ハンドーその手は誰の為にー
注意
実際の土地名使ってますが、全く無関係です。
大体あの辺で物語が展開されているんだぁ、感覚でお願いします。
職業等々調べて書いていますが、調べきれずに実際と違う場合あります。ご了承下さい。
あらすじ
交番で勤務していた藤間彗はとある事件の捜査に参加、解決したと思ったら何故か捜査一課に移動させられる事に。
状況が飲み込めないまま現場に出る事になり、そこで藤間は自分と組む事になった不思議な力を持つ高津飛鳥と出会う。
過去の罪を抱える藤間ととある真実を知ろうとする高津は啀み合いながらも事件を解決に導いていく。
「前の奴止まれっ‼︎」
叫ぶ声になんだと振り返る人々の間を抜けて逃げる後ろ姿を必死に追い掛ける一人の警察官。
彼、藤間彗は今犯人を追っていた。
◇◇◇
遡る事数時間前、東京都八王子市にある高尾駅南口交番。ここに藤間は出勤していた。
「おはようございます」
「おはよう藤間くん」
ベテラン先輩警察官浅川聡一に挨拶をしてロッカーに荷物を置きに行く。
「あれ、浅川さん。三浦さんと瀬戸さんはいないんですか」
「私が早くきたからね、三浦くんには登校の見回り行ってもらってるんだ。瀬戸くんいつもの木村さんだよ」
「なるほど」
ここの交番は六人三チームで組んでおり、当番の三浦透、瀬戸光の交代が藤間と浅川だ。
本来なら日勤で伊藤康弘と佐藤健太が来るのだが、伊藤は家庭の事情で半休の休みをもらっており、佐藤は有給休暇中だ。
現在八時二十分。
交代は八時三十分で浅川が早く来たので子供好きの三浦は率先して登校の見回りに向かったのだ。
そして瀬戸が現在対応している木村キヨというお婆さんは話し相手が欲しいのか何度も通報して来ては何も無い事が度々だ。
ただ、本当にもしもの事があっては困るので瀬戸に行ってもらい、引き継ぎもしたのでそのまま帰宅して非番に入ってもらう事になっている。
話によっては一時間以上拘束される場合があるからだ。
「藤間くん。はい、お茶」
「あ、すみません。ありがとうございます」
浅川はお茶を入れるのが得意で、藤間はそのお茶が好きで、浅川と一緒の時は必ず淹れてもらっていた。
お茶を飲んでいると小学校の登校の見回りが終わった三浦が帰って来た。
「ただいま戻りました」
「おはようございます、三浦さん」
「おはよう藤間」
「見回りご苦労様、三浦くん」
「いえ。それより浅川さん、不審者情報がありました」
「不審者?」
浅川は三浦にお茶を渡しながら尋ねる。
◇◇◇
先程まで三浦が自転車で通学路を見回りをしていた時の事だ。そろそろ登校する子供達が居なくなり交番に戻ろうとしていた三浦の元に一人の小学生が駆け寄って来た。
「お巡りさん」
「ん?どうしたんだい」
「あそこに変な人いたの」
そう言って指を指す方向にもう一人小学生が居て、ここだと教えるようにを挙げていた。
自転車を押しながら近付くとそこは小学校から目の先にある公園の端で一本大きな木がある所だった。
「あのねあのね、この木にかくれてこっちを見てたの」
「体がまっくろで顔もメガネとマスクで分からなかったんだ」
「それでね、友達のかず君に声をかけようとしてたの」
不審者は友達に話しかけ、手を伸ばそうとしていた。だが、二人の子供が近付くとそれに気付いて慌ててその場から去ったと言う。
二人は友達に大丈夫かと話しかけたがなんでもない、大丈夫と校内にさっさと入ってしまったのだ。
一生懸命に怪しい人を見たと訴えて来る子供達の話を聞きながら、一緒に学校まで行く。
「情報ありがとう。先生にも伝えておくから帰りはその友達が一人にならないようにしてね」
「はーい」
「バイバイ」
言って満足した子供は三浦に手を振って玄関に入って行く。
玄関の側で立っていた教師の元へ行くと先程の子供の話をして、注意を促して交番に戻って来たのだ。
◇◇◇
「また不審者ですか」
「しかも今回は声をかけて来る…か」
ここ一ヶ月で四回、この近辺で不審者情報の通報があったのだ。未だに犯人の目星がついていない。
「近くの交番にも情報共有しておこう。我々は取り敢えず見回りの強化かな」
「私も見回り手伝います!」
子供好きの三浦は休み返上してでも警戒にあたりたいと立候補する。
「でも三浦くん、当番明けじゃないか」
「平気です。子供達の安全を考えればどうって事ないです!行ってきます!」
「待って待って」
三浦の気迫に藤間と浅川は少し引いた。寝てないせいで気分が昂っているのかも知れなかった。
そして交番から出て行こうとした三浦の腕を浅川は捕まえる。
「えと、藤間くん…取り敢えず、見回りお願いしても良い?」
「了解しました」
そう言うと浅川は三浦に一度帰って仮眠して来るように促しているのを聞きながら、藤間は三浦の乗っていた交番の自転車を借りると辺りを見回りに向かった。
藤間は担当地域一通り辺りを回ったが特に不審者らしき人は見なかった。
一旦交番に戻ろうと引き返している途中、見覚えのある後ろ姿を発見した。少しスピードを上げて追い付き、自転車から降りた。
「瀬戸さん?」
「お、藤間。お疲れ」
「お疲れ様です。まだ制服着てるって、どうしたんですか?」
瀬戸は木村キヨというお婆さんの所が終われば交番に寄らないで帰宅しても良いと言ったと藤間は浅川から聞いていた。
なので、外に居るということは既に終わらせ、帰宅途中の筈だった。しかし、瀬戸は自宅とは反対、何故か交番の方に向かって歩いていたのだ。
「あのな、何時もの世間話かと思ったんだけどな木村さんが変な人見たって言ってな」
「変な人?」
「なんか全身黒尽くめで、サングラスして、カチャカチャ変な音を立てていたらしいんだ。無線も置いて来ちゃったし、携帯も充電忘れて朝には切れてたし。だから言いに行こうとしてたんだよ」
「そちらもですか」
「え?」
「さっき三浦さんが戻って来たんですけど小学生の子が怪しい人を見たって言っていたんです。それで俺が見回りしてたんです」
それを聞いて顔を顰めながら瀬戸は一瞬考え、顔を上げた。
「よし、俺も見回りするわ」
「瀬戸さんもですか」
「も、って三浦もか?」
「はい。でも、当番明けだから休めって浅川さんが注意してましたけど」
「あー…それもそうだな。万全じゃないといざって時困るな。藤間、俺ちょっと休んでから行くから浅川さん達に今の話しておいてくれ」
「はい、分かりました」
瀬戸と分かれた藤間は交番まで自転車を安全に速く漕いだ。
交番に着くと問い詰めるような話し声が聞こえて来た。なんだと思いながら中を覗くと三浦の目の前に全身黒尽くめの男が座っていた。
「お前だろ」
「ですから、違うって言ってるじゃないですか。全く、このお巡りさん話通じませんね」
「んだとっ」
「ちょっとちょっと三浦くん!落ち着いて!」
机に頬杖をしながら溜息混じりに呟く男に更にヒートアップしそうになった三浦を浅川が止めに入っていた。
そんな空間に入りたくは無かったが、仕事もしなくてはいけない藤間は取り敢えず室内に入った。
「…ただいま戻りました」
「藤間くん!良い所に帰って来てくれたね」
「なんの騒ぎですか」
「実はね、」
藤間が見回りに行った後、浅川が三浦を家に帰してから一時間も立たないうちに三浦が交番に戻って来たのだ。
目の前の男と一緒に。
帰っても気が落ち着かなかった三浦は怪しい人が居ないかと自宅の二階から道路を歩く人を観察していた。
すると件の男らしき怪しい人物が家の前を通ったのだ。
三浦は慌てて外に飛び出し、男を追いかけた。カチャカチャ不審な音を立てて歩くその男は怪しさ満点、三浦は確信した。
そして声をかけ、ほぼ無理矢理交番まで引っ張って来たのだ。
「任意で無理矢理って、不味いんじゃないですか」
「そうなんだよぉ、三浦くん多分寝てないせいで思考回路おかしい事になってるんだと思うんだけど、どうしよう」
困り顔の浅川につられて藤間も顔を顰めた。ふと、藤間は男がジッと自分を見ている事に気付いた。
「…君が、藤間?」
「え?はい、そうですが…」
急に名前を確認され、思わず肯定する。
藤間を見つめていたが、再び尋問してくる三浦に呆れ顔で視線元に戻した。
言い合う二人に気を配りつつ、浅川に瀬戸からの伝言を伝えた。
「なるほど…同一人物の可能性があるね。もしも、彼が犯人なら解決するんだけど」
「そうですね…でも、俺は何か違うような気が…」
そう言って藤間は考え込む。
三浦から聞いた小学生の証言、瀬戸から聞いた木村の証言。
「全身真っ黒、メガネ…いや、サングラス、マスク…?怪しい音…あれ」
「どうしたんだい」
「いえ、瀬戸さんから聞いた不審者の情報とこの人と一致してるんですけど、三浦さんから聞いたのってメガネでマスクでしたよね」
「そう言えば、そうだね」
「それに歩いている時に変な音って印象に残りやすいですよね。三浦さんはこの人を連れて来た理由って変な音してたからなのに小学生はそれを言わなかったのがちょっと疑問で…」
「確かに」
疑問に思った事を口に出すと更に気になってしまい、浅川に現場に行きたいと告げた。
浅川それに許可を出すと再び自転車に跨り、目撃のあった学校付近の公園に向かった。
その後ろ姿を男はソッと横目に見ていた。
◇◇◇
静かな公園でお年寄りが散歩している姿があちらこちらに見える。藤間は公園に着くと目撃のあった木の側まで来る。
木の影から学校の方を見ると校門がしっかり見る事ができ、登下校する小学生の姿がしっかり見れる場所だった。
軽く風が吹くと上からポツリと雫が落ちる。つられて藤間は地面を見ると湿っており、自分の足跡が付いてあった。
「今朝方まで雨降ったからか…もしかすると不審者のも」
そう思って下をよく見るとスニーカーのような足跡が何箇所か付いていた。その足跡はどれも同じように見えた。
「小学生の言っていた不審者の足跡かもしれないな…」
だが、これで交番にいた男がここにいた可能性が小さくなった。
何故なら男は革靴を履いていたからだ。もしかするとここから逃げた途中に履き替えた可能性があるが、それなら靴よりも目立つ服を真逆な物に変えるべきだ。
「あの不審者はまた別。もう一人いる」
その時無線が繋がった。
『こちら高尾駅南口交番浅川です。藤間くん聞こえてますか。どうぞ』
「浅川さん?はい、こちら藤間です」
『藤間くん、今何処ですか?さっき瀬戸くんから不審者らしき人を見つけたと連絡が来たんです』
「えっ、瀬戸さんが?」
浅川からの話によると瀬戸が仮眠をとっていると急に知り合いから電話が来た。
「俺んちの隣の家覗いてる奴いるんだけど!」
不審者に見えるがもしかしたら違うかもしれない。不安になった知人は知り合いである瀬戸に連絡を取ったのだ。
瀬戸は取り敢えず携帯片手に知り合いの家まで向かった。
知り合いの家に入ると窓際まで連れて来られ、外を見ると黒い服を着て、顔を隠すように帽子とサングラスをした人が少し離れた所から様子を伺っていた。
人が近くを通ると携帯に視線を落とし、キョロキョロ辺りを見て如何にも迷ってますな空気を出していた。
「怪しいな」
「だろ?」
そこで瀬戸は交番に連絡して現状を伝え、浅川が藤間に連絡したのだ。
『ですので瀬戸くんと合流して下さい』
「了解しました」
住所を聞くと藤間は急いで瀬戸の元に向かって自転車に乗って走り出した。
◇◇◇
現場近くの曲がり角に身を潜めると藤間は瀬戸に携帯から連絡をした。
『もしもし』
「藤間です。現着しました。瀬戸さん、不審者の位置、教えて下さい」
『今、家から少し離れた所にいる。藤間、お前どこにいるんだ?ここから見えないんだが…』
「曲がり角にいます」
藤間は自分の格好見られれば一発で警察官だと分かり、逃げ出してしまうかもしれない可能性がある事に気付き、取り敢えず見えない位置から連絡したのだ。
それを瀬戸に話すと瀬戸からも肯定があった。
『なら、挟み撃ちだ』
この道は藤間のいる所から向こう五十メートル程横道が無く、直線だ。
そこで先に瀬戸が藤間のいる反対側に位置に付いて不審者を挟み込む。藤間が近付いて逃げようとしても瀬戸が防ぐ算段だ。
『準備でき次第合図するな』
「了解です」
そう言って一度携帯を切る。瀬戸が準備している間に藤間は浅川に無線を入れた。
「こちら、瀬戸です。浅川さん、瀬戸さんと合流しました。今から不審者らしき人物に話を聞きます」
『藤間くん、浅川です。気をつけて下さい、何か有れば直ぐに連絡下さい』
「了解です」
プルルルと携帯が鳴る。
合図の着信音を聞くと藤間は自転車を立てかけ、不審者の方に向かって歩き出した。
なるべく音を立てないように近付くが、人の気配を感じたのか不審者は藤間の方を振り向く。
