンジンの葉がまっすぐ伸びているその上に、何かが浮かんでいるように見えた。
男は良く見ようと近づく。
その何かはプツプツと音を立てて上下に拡がっていく。そしてその裂け目の向こう側から何かの角らしきものがニュッと突き出してきたのである。
男の顔が青ざめた。
「こりゃあいかん、次元の裂け目だ」
男は踵を返すと集落に向かって走り出した。首から常に下げている笛を引っ張り出し、吹き鳴らす。
ピリピリピリピリー
集落の人々が一斉に動き出した。それぞれが胸の笛を吹き鳴らす。笛の音はどんどん拡がっていき、やがて村の中心部に届いた。
「裂け目が出来たのか!」
騎士団の出張所が慌ただしく動き始める。
初めの男がそこに走り込んで来た。
「うちの畑だ!裂け目が出来た!」
「大きさはどれ位だ!」
「まだ広がり始めたばかりだった。俺が見た時は縦にこれくらい……」
男が騎士に伝えると、騎士の表情が強張った。
「中サイズだな。広がる可能性あり。西駐屯地の修復師を要請する。村人へは各自シェルターへの避難を指示しろ!他は魔物を抑えに出動!」
騎士達はそれぞれ馬を出すと初めの男に先導させ、裂け目へと駆け出して行った。そのうちの一騎だけは修復師の要請のため反対方向へと駆け出した。
裂け目に近づくと、鋭い角の真っ赤な目のシカのような魔物が裂け目を潜り抜けようとしていた。角を振り回す。そして片足が裂け目から出ている。シカは暴れながら、胴体を徐々にこちら側に押し込んでくる。プツプツと音を立てて裂け目が拡がる。前足が両方ともこちらへ出てきた。
騎士が馬から飛び降りると、その魔物を剣で貫いた。シカの魔物は血を噴き出しながらこちらに転がり出た。ニンジン畑の上で手負いのシカが転げまわる。それを追いかけて仕留めているうちに、シカがこじ開けた裂け目から真っ赤な魔猿が飛び出してきた。
「うわっ」
ニンジン畑の主の男に魔猿が襲い掛かって来たのを騎士が切る。
「早く家へ帰ってシェルターへ避難しろ!」
男は躓きながらも駆け出していく。
騎士達は次々に出て来る魔物を打ち漏らさないように必死だ。
時々、亀裂から炎がゴウ、と噴き出す。
おそらく向こう側に何らかのヤバい魔物がいるのだろう。亀裂がこれ以上大きくならないのを祈るばかりだ。
二時間ほど経った頃だった。騎士達はずっと魔物を裂け目から出さないように格闘していたのだが、再びプツプツという音と共に裂け目が広がり始めた。そして亀裂から巨大な炎が噴き出す。
「まずいな」
騎士達が身構えた。
その時だった。
「退いて!」
少女の声がした。
騎士達が振り向くと、馬が一騎素晴らしい速さで駆けてくる。その馬から騎士服を着こんだ少女がひらりと飛び降りてきた。
そして亀裂に駆け寄っていく。
「危ないぞ!」
「大丈夫!修復一班リリーです!亀裂修復します!」
リリーと名乗る少女は剣を抜くと、亀裂から顔を出そうとしていたオオトカゲの魔物をさっくり切り落とした。
亀裂から出ている顔の部分がころりと落下した。残りの体部分から体液が噴き出してくる。
少女の手から白い光が零れだす。それが一枚の布のように形作られた。
その布のようなモノが裂け目に貼り付き、覆いつくす。
次の瞬間、それが一層強く煌めいて、そして消え失せた。
布が消えうせた後は、裂け目も無かった。
「いっちょあがり!」
可愛らしい少女が笑った。
ニンジン畑の上は、もはや何処にも何も無い。
畑に転がった魔物の亡骸が、確かにそこに異界との門が開いていたことを示すだけである。
騎士の一人が信じられないものを見たように口をぽかんと開けている。
隣の騎士が、呟いた。
「一班のリリー。この子が……」
これは次元の裂け目を修復する事を専門とする修復師たちの物語である。




