11 特別扱いは不要ですわ!
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評価もありがとうございます!!
国境にそびえ立つ長い長い壁。
それがアルエスク王国と、魔物の彷徨く広大な砂漠との境。
近頃壁の向こうの魔物の数が増え、強大化してきたという報告があったので、こうして国境に面しているトゥフナ辺境伯領の領主宅までやってきたのですわ。
常時壁には辺境騎士団の警備もおりますし、見張ってもおりますが…壁を超えて魔物がやってくることもしばしばあるそうですわ。
数が増えるとその危険も増えてしまいますので、今回のように領主様からの依頼があれば王国騎士団が出張して一斉討伐をするのですわ。
今回協力を依頼した辺境伯様自身はもちろん王国騎士団に友好的ですが、辺境騎士団は自分たちの領域に入られることを良くは思っていないようですわね。
現に、出迎えてくれた眦の下がった辺境伯と、後ろにずらりと並ぶ騎士団の皆様の眉間の皺を見れば一目瞭然ですわ!温度差が激しくて風邪引いてまいますわ!
「この度は遠路遥々おいでいただきありがとうございます。何卒、今回もお力をお貸しくだされ」
「お久しぶりです、トゥフナ様。王国騎士団、参上いたしました。アルエスクの平穏のため、全力で戦いましょう」
「……ふんっ」
おぉう。辺境騎士団長と思われるワイルド系おじさまが、紳士的ナイスミドルな王国騎士団長の挨拶を鼻で笑いましたわ!
でもさすが王国騎士団長様。少しも表情を変えることなく、ニコニコしておりますわ。
おふたりをちらりと観察いたしますと…。
騎士団の制服をさらりと着こなし、洗練された雰囲気の王国騎士団長に対し、辺境伯領の制服を自己流に着崩しているちょいワルな雰囲気の辺境伯騎士団長。
うーん…混ざり合うことはなさそうですわ。
「先日先触れを出した通り、今回はアルエスク王国第一王女のレギーナ・アルエスク様と、その婚約者でガルロノフ公爵家のご子息であられるオレグ・ガルロノフ様もおいでくださいました」
「…………はい、存じております」
辺境伯様、一気に固まりましたわね〜。
無駄に地位だけ高くて申し訳ないですわ。
「本日はこのような辺鄙な場所にまで足を運んでいただき、光栄至極でございます。わたくし、トゥフナ領が当主、イーゴリ・トゥフナでございます。以後、お見知りおきを」
「丁寧なご挨拶痛み入りますわ。アルエスク王国第一王女、レギーナ・アルエスクですわ。突然来てしまって大変申し訳のうございますわ。今回のメインはあくまでも討伐ですから、わたくしのことはお気になさらないでくださいませ」
「ガルロノフ公爵家が長男、オレグ・ガルロノフです。以前パーティーでお会いしましたね。私も同じくおまけですから、お気になさらず」
トゥフナ様。ニコニコしていますが「そんなわけにいくか!」って…心の声が聞こえるようでしてよ?頬がピクピクしておりましてよ!
まぁ、そこは気付かないふりをして。わたくしは淑女の礼をし…しまった!と、気付いたのですわ。
本日、わたくしはドレスではなく、パンツスタイルなのですわ。なんせ討伐がメインですもの!
そんな格好で淑女の礼をした自分を想像。………うん、残念ですわ。ドレスやスカートでこそ美しく見える所作ですのね。今後パンツスタイルのときは騎士の礼をしようかしら?
でもまぁ今回は仕方がありませんわね。笑いたければ笑えばいいのですわ!どうせ今日のわたくしは騎士団のおまけですから!ずいぶん存在感のあるおまけですけどね!
「高貴な身分の方々に来て頂けて我が領としても誇りになります」
「………しかし、我が領には王城や公爵家ほど美味いものはございませんので、殿下のお口に合うものが出せればいいのですが…量だけはたくさんお出しできますよ」
「………っ!?セルゲイ!」
少々ギクシャクとしてはおりましたが、穏やかな流れだった領主様との会話に嘲るような口調で割って入ってきたのは、先程のワイルドな辺境騎士団長と思しきおじさま。
急になぜ食事のお話?それになぜ、美味しいものがないという発言で領主様にあんなに怒られたのかしら?
