閑話3 ある公爵令息の憂鬱 変化編
すみません!遅くなりました!
毎回毎回、毎回毎回!ヴァシリー様に邪魔されながらも、僕とレーナは仲を深めていった。
そう。念願の愛称呼びをするほどまでになったのだ…!
感・無・量………!!
初めて「オーリャ」と呼んでくれたときの、あのはにかむ顔が可愛くて可愛くて…心臓止まるかと思った。目ぇかっぴらいて脳内に焼き付けた。
レーナは恥ずかしがって手元のカップを見ていたから僕の反応に気付いていなかったけど、彼女の侍女であるヤーナは明らかにドン引きしていた。…彼女には僕の本性がバレてる気がする。
そう…僕は隠している。自分の本性…つまり、レーナのことが超超!好きだっていうことを。
だって…女の子は余裕のある男が好きだろう?
慌てず優雅に女性をエスコートする男。女の子を暖かく見守る男。そういうのがモテるって、あるプレイボーイな伯爵が言っていた。
それにレーナは学問でもなんでも、追い求めるのが好きだ。研究肌だからだろう。何事もとことん突き詰めるタイプなのだ。
だから、完璧に「手に入った」と思わせてはいけない。ゴールはまだまだだと思わせなければ。
追う側ではなく、追われる側にならなければならないのだ。例え実際は僕の気持ちの方が万倍も大きくて重かったとしても、それを隠さねばならない。
実際、レーナはどんどん僕に惹かれてくれているようだった。
どんどん手紙もお茶会も頻繁になり、会えば目をキラキラさせて、帰るときはしょんぼりとして…。(余裕なフリをしていたけど、もちろん僕もものすごくものすごく寂しくて毎回泣きたかったけども!)
僕の可愛い可愛いレーナ。
本当はぎゅうぎゅうに抱きしめて、愛を囁いて、唇を啄んで…甘やかしまくってどろどろに溶かしてしまいたい。
でも、ダメだ。
もっともっと僕にのめり込んでもらわなければ…!
僕はもうすぐ学園に入学しなければならない。
そうしたら離れ離れ…。
王立学園は魔力がある者が入学できるが、義務ではない。
現にヴァシリー様は在籍してはいるが政務で学園にいないことがしょっちゅうだ。
レーナはもしかしたら入学すらしないかもしれない。なんせヴァシリーが人に会わせたがらないからな…。
そうなると卒業まで4年も遠くに住まなければならなくなって…なんて拷問だ!?
もし、その間に誰かがレーナに迫ったら?
もし、レーナが他の誰かの魅力に気付いてしまったら?
今までの彼女の世界は狭かった。だから僕以外の選択肢は無かったように思う。
でも、これからはそうもいかなくなってくる。
独占したい。笑顔にしたい。誰にも見せたくない。自慢したい。閉じ込めたい。幸せにしたい。
僕の心はぐちゃぐちゃだった。
でも…入学一週間前。
神様は僕に微笑んでくださったのだ。
入学前の最後の婚約者同士、いつものお茶会。
「お待ちしておりましたわ!」
「……………!?」
いつも通り邪魔なヴァシリー様と一緒に迎えてくれたレーナが…僕のレーナが、丸々と、それはもう!丸々と太っていたのだ!!
…そんなバカな。3日前までは普通だったぞ!?
すらりとしていた腕は今は見る影もなく、ハムのようにパンパンで、指も太い。たまに見かける、ビビるほどでっかい芋虫並に太い。折れてしまわないか心配になるほど細かった腰も、今はくびれが存在しない。むしろ主張がすごい。そして顔もものすごく丸い。するりと撫でればほわほわと柔らかかった頬も、今は見るからに張りがすごい。見るからに弾力がすごい。
え、3日で!?んなわけある!?
…これはレーナか?似ている親戚とかではなく?いや、レーナに年の近い親戚はいなかったはずだ。では赤の他人?替え玉?そんなバカな。声はレーナ本人だぞ!?僕が間違えるわけないだろう!!
いったいどうしたんだ!?
レーナ…と、思われる女の子はニコニコとしており、特段困った様子も、具合の悪そうな様子もない。え、もしかして太った自覚ないのかな!?
