最後のじゃんけん シナリオ
男: 冬の海は予想以上に静かだった。
鼓動が波の音を打ち消していたからだろうか。
女: 少し前を『彼』が歩いていた。
周りは二人っきりの浜辺。
付き合い出してもう8年。
男: この海にも二人で何度も来た。
女: いつも明るい彼。でも、今日は何か悩んでいる様だった。
…少し怖かった。
男: 気が付くと波打ち際まで来ていた。
女: 彼は振り向いて、私を見つめていた。
呟くように言った。
男: じゃんけんで決めようか。
女: 優しかった彼は意見が別れると、いつも言ってくれた。
「じゃんけんで決めよう」、と。
そして、彼はいつも『パー』を出してくれていた。
…我儘な私にいつも負けてくれた。
男: これが、最後のじゃんけんになるのだろうか。
女: 泣きそうになるのを必死に堪えながら、頷いた。
男女:じゃんけん!!
女: 笑顔を作って、右手を大きく振り上げた。
…しかし、彼は微笑んではくれずに。
振り上げた手を先に下ろしたのは、私の方だった。
最後の約束の『チョキ』を出して…
男: 初めて『グー』を出した。
多分、これが最初で最後の『グー』。
女: 泣きそうなのを堪えて微笑む私に、やっと笑顔を送ってくれた。
そして、
彼は、
ゆっくりと、
拳を開いて、約束の『パー』を。
その掌は、目映いばかりの…
男女:…婚約指輪が輝いていた。