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結び屋  作者: 夕萩 みどり
2/3

練習




(また、この夢⎯⎯⎯⎯。)

 憂鬱な気持ちで重い瞼を開ける。

「なんだ、もう起きてしまったのか」

 目の前には、残念そうに眉をひそめる茶髪の少年がいた。

 あぁ、そうだわ。私は彼の練習の手伝いをしていたのだった。

「ごめんなさい、渉。少し嫌な夢を見てしまったの」

「…!!それなら、成功ということか?!」

 茶髪の少年、占部うらべ わたるは分かりやすく喜んだ。

 私は苦笑いして、ぎこちなく頷く。成功と言えば成功なのだろうから。

「………少し疲れたわ」

「それはごめんよ、結子」

 軽く謝りながらも、すでに渉はノートに研究の結果と考察をつらつらと書くことに夢中になっていた。

 これだから研究バカは嫌なのだ。渉の将来が不安でならない。

 私は小さくため息をついた。

 

 私の名前は針間はりま 結子ゆいこ。今年で10になる。

 この国は千年にもわたり王が統治している。そして、その王族に昔から仕える異能をもつ特別な十二の家の第四家、針間家に私は産まれた。

 そんな私の友人である目の前の彼、占部 渉も十二族のひとつ占部の家の次男なのだった。


 それにしても、強くなったものだ⎯⎯。と、私は感心していた。

 今日、私は渉の異能の練習に付き合っていた。学校のない土曜日はどちらかの家に遊びに行って、互いの異能を高めあう。これは、知り合った7つの時からずっとしていることなのだった。

 彼の家の異能は<干渉>、特に彼ができるようになりたいのは夢への完全な干渉。これは、とんでもなく厄介で危険な能力である。

 故に、まだ10の渉にはその能力を充分に使えない。それでいいのだ。

 使えるようになれば、確かに王のためにとても役に立つ異能だろう。たが、それは諸刃の剣である。同時に王族を脅かす存在にもなるのだ。

 

 占部の<干渉>にはいくつか種類がある。

 大きく分けて、精神干渉系と物理干渉系の二つ。

 精神干渉系には夢への干渉、テレパシー、人の心を読む、などがある。

 それから占部家には昔、他家の異能への干渉を得意とした者もいたらしい。

 物理干渉系には機械への干渉、物体の構造の解読などがある。今の医療の発展に先代の占部家当主がおこなった人体解読が大きく貢献したのは有名な話だ。

 彼が今のところできるのは《眠っている人に少しの間干渉して悪夢を見せる》というもの。字面だけみると凄いものに見えるが、そんな大層なものではない。

 まず、前提として人を浅い眠りに誘わなければならない。彼にはそのための催眠術の力がほとんどない。それに、彼の干渉のレベルではまだ相手の見ている夢を覗くことができない。ただ、悪夢を見せるだけだ。しかも、継続時間も短い。


 それでも、出会った頃よりはできるようになっていた。昔の渉は能力を使おうとすると、すぐに熱を出して寝込んでいたものだから。

 占部家にはマッドサイエンティストの気質がある者が多く、渉も例外ではないのだが、彼は私にとって初めての友人である。

 彼の願いには出来る限り答えてあげたいと思うのだ。ゆえに、私は夢への干渉なんていう嫌な能力の練習台になっている。

 でも、あと数年したら止めた方がいいかもしれないわ。渉は優秀だもの、今日だってほんの少しだけど意識を持っていかれた。あとちょっとしたらわずかだけど人の夢を覗くこともできるようになるかもしれない。アリスティアの記憶を渉に見られたら…、そんなゾッとする考えが頭をよぎった。

 

 ふと渉がノートを書いていた手を止めて、顔をあげた。

「そういえば、今年の東堂会は第二王女様の御披露目を兼ねているって聞いたんだけど」

「………そうね」

 東堂会とは年に二度、十二族が集まるパーティーのうちのひとつである。

 この国の東部の守護を担う十二族の第一家、東堂家が主催のパーティーだ。王族か十二族なら七つになると、御披露目の称して必ず参加するパーティーである。。

 私と渉の出会いはもうひとつの西宮家主催のパーティーであったが、この年に二度のパーティーは十二族にとって最も大切な情報交換の場である。そう、大人にとっては。

 しかし、子供にとってはそうではない。

 大人たちから他家の子供たちと異能において明確に優劣をつけられてしまう場所だ。

 現に渉も少し嫌そうな顔をしていた。

 しかし、私にとっては意味が違ってくる。

 パーティー、それは出会いの場だ。私は、アリスティアのような寂しい人生は送りたくない。恋をして、子供を授かって血の繋がった家族に見守られて安らかに眠りにつくのよ。それが私の夢だ。

 あいにく、まだいいなと思える人とは巡り会えていない。でもまだ私は10歳だ。これからきっと燃え上がるような恋だってできるわ。そう……、きっと。

 

 その時、私の顔に小さな影がふってきた。

「……ひょぇ!!え、あ、何っ?!」

 渉の柔らかい手が私の額に触れていたのだった。いきなり触れてきたから、驚いて変な声が出てしまった。

「渉…?」

「ん、あぁ。ごめん、結子。さっき、疲れたって言っていたから。今もボーッとしてたし」

 今になって心配されても…。あぁ、でも渉らしいと思った。

 一見、人のことを心配していなさそうに見えて意外ときちんと見ているのだ。ただ彼にとっての優先順位が異能の練習であるというだけで。

 まぁ、私が疲れたのは毎度見る、アリスティアの夢のせいであるのでどうか気負わないで欲しいが。 

「渉ったらいきなりだからビックリしたわ。でも、私だからいいものの他の女の子にこんなことしたらダメよ。勘違いされてしまうわ」

 渉は私と違って、将来有望な容姿をしている。それに名家の次男だ。これから引く手あまたになるだろう。

 友人としては鼻が高いが。

 すると、渉は目を猫みたいに細めてクスクス笑った。

「大丈夫、結子ぐらいにしかしないよ。仲のいい女友達、結子ぐらいしかいないしね」

「え、それは悲しくないかしら?」

 思わず、口にしたら頬をつねられた。痛いわ。

「結子だって男友達、俺しかいないくせに」

「そんなことないわよ」

(オルドヴィンがいたもの)

 お返しに渉の頬をつねってやった。

 渉はほんの少しだけ不機嫌になって、私の頬をつねり返してきた。

 

 男の子なんだから、女の子に優しくして欲しいものだわ。もう。






 

 

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