表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/76

閑話1 ある公爵令息の憂鬱 出会い編

やっと噂のオレグ様、登場。


「オレグ様!お茶をご一緒いたしませんか?私、オレグ様ともっとお近付きになりたいんです…」


胸の前で手を組んで、目を潤ませながら上目遣いに僕をお茶に誘ってくるこの令嬢は…確か、同じクラスの令嬢だ。

友人が可愛いって騒いでいた気がする。確かに可愛いんだろう…が、僕の胸には響かない。

僕の心を動かせるのは()()だけだ。


「オレグ様の婚約者様はこの国の姫君とはいえ…あの風貌ですし、性格もあまり良くないとお聞きしました。オレグ様、お可哀そう…」


うん、キミそれ不敬罪だからね?

グッと眉が寄りそうになるのをなんとか押し留める。あぁ、でも頬の痙攣が…。頑張れ、僕の表情筋。


「よろしければ私が癒やして差し上げますわ…」


スススッと近寄り、僕にしなだれ掛かって来……そうだったので、ヒョイッと避けた。


「ぐぇっ!」


令嬢が潰されたカエルみたいな声を出して盛大にコケた。どんだけ全力でもたれようとしてたんだよ。図々しいな。

本来なら…紳士ならここで手を差し伸べて「大丈夫?」と聞いてあげなければいけないんだろうが…しないよ?

君は()()を悪く言ったからね。


「悪いけどお茶は遠慮しておくよ」


ニッコリと、地べたに這いつくばったままこちらを見上げる令嬢に笑いかけると、振り返らずにその場を後にする。

……よくあの状態で頬を染められるな。

神経が図太過ぎるだろう。


「はぁぁぁ〜」


僕は普段ならしないであろう、大きな溜め息をつく。

誰かに見られたら僕のイメージが壊れてしまうかもしれない…けど、そんなことに構っていられるほどの余裕が今、ない。

なぜなら僕を悩ませるある大きな問題が発生しているからだ。

それは、()()が…愛する愛する婚約者のレーナが、どうやら僕を遠ざけようとしているからだ。


ふっと優しい風が頬を撫で、僕を懐かしい思い出に誘う。

今日みたいな暖かい春の日。

城の庭園で開かれた子どもたちのお茶会。

まだ細かった彼女と視線が絡まり、手を引かれて…。

それが彼女との運命の出会いだった。




お茶会は社交界デビューをする前に子どもたちの人脈を広げるための場だ。形式張ってはいないが、軽んじてもいられない。

僕はヴァシリー殿下と同い年で公爵家の息子ということもあり、将来、殿下の側近候補として毎回欠かさず招待されていた。

そのおかげでヴァシリー様とは気の置けない友人だ。


その日も子どもたちだけのお茶会に招待されていたのだが、その日いつもと違っていたのは、初めてヴァシリー様の妹君であられる、レギーナ殿下がご出席なさるということだった。


レギーナ殿下は僕らのふたつ下の10歳。

本来ならもうとっくにお茶会デビューを果たしていても良かった筈なのだが、なんだかんだと理由をつけて先延ばしになっていた。

ちなみにそのなんだかんだと理由をつけていたのはヴァシリー様だ。

彼は妹を大層可愛がっており、人に見せるのさえ嫌がっていたのだ。

もちろん僕も会ったことはなかった。


ヴァシリー様は普段冷静で頭も切れ、まさしく「王子」といった風格を持っているのに、妹の話となるとデレる。それはもう、まともには見ていられないぐらいデレる。

正直、気持ち悪……んんっ。ゴホン。

とにかく普段の彼からは想像できないくらいの溺愛っぷりなのだ。


そんな妹のレギーナ殿下がとうとう人前に出る。

皆がみんな注目していたのは間違いない。


その日のお茶会は青々しい木々と色とりどりの花々が美しい庭園で行われた。

天気にも恵まれ、植物たちが嬉しそうにキラキラと輝く中、子どもたちの笑い声が響く。

あぁ、気持ちのいい日だな…そんなのんびりした気持ちで会場に足を踏み入れ、ぐるりと見渡し…ある一箇所を見て、固まる。


たくさんの子どもたちに囲まれ、微笑みを浮かべる可憐な少女に目を奪われたのだ。


隣には威圧的な顔のヴァシリー様がいるから…彼女がレギーナ殿下で間違いないだろう。それにどことなくふたりは似ている。

しかし…ヴァシリーが人前に彼女を出したがらなかった理由が分かった。

彼女は…美しすぎる。


編み込んだ髪をハーフアップにして、ピンクの花々を飾り付けた金色の髪が太陽の光を纏い、柔らかく風に靡く。

碧い瞳は凪いだ湖面のように透き通っており、動けばキラキラとサファイアのように輝く。

長く、けぶるような睫毛は俯くと頬に影を落とし、10歳だというのに、なんとも言えない色気を醸し出している。

雪のように白く、人形のようにきめ細かい肌に人間らしい可愛らしさを添える上気した頬は、指を滑らせたいという衝動を突き動かす。

そして小さな唇は花びらのように可愛らしく、見ているだけで甘く胸を締め付ける。許されるなら、僕の唇を彼女のそれに寄せて………

突っ立ったまま夢想していた僕は、急に現実に引き戻される。


………彼女と、目が合ったのだ。

彼女が人混みの向こうから僕を見て、目を見開いている。


僕は公爵家の長男で将来も有望で、自分で言うのもなんだが見た目も整っていたために女の子たちからかなり人気があった。

もしかして、彼女も僕に見惚れてくれたのだろうか?

もしかして、彼女も僕みたいに…恋に落ちてくれたのだろうか?