頭にはてながたくさん飛んでいるわたくしの横から………あら?暗いオーラが………?
オ、オレグ様?何にお怒りですの!?
「………それはどういう意味です?」
「いやいや、討伐についてくるというより、お食事でも楽しみに来られたのかと思いまして。………特に姫君は大層グルメでいらっしゃるようにお見受けいたしましたので」
「……………………ほぉ?」
あ、あら?王国騎士団長様まで??
そこでようやく気が付きましたわ。わたくし、セルゲイ様に嫌味を言われましたのね!?
そんなぶくぶく太った体で何しに来た、と。遊びにきてんじゃねぇぞ、と。
なるほど、なるほど。
王国騎士団は王族直属の騎士団。王族に対して畏敬の念を抱いており、仕えることを誇りとしているのですわ。
ですからこんなわたくしなんかでも王族を馬鹿にする発言は聞き捨てならなかったのでしょう。
オレグ様が怒っているのは…公爵家としてのプライドでしょうか。
………婚約者がこんなんでごめんなさい。婚約破棄はいつでも受け付けましてよ?
とにかくそんなわけで、またも空気がピリピリ…いえ、バチバチしてしまいましたわ。
ここにパーヴェル様がいれば…。
カ―――――――――ン!!
あら?頭の中でゴングの音が。
そんなことより!ここはわたくしがなんとかしなければなりませんわね!
「セルゲイ!お前は…!!殿下、誠に申し訳ございません!!」
「いいのです、トゥフナ様」
「し、しかし…!」
真っ青になっているトゥフナ様…お気の毒ですわ。
不敬罪なんて申しませんから、大丈夫でしてよ!
「セルゲイ様、心配は無用ですわ。わたくし、本日は立場上トゥフナ辺境伯家にお世話になりますが、明日以降は騎士団の方々と同じものをいただくつもりですのよ」
「…………は?殿下が?」
「ええ、もちろん。夜はテントで寝ますし」
「えっ!?野営なさるのですか!?」
「当然ですわ」
何を驚いているのかしら?そんなの当たり前ですわ。
「先程も申し上げました通り、今回は討伐がメインですわ。わたくしがいることによってアルエスク国民に被害が及ぶようなことがあってはなりませんもの。特別扱いは無用ですわ」
気のせいかもしれませんが、セルゲイ様の目から剣呑とした雰囲気が抜けたように見えましたわ。
少しは認めてくださったのかしら?
あくまでも騎士団のおまけとして、わたくしはひっそりと皆様の立ち回りを勉強させていただきますわ!
国外逃亡のために!!
オレグ様は先程馬車の中で、婚約破棄はしないとおっしゃいましたわ。ならば処刑される未来もありませんし、国外逃亡も必要ないのでは…?と、思いましたの。
でも。先程はオレグ様のキラッキラの笑顔の圧で何も考えられず、なぜ婚約破棄をしないのかという理由まで考えられませんでしたが…今なら分かりますわ。
それは、当面の女避けですわ!!
わたくしのように身分の高い女が婚約者なら、そうそう横恋慕のんてできませんもの!いい風避けになるのですわ!
なぜそれに気付いたのかって?
だって…現在進行形でトゥフナ様の後ろに控えている侍女たちの顔が全員蕩けているんですもの!とろっとろですわ!よーく煮込んだ豚の角煮のようですわ!
えぇ、えぇ!そして文字通り全員なのですわ!
それはもう、年若い侍女から、白髪の侍女まで全員。
そろりと隣を盗み見ると…バチリと目が合ってしまいましたわ。
そして、ふわりと微笑みかけられ…はうっ。
なんて恐ろしい顔面。
なんてえげつないフェロモン。
わたくしは慣れておりますから、若干の呼吸困難と心臓発作で済みましたが、オレグ様の笑顔を目の当たりにした侍女たちは…ご愁傷様。
当分使い物になりませんわね。
トゥフナ様、重ね重ね申し訳ございませんわ!




