完全に犯罪
投稿してて気づいたけど、なんかシステム変わった?
橘監察官と小一時間ほど論争した後、それとなく仲良くなったので、早速冒険に出掛けるために冒険者について聞いておいた。まぁざっくり言えば資源回収。あとは命懸けのアトラクションってところだな。
「それだけの能力があるんだ。国の機密に触れてみんか?」
「それこそだめだろ。職権濫用だろ」
「わしはそういう仕事もしとる。有望な若者…いや、優秀な者には勧誘をするという任務もあるんじゃ」
「若者じゃなくて悪かったな。それで、その内容は?」
「一先ず冒険者ランクを100にする。話はそれからじゃな」
「なんだよ、勿体振るなよ」
「すまんな。これには段階がある。それとこれは本来であれば条件を達したものにしか伝えんが、この世界での100ランクは最大戦力だが、他ではスタート地点にたっただけの雑魚じゃ。わしなら片手だけで捻り潰せる」
「ほう?やるか?」
「お主は別枠」
とりあえずの目標ができたので、橘監察官に冒険者の注意事項を聞いて、その日は帰宅した。次の日からは色々手続きして一日を終え、ダンジョン攻略に向かうまでおよそ一週間ほどかかった。
「よし、いくか」
登録証片手にジャージでダンジョン前の門にやってきた。門番に挨拶すると止められた。なんでや、冒険の第一歩やぞ。
「そんな軽装での通行は認められない」
そう言って突き返された。毎度お馴染みその辺を通りかかったおっさんを身代わりにして。颯爽と通り抜けるジャージマン。後ろの方では門番と突き飛ばされたおっさんが口論をしていた。どうやら通りがかりのおっさんはお偉いさんだったらしい。門番が青い顔をしていた。
橘監察官に連絡しておこう。尊い犠牲がかわいそうだ。
門を抜けるとそこには多くの若者が頓挫していた。そこをジャージマンは通り抜け、早速ダンジョンに入った。ダンジョンは洞窟のようなものだったが、中は思ったよりも明るく、人工的なものではなく、自然にあるものが光っていた。
どうやら自生している植物が光を発しているようだ。それを観察しつつ、奥に進む。奥はどうやら広場のようなところでそこには数十人ほどいて沸いてでた緑色の化け物を狩ってるみたいだ。
「これ、俺の出番なくね?他の場所ないのかな?」
枝分かれした道を進んでいくと幾つかの小部屋があった。そこにも何人かいて誰もいない場所はなかなか見つからなかった。
何人か帰る途中なのか数名がすれ違い、挙動不審なやつがいたので、顔写真を撮っておくことにした。
「あとは…この厳つい扉の向こうだけか」
明らかにボス部屋なのだが、ここには誰もいなさそうなので入ることにした。
「いや、待てよ。一旦開けずに入ってみよう」
手を翳してぬるっと入っていく。意外と分厚い扉の向こうには血の海と今まさに最後の一人で弄ぶ緑色の小人の姿が。
「あ、なんか忙しそうですね。俺は帰ろうