57 答え合わせですわ
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「おや。今日の魔法訓練にはずいぶんたくさんの方がお見えですね」
魔法訓練の日。
いつもならば来るのはわたくしとヤーナ、ラルフくらいですが、今日は他にオーリャと詩織様もお呼びしましたの。
ちなみにオーリャ以外はなぜ呼ばれたのかはまだご存知ありませんわ。
恐らくただ、わたくしの魔法訓練の見学に呼ばれたのだと思っていることでしょう。
ですが。
これから始まるのは今までの一連の事件についての答え合わせなのですわ。
「ええ。是非ともわたくしたちに教えていただきたくて」
「何をです?」
いつも通り穏やかな笑顔を浮かべる師団長様。
この笑顔に何度、救われたでしょう。
だからこそ、ここで終わらせなければ……!
「師団長様がなぜ、詩織様を殺害しようとしたのか、ですわ」
「…………ほぅ?」
「えっ!?」
師団長様本人とオーリャ以外の全員が信じられない、といった顔でわたくしと師団長様を交互に見ていらっしゃいますわ。
驚くのも無理はございませんわ。
アナトリー魔法師団長様はいつも笑顔を湛えている温厚な方。
そんな方が、詩織様を殺そうとした、だなんて……俄には信じられませんもの。
「師団長様は以前おっしゃいましたわ。『常識と掛け離れたことが起こるとき、そこには魔法の干渉があることが多い』と」
「………そんなこと言ったかもしれませんね」
「それで今回のことも、魔法が関与している可能性があるのではないか、と考えましたの」
「ほう?」
それは興味深いですね、と未だ笑顔を浮かべたままの師団長様。
まるで幼子の作ったお伽噺を聞いているかのようですわ。
「今回の事件で異常だったこと。それは、騒動を起こした本人たちの記憶が変わったこと、ですわ」
そう。今回の事件を複雑にしていたのは、キャサリーナ嬢とマルコム、そしてタラス様の記憶が変わっていたことですわ。
直前までそんな素振りもなかったのに、突然詩織様を殺害しようとしたこと。
わたくしに頼まれた、と記憶が刷り込まれていたこと。
騎士団長様に命令された、と思い込まされていたこと。
それで思い出したのですわ。
「あなたは以前の会話の中でこうおっしゃっていましたわ。記憶を操ったり混乱を引き起こすような禁じられた薬草がある、と」
「…………そんなものもあるらしいですね。ですがその薬草は販売も栽培も禁止されていますので入手は不可能ですよ」
あくまでもとぼけるのですわね。
ですが…………
「残念だな。僕が闇市を調べて突き止めたよ。君が城でも買えそうな金額でその薬草……シュラーツェ草を購入したってことを」
「!」
そうなんですの。
わたくしがオーリャに頼んでいたのは、禁止薬草を師団長様が手に入れていたという事実を突き止めることですわ。
市場に出回ってはいけない薬草。
手に入れるならば後ろ暗いところを頼るしかないはず、と、闇市場を調査していただいたのですわ。
ちなみにシュラーツェ草のことは王立図書館の禁書庫でわたくしが調べましたわ。
シュラーツェ草は珍しい薬草で、しかも悪用されやすいことから存在自体秘匿とされているのに………その薬草の存在、且つ難しい利用方法までご存知だったのはさすが魔法師団長様、とでも言いましょうか。
ですが今回はその知識と情熱の利用する方向を違えてしまった、としか言いようがありませんわ。
師団長様はオーリャの言葉を聞いた途端、一瞬にして顔を歪ませましたわ。
キッとオーリャを睨むと、いつもの穏やかな様子から一転、声を荒げましたわ。
「またあなたですか!いつもいつもいつも!!自分の邪魔ばかりして………!」
また?いつも……?
師団長様が鬼の形相でオーリャを睨むも、オーリャは涼しいお顔。
暫く緊張の睨み合いが続きましたが、師団長様は諦めたのか、軽くため息をついてわたくしに向き直りましたわ。
そのお顔は先程のように怒ってはいませんでしたが、以前のような穏やかさもなく……とても、疲れている様子ですわ。
「レギーナ姫は本当に記憶力がいいですね。何年も前に言ったことだったのに」
「あなたも覚えてらっしゃいましたわ」
「自分は………レギーナ姫とのことは全て覚えていますよ」
「記憶力がいいのですわね」
「そうなりますか………」
「?」
『まぁ、分かってましたけどね…』って、何がですの?
そんなわたくしたちの様子を呆けて見ていた他の3人でしたが、いち早く意識を取り戻したのは詩織様でしたわ。
「ちょ、ちょっと待ってください!全然話が見えません!結局どういうことなんですか!?」
「失礼いたしましたわ。分かりやすく説明致しますわ」
そうですわね。
皆様に詳しく説明を致しましょう。
結論から言うと、今回の事件は全て師団長様が仕組んだものだったのですわ。
まず師団長様はシュラーツェ草という取引も栽培も禁止された、記憶を改ざんする薬草を闇市場で入手したのですわ。
「そしてまず……わたくしに飲ませたのですわよね?」
「えっ!?」
全員が驚いている中、師団長様だけはうっすらと笑顔を浮かべたままですわ。
そう。
キャサリーナ嬢とマルコムより以外に突然記憶が変わった人物がいたのですわ。
それは、わたくし。
「前世や本の記憶は師団長様が作り出した記憶、ですわね?」
「流石ですね。そこにお気付きになられましたか」
そう、全てが作りものだったのですわ………!
わたくしが前世の記憶や本の記憶を取り戻したとき。
あのときわたくしはハーブティーを飲んでいましたわ。
そしてあの日、ヤーナにはお休みを取らせていたのですわ。
「恐らくあの日、ヤーナの代わりの侍女を買収したか記憶を改ざんしてわたくしにお茶を飲ませたのですわね?」
「流石ですね。あの日は滅多に休みをとらない専属侍女殿がお休みでしたから、代わりの侍女に宝石をプレゼントしました。宝石なんかで買収されて、一国の王女に毒味もせずに怪しいお茶を飲ませるなんて、とてつもなく頭の弱い侍女ですよね」
「……あなたがそうさせたのでしょう」
「確かに、そのおかげですんなりとお茶を飲んで頂くことができました」
わたくしはハーブティーを飲んだだけ。
なのに、わたくしにはまんまと偽の記憶が植え付けられてしまったのですわ。
なんて恐ろしい薬草ですの………!
「ま、待ってください!つまりは私がいない間に…姫様が他の侍女に薬草を………毒のようなものを盛られたということですか!?」
「落ち着いて、ヤーナ。わたくしは大丈夫ですわ」
ヤーナは責任感の強い侍女。
『姫様の元で働くことが人生で一番楽しいことですから!』と言って休みもほとんど取らないような、仕事中毒な侍女。
そんな彼女が珍しくお休みを取った日にわたくしが毒を盛られただなんて………ヤーナが気に病まなければいいのですが。
「待って下さい。前世とか、本の記憶っていうのは……?」
「あぁ、それはですわね………」
詩織様にはお話したことがございませんでしたわね。
わたくしは植え付けられた、前世の記憶や前世で読んだ本のお話をいたしましたわ。
「え?でも……その前世のお話、すごく私がいた地球と似てます!というか地球ですよね!?」
「そうですわ。恐らく師団長様は以前の聖女様の伝記を参考にしてわたくしに記憶を刷り込んだのかと」
「以前の聖女様も地球出身………?」
「その通りですわ」
こちらも王立図書館で厳重に保管されていましたわ。
そこには聖女様が語った、地球の様子やご趣味が書いてありましたわ。
そして前回いらして頂いた聖女様のご趣味は、読書。
特に地球で言う転生物のライトノベルがお好きだったようですわ。
「そしてそこには強制力の文字もございましたわ」
そう。最初から最後まで、全ては師団長様に仕組まれた事だったのですわ。
「そうしてわたくしに偽りの記憶を刷り込んだ後、キャサリーナ嬢の事件を起こしたのですわ。恐らくキャサリーナ嬢はパーティー会場で犯行直前にこのお茶を飲まされたのですわ。ドリンクに紛れ込ませて飲ませたのでしょう。そしてマルコムも休憩室でこのお茶を飲まされたのですわ。休憩室にあなたがいらっしゃったのは……マルコムにこのお茶を飲ませるためだったのですわね?」
恐らく全てはわたくしに自分のせいと思わせるように。
強制力が働いていると思わせるように。
だからキャサリーナ嬢やマルコムは………無差別に選ばれただけ。
きっと誰でも良かったのですわ……!
でも、誤算が生じたのですわ。
それは、マルコムがわたくしを未だにデブスだと思っていたことですわ。
「恐らくあの薬草茶が植え付けられる記憶には限りがあるのではなくて?」
「そこまで分かりましたか。流石ですね……!」
こんな状況だと言うのに、師団長様は目を輝かせましたわ。
魔法好きを、同胞を見つけたかのように。
「あの薬草茶は大まかな情報しか植え付けられません。あの薬草の面白いところは飲んだ者がその情報に気付かないうちに肉付けしてしまうところなんですよ!」
「な、なにを………」
詩織様も得体の知れないものを見るかのように、顔を引き攣らせていますわ。
「例えばシュラーツェ草で『きのうはレギーナ姫と一緒にディナーを食べた』という記憶を刷り込む。すると、レギーナ姫がどんな格好をしていたか、どこでどんなディナーを食べたのか、その後どう別れたか、知らないうちに勝手に頭が付け足してしまうんですよ!あたかも本当の記憶のように!」
だからマルコムは『デブスの姫様に命令された』と言ったのですわ。
なぜなら彼の頭が付け足した情報が間違っていたから。
師団長様は説明し始めてから段々と気分が高揚しだしたのか、最後の方は大きく笑い出していましたわ。
…………狂ってますわ。
「タラスの記憶を変えたのもお前か!!」
「そうだよ。休憩中に『お疲れ様です』って言って薬草茶を渡したんだ。何も疑わずに飲んでくれたよ!」
ラルフの怒りの咆哮に怯みもせず、ニヤニヤと挑発するような発言をする師団長様。
ラルフは額に血管を浮かべ、怒りに耐えていますわ。
でも……動機が分かりませんわ。
師団長様にとって、聖女である詩織様が殺したくなるほど邪魔とは思えませんわ。
本当の目的が詩織様でないのであれば、狙いはわたくしに罪を擦り付けること?
何かの理由でわたくしを憎んでいた、ということ……?
「なぜこんなことをしたのか分からない、という顔をしていますね。まだ分からないのですか?」
師団長様はまた笑った。
でもその笑顔は先程の狂ったものではなく、自嘲と、悲しみが色濃くみえますわ。
なぜ、そんな顔をなさるの……?
「自分はあなたに堕ちてきて欲しかったんです。自分のところまで」
「………え?」
「あなたを手に入れるためです」
「て、手に入れる………?」
やはり分かっていませんでしたね、と師団長様の顔が歪みましたわ。
その顔はこちらまで胸が苦しくなるようなもので…………そして、やっと気付きましたわ。
彼の、気持ちに。
「自分がどんなに頑張っても魔法師団長が関の山です。どんなに頑張っても一国の姫と結婚できるほどの地位にはなれない。なら………あなたに堕ちてきてもらうしかないでしょう?」
「おまえ………!そんな自分勝手な理由でキャサリーナ嬢やマルコムの人生を狂わせたのか!?お前のせいでタラスは今、牢の中にいるんだぞ!?」
ラルフが今にも殴りかかりそうな勢いで食って掛かるも、師団長様はどこ吹く風だ。
「それがどうした?皆自分が一番だろう?皆ちっぽけな理由で他人を蔑むだろう?自分が幸せになるために他人を踏み台にして何が悪い!?自分は――――!」
「お黙りなさい!!」
ついにここまで参りました!
皆様が読んで下さっているおかげです♡
あと数話と番外編で終わる予定です。
最後までお付き合い下さると嬉しいですわ!