期待に胸が高鳴る。


彼女の周りの子どもたちが彼女の視線に気付き、こちらを振り返りそうになった…その瞬間。


「あーっ!?UFOですわっ!!」


殿下は僕とは明後日の方向を指差し、叫んだ。

それにつられて周りの子どもたちもそちらを向く。

もちろん、僕も。


……ゆーふぉーってなんだ?


ぽかんと指の先の方向を見つめていたら…くんっと誰かに手を引っ張られる。

驚いて引っ張る手を視線が辿ると…それは、彼女…レギーナ殿下だった。


「こっちですわ!」


小さく囁いた声が可愛らしい。

そして僕は彼女に手を引かれながら、内心、パニックだった。


(うわぁー!うわぁー!レギーナ殿下が僕を見た!僕に触れた!声が可愛い!ていうかどこに連れて行かれるの!?え、もしかして誰にも気付かれないように僕と二人きりになりたとか!?じゃ、じゃあ…殿下も…ぼ、ぼ、ぼ、僕のことを!?うわぁ――――!!)


殿下が僕を連れて行ったのは植えられた木々の少しの隙間だった。

彼女は他に人の目が無いことを確認すると、僕と向き合う形で目を合わせた。

僕と彼女にはそこそこ身長差があるので、見上げられる形になる。


「くっ……………かわっ!」

「え?皮?」


あ、心の声漏れ出た。

ちくしょう…きょとんとしている殿下も激カワだ!


「わたくし、アルエスク王国が長女、レギーナ・アルエスクですわ。突然引っ張ってきてしまって失礼いたしました」


彼女は美しい所作で淑女の礼をしながらも、チラチラと僕のことを盗み見てくる。

この反応は他の令嬢たちでよく見る。………間違いない。

これは恋だ…!恋に間違いない!!彼女は僕にフォーリンラブだ!!

気になるから見たい。でも恥ずかしい…そういう葛藤だね?

ふふふ。このまま悔しがるヴァシリー様を尻目に国王に報告して、僕の父上に報告して、そして明日には婚約だ。

そして毎日毎日イチャイチャするんだ!

可愛い可愛い彼女をドロドロに甘やかして、もう僕から離れられないくらいにゾッコンにさせて、あんなことやこんなことを……!


「その……………鼻血が……」

「……………え?」


うん?今、なんて?愛の告白を聞き逃したかな?

殿下がチラチラと僕を伺いながら、気まずそうにハンカチを差し出す。


「鼻血が…出ておりますわ。どうぞこちらを使ってくださいませ」

「鼻、血…?」


手で鼻の下に触れてみる。

ぬるりという感触。見れば…手にべっとりと血が付いている。


「うわぁ!すみません!!」


それは鼻血を拭くのにハンカチを借りることに対してなのか、不埒な想像をしたことに対してなのか、何に対する謝罪だったのか分からないが、なんだか非常に謝りたい気分だった。

僕は彼女からハンカチを受け取り、鼻血を拭う。幸い、滴る程ではなかったが…両方の鼻から垂れた鼻血が唇に沿って両脇に流れていて…たぶん髭面のオヤジみたいになっていただろう。

うん、結構出てたね。気付けよ、自分…。


ショックだ…。こんなにも可愛い殿下との出会いが鼻血面だなんて…。

もう、彼女の中で僕は「鼻血を出した人」になっているに違いない。もしくは「鼻血の髭の人」。

いや…もし、もしもさっき考えてたことが顔に出てて、それが彼女にバレてたら…?「自分を見て興奮して鼻血を出した人」?も、もう、すでに「鼻血変態野郎」とか!?

またもやパニックの渦に投げ込まれた僕。

も、もう…おしまいだ………。


「ご気分は大丈夫ですか?今日は日差しが強いですから、のぼせてしまったのかもしれませんわね」

「え?」

「……誰も気付いていませんでしたから、心配いりませんわ」


僕を見上げて小声で囁き、安心させるようにふわりと微笑む。

こんな変態の僕を心配してくれる…君は、天使かな?

どうやら僕の心の中は読まれていなかったらしい。良かった…。

でも。あぁぁぁ…!こんな純粋な子に対して僕はなんてことを考えていたんだ…!

でもでも、純粋だからこそ自分色に染め上げたいという煩悩が…!悩ましい!なんて罪な人なんだ!!好きだ!!


「ありがとう。助かったよ」


鼻血を出した後で格好がつかないが、僕は自分で出来うる限りの人好きのする笑顔を貼り付ける。


「僕はオレグ・ガルロノフ。以後、お見知りおきを」


僕は恭しく彼女の手をとり、そっと口付けを落とす。

すべすべふわふわで気持ちいい………という感想はおくびにも出さず、紳士然とした態度で微笑む。


「あ…こ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」


ポッと彼女の頬が染まる。


……よっし!

掴みはなかなかいいぞ!

これで「鼻血を出した人」から「素敵な人」に…は、まだなってないかもしれないが印象は格段に上がったはずだ!


僕は決めた。必ず彼女を手に入れる!

ヴァシリー様の友人という立場と公爵家の息子という地位、そしてこの顔を利用して、必ずや彼女から僕を求めるようにしてみせる!

ふふふ…。逃さないよ?


「ところでゆーふぉーってなに?」

「え?」


首を傾げるレギーナ殿下…カ、ワ、ユ、ス!!!!



オレグ編なんて1話にまとめるつもりだったのに(オイ!)変態な脳内を説明するのに長引いてしまったので(ちょっと!?)残念ながらまだ続きます。(残念じゃない!僕と彼女の愛の軌跡だぞ!?ありがたく…)

ごめんなさい。


※ツッコミは某公爵家令息。

「キレが甘い!」 by ヤーナ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