警察官が自分の方に向かって歩いて来るのにギョッとし、自然に見えるように藤間とは逆の方に向かって歩き出した。
だが反対方向に居た瀬戸がそれを確認して不審者に近付き、進路を塞いだ。
「警察です。すみませんが話を聞いても宜しい、」
「っ!」
不審者は話しかけて来た瀬戸の脇から走り抜けた。咄嗟に腕を伸ばすが空振りに終わる。
それを見た藤間は走り出した。
「待て!」
瀬戸も走り出そうとしたが、当番明けで仮眠も充分に取れてない自分では足手纏いになると感じ、先に浅川に連絡しようと携帯を鳴らした。
◇◇◇
「前の奴止まれっ‼︎」
叫ぶ声になんだと振り返る人々の間を抜けて逃げる後ろ姿を必死に追い掛ける藤間。
「くそっ、追い付けない」
不審者は慌てているせいのかずっと直進して逃げ続けるが、なかなか追い付けない。
藤間は目の前の不審者も見失わないように走りながら頭を回転させる。
この直線上にある横道、その中でも人の少ない道、周辺の交通状況、そこから考えられるルート。
「ここだっ!」
藤間は更に加速をして不審者の左横に出た。捕まえようと手を伸ばして来る藤間から逃れようと目に入った右側の横道に入る。
藤間は狙い通りだと後を追いかけた。
少し奥まで入ると目の前では工事をしていて通行止め、不審者が通れず立ち往生していた。
「もう逃げられないですよ」
荒い呼吸をさせながら不審者は振り向き、藤間へ一歩一歩近付く。
そんな不審者に警戒を露に、警棒に手を伸ばし、もしもの時に備えた。
「すみませんでしたぁぁあ‼︎」
「…え」
不審者は勢いよく頭を下げた。
それは、綺麗な九十度の直角だった。
◇◇◇
藤間は確保したと浅川に連絡をして、藤間の置いて来た自転車に乗って追いかけて来た瀬戸と共に交番へ向かった。項垂れて椅子に座り込む男の前に浅川が座って話を聞く。
三浦が連れて来た人物は八時三十分に駅に着いたと防犯カメラに写っているのが確認され、取り敢えず今日現れた不審者では無い事が証明された。
名前と住所を聞いて解放しようとしたが、男は何も言わず何故か居座る気満々で、自分が座っていた椅子を壁際まで引きずり、浅川と男の様子を眺めていた。
「齋藤治、さんですね」
「…はい」
肩を落とした男、齋藤治は自分の罪を認めた。
「お恥ずかしいのですが、妻と喧嘩しておりまして…」
齋藤は語り始めた。
最近自身が運営する会社のプロジェクトで忙しく、家族との約束を何度も何度も破り、蔑ろにしていた。
最初は妻の佳奈も仕事だからしょうがないと理解して、そんな夫を協力的に支えていた。
だが、どうしても息子の和樹の行事には出て欲しいとお願いされた齋藤はもちろんと了承したのにも関わらず、行事当日に会社からの連絡を受けて齋藤は会社の方に行ってしまったのだ。
後から駆けつけるから、間に合わせるからとその言葉を妻は半信半疑だがそれでも信じた。
しかし、齋藤が帰って来たのは子供が寝静まる夜だった。
溜まりに溜まったものが今回の件で爆発した妻は家から齋藤を追い出してしまったのだ。
何度も何度も話させてくれと頼んでも一切聞く耳を持たなかった。
「それで、今日は…話さそうと家の前に行ったんですけど、どうやって話せばいいか分からなくなってしまいまして…」
妻に通報されたと焦って逃げたとごにょごにょと小さくなる声に浅川達は溜息を突いた。
夫婦喧嘩が原因で不審者騒動起こしたのかと傍迷惑な話だ。
「じゃあ、あれか?何度も小学校行っていたのは子供に会う為か?」
「え?小学校?」
「行ってただろ?今日だって学校側の公園に…」
「いいえ?今日は家に着いてからずっとそこにいましたけど」
その言葉に嫌な予感がして藤間は齋藤へ質問をする。
「齋藤さん、ここ最近小学校に訪れた事は?お子さんとは会っていたんですか?」
「え?ありませんけど?息子とは携帯で連絡とってますが、妻と喧嘩してから半月程会ってません」
藤間達はお互い顔を見合わせる。
一連の不審者が目の前の齋藤だと思っていたが、もし齋藤の言葉を信じるとなると、不審者は別にいる。
そんな中、静まり返った部屋に高尾警察署から無線が入った。
『高尾警察署管内で小学生誘拐事件発生』