婚約者とはいえ「どうして太ったの?」などと女性に聞くのは失礼だろう。
僕はレーナの隣に佇むヴァシリー様に目で問う。ヴァシリー様はレーナの頭に頬を寄せ、ニヤリと笑った。
「レーナは今日も変わらず可愛いだろう?」
「変わらず……」
変わってるだろう!?劇的に変わってるだろう!?3日で太れる常識の域を越えているだろう!?レーナが二人分くらい増えただろう!?
ああ…可愛かったレーナが…。可愛………かった?
ふと彼女と目が合う。
碧い宝石のような瞳。光を閉じ込めたような、澄んだそれは…ああ、間違いない。僕のレーナだ。
僕はレーナの見た目が好きなのか?………うん、好きだな。
しかし、見た目だけが好きか?それは否、だ。
レーナの頑張り屋なところも、恥ずかしがり屋なところも、優しいところも、それでいて芯がしっかりしているところも、全部全部好きだ。
そうだ。見た目…も、ものすごく、かーなーり、好きだったが、中身はもっともっと好きだ。
時間をかけてレーナがどんどん僕を好きになってくれたように、僕もレーナを知る度にもっともっと好きになっていたんだ。
それにさっきは驚きはしたが、見た目もそんなに悪くなっていないんじゃないか?
綺麗な髪や肌、瞳はそのままだ。体重なんていつか減らせばいいんじゃないか?まぁ、減らなくても僕の気持ちは変わらないが。
…まてよ?これだけ太っていれば、男はそうそう寄り付かないんじゃないか?
これで学園に行っている間も心配しないで済むじゃないか!
これは神から僕への贈り物に違いない!なんて素晴らしいんだ!
僕はにっこりと微笑む。
「ああ、そうだね。レーナは今日も可愛いよ」
はにかむレーナの横でヴァシリー様が目を見開く。
僕が婚約破棄でも言い出すと思ったのかい?僕のレーナへの愛をなめないでほしいな。
レーナがレーナである限り、僕は彼女を愛する。
どんなことがあっても。
*****
「それなのに…」
最近彼女が変わった。
毎日送ってほしいと可愛くおねだりされた手紙は「送らないでいい」と言われ、毎週末やりたいと言っていたお茶会も「しなくていい」と言われ…。
確かにあの手紙をもらった時は試験前だったから「今週末は勉強したいからありがたい」って手紙に書いた…書いたよ!?だからって「そうですよね。今まで気付かずにごめんなさい。これからは来なくて大丈夫ですわ」って…違う!違うよ!?あの時だけだよ!?
だって試験で悪い点とってかっこ悪い噂が流れて、それがレーナの耳に入ったら嫌じゃないか!できれば「オレグ様は成績も良くてステキ!」っていう噂を耳にしてほしいじゃないか!
何度も手紙で否定しているのに全然聞き入れてくれないし。「お優しいのですわね」って…違うから!僕が会いたいだけだから!
もしかして会わないうちにレーナは僕に飽きてしまったんだろうか?
他に好きな男でもできたんだろうか?
最近手紙に他の男の名前がちらほらと出てくるようになったが…その中の誰かに想いを寄せているんだろうか?
護衛のラルフに護身術や剣術を教わる予定だって楽しげに書いてあったっけ。
シェフのボリスラーフと新しい料理を開発してるとも書いてあったな。
あいつイケメンなんだよな…。発言があれだけど。
ああ、気になる!
レーナに送らないでいいって言われたこの状態で、何度も手紙を送りつけたら重い男だと思われるから、なんとか3日に一通出すくらいに留めている。でも…レーナからの手紙は二通送って一通返ってくる程度。
想いの差が切ない!!
お茶会も断られるし、手紙もなかなか来ない。
ああ…会いたい。会いたい会いたい会いたい!
いや…僕は彼女の婚約者だぞ?何を遠慮しているんだ。すぐに部屋に戻って週末会いに行くと手紙を書こう。うん、いい考えだ!
彼女に会えると思うと沈んでいた気持ちが浮上する。
彼女の笑顔が見たい。
できることなら手を握って、髪をなでて、こっそり匂いを堪能したい。
そして…また「お慕いしておりますわ」と、言ってほしい。
期待と不安をない混ぜに、僕は自室へと急いだ。
長々とすみませんでした!(すみませんでした!)
オレグ編、やっと終わりました…。(やっとって…)
(でもいよいよ僕とレーナのラブラブ編が始まるんだね!)
それはどーかなー?(え!?)