拾い食いに買い食い
仕事は残業もしっかりしていたので、古民家を買える程度には稼いでいた。マンションに住みたいとは思うが、近所付き合いが面倒なのと騒音がひどそうなので、一軒家に住んでいる。
古民家はわりとお買い得なので、家事ができるやつにはおすすめである。
そんな家にリュウを連れてきたのだが、不思議そうにうろうろしていたので、一室をリュウに明け渡すことにした。部屋は余ってるので、布団を引いて机と椅子を置いておいた。
ダンジョンで手に入れたものはさらに余っている部屋に保管することにした。うちには冷蔵庫がなぜか三つあるので一つをポーション保管に使い、もう一つは飲み物用、最後に食べ物用と区分けした。
「あとはこれか」
ポーションは保存しておくとして残ったこの石とスクロールはどうすべきか悩んだ。確か鑑定にはお金がかかり、使えるやつなら数千万とかするって話だ。聞いただけで事実は知らんが、良いものなら取得しといても損はないはずだ。
「というか使い方もわからん」
取説がついてるわけでもなく、ただ意味のわからない文字のようなものが並んでいて、魔方陣のようなものが描かれていることくらいだ。
「ここに手を置けばいいってのはなんとなくわかった」
スクロールについては今のところどうしようもないので、放置することにした。
「石はなんだ?お?リュウどした?これか?これはお前の仲間達を倒したときに手に入ったものだ」
リュウが石に指をさしてきたので、取得方法を教えておいた。
「ん?欲しいのか?まぁどうせ倒せば出てくるし、やるよ」
リュウに手渡すとそのまま口に入れて、ポリポリと食べ始めた。
「なるほど、これは食い物だったのか」
リュウの仲間から出てきたものをリュウが食べる構図はなんとも言えないが、先端者がすることだ。きっと正しい。そう考えて俺も口に石を入れた。
舐めた感想としてはまず思ったよりも口溶けがいい。味はしない。というか味はしないし、汁とかそういうものは出ない。だが、舐めてるとなくなった。
「味はないけど、不思議だな?まだいるか?よし、半分こだ」
残りも食べてみたが特に変わったことが起きなかったので、その日は夕飯を食べて眠った。カップ麺だったが、リュウが手掴みで食べようとして今までで一番豊かな表情で騒いでいた。
次の日になるとリュウも多少は慣れたのか、トイレは自分で行けるようになった。流せるとは言っていない。なので結局は俺もついていくことになった。風呂にも入れていい香りがするのでファンタジー特有の汚ないゴブリンではない。
今日もダンジョンにいく。ポーションを二本ほど持ってスクロールは鑑定してもらう。リュウにはリュックサックを背負ってもらい、俺も同じく背負う。今日もやることは変わらず周回だ。扉までたどり着くと。
「よし、今日はリュウの特訓だ」
リュウはコクリと頷くとバットを構えて自身と同じゴブリンに対峙する。向こうは初めて同種族をみたかのように不思議な反応をしている。リュウにとっては敵というか認識しかしていない。
ゆったりとした歩様で近付いてくるボスに対して、構えたバットを強く握りしめるリュウ。鼻をすんすんとさせながらボスは無警戒だ。リュウはそれを気にせずにバットを振り下ろす。無防備なボスはやっと敵と認識するが、それは遅く、頭の直下に落とされたバットは鈍い音を出しながら真っ赤に染まった。
ボスを一撃。それは俺でもできなくはないが、ここまでグロテスクだとなんとも気が引ける。まぁ倒したには倒したが、もう少しスマートにできないだろうか。
リュウの頭を撫でてボスゴブリンが消えるのを待つ。消え去った後に残された石はリュウにやる。リュウはそれを嬉しそうに口の中に入れる。それを横目に現れた宝箱を開ける。
中にはいつもと同じようにポーションとスクロールがあった。それらをリュックサックに入れて、リュウと共に奥の扉に向かう。
扉は手をつけるだけで開いた。扉の向こうには小部屋があり、そこには幾何学模様のようなものがあり、紫色の光を怪しく輝かせていた。選択肢は限られているので、その模様の上に乗った。
乗った瞬間に視界が切り替わり、目の前には先程と同じように洞窟のようなダンジョンだったが、今はそれが倍ほどに広くなっていた。ここにもきっと潜っている人がいる。
そう考え、リュウとともに姿を消す。ただただ歩き続け、人を無視し、敵を無視して、時には迷子になりながらも進み、扉の前までたどり着いた。
「リュウ。今回は共同戦線だ。俺の指示に従えよ?」
「グギャ」
扉を開けた先には一つ目にいたゴブリンを少し大きくしたゴブリンがいた。こちらに気付いた様子だが、一つ目とは違い、いきなり襲ってこない。知能が高そうだ。
「来ないか。なら…」
槍を作り出し、それを投げる。知能が高かろうと避けることはできない。そう考えていたが、どうやら甘かったらしい。なにかしらを勘づいてその場を離脱した。いくらか投げてみたものの、やはりなにかをされているのかに気がついている。
「さすがファンタジーだ。だけど、これはどうかな?」
槍を作り出す。ここまでは同じだが、手に持つことなく飛ばす。それも数十本もの数をだ。交わすことができなかった槍が数本刺さる。だが、ここでは具現化しない。透明な槍が刺さった。その状況でなにも起こらなければ、相手がどう考えるか?
「俺の能力は見せ掛けだと、そう思い込む。そして、何十本も刺さる。無抵抗に。知能があってもその程度ならなんとかなる」
非現実的に突き刺さった槍を接触させる。数十本という槍がその太さのまま現れる。そうすれば、強めのゴブリンは爆散する。
「すまんな。次はリュウにも戦ってもらうからな」
リュウの頭を撫でて石を回収する。それから現れた宝箱を開く。今回もポーションだけのようだ。回収して入ってきた扉から出る。そしてまた入る。
先程と同じように知性を持ったゴブリンに牽制の槍を飛ばす。今回はリュウを主体にする。リュウはゴブリンに対して慎重にバットを振っていくが、ボスゴブリンはそれを軽く防ぐ。やはり向こうの方が知能が高いようだ。
それでも戦ってきた経験から言えばおそらくリュウの方が上だ。余裕をかますボスゴブリンは隙が大きい。そこをつけばリュウは勝てる。だが、慎重なせいでその隙をつけていない。
「リュウ。もっと相手を見ろ。そいつは油断しているぞ」
リュウに声をかけて冷静にさせる。それだけで視野が広がる。リュウはボスゴブリンが荒い呼吸をしていることに気付いた。連撃を入れ、相手がバランスを崩すように仕向ける。
段々とボスゴブリンの身体に傷がついていく。バットなので打撲だが、切り傷とはまた違った痛みだ。切り傷は痛みが気になるが、打撲は脱力感を与える。それがどうなるかはリュウの行動次第だが、打撲によって傷ついた身体はバットに恐怖を感じる。
そこまでいくとバットの叩きつける音も気になる。そんなボスゴブリンに対してバットを頭に振り下ろす。当然バットを防ぐために防御姿勢になるが、そこでリュウはバットを手放し、空いたボディにアッパーを加える。
そこから防御の隙をついた攻撃を繰り返した。結果、ボスゴブリンはフラフラとし、倒れた。リュウはそんなボスゴブリンに容赦はしない。バットを拾い上げて止めを指した。
「リュウ、よくやった」
リュウは照れくさそうに頭をかいていたので、頭をポンポンと叩いて褒め称えた。それから手に入れた石を食べさせたあと、宝を回収した。それから前回と同じく、荷物がいっぱいになるまで周回を行った。
「よし、そろそろ帰るか」
「グギャ」
一度あの模様まで行ってから帰ることにした。いってみるとまた同じような洞窟だったが、いつか別の場所に行けるようになるのだろうと考え、帰ることにした。最初は帰り方がわからなかったが、リュウが石碑を見つけて、そこから帰ることが出来ることが判明した。
この石碑を触ればこれまで通った模様の行き先と入り口にいくことが出来るようだ。入り口に出ると外は真っ暗ですでに夜になっていた。
「なんだかお腹すいたな。ちょっとコンビニにでもよるか」
寄り道して帰り、家に帰るとポーションを冷蔵庫にしまった。それからスクロールは適当に置いておいた。リュウは少し知能が上がったのか、ちゃんとトイレを流せるようになっていた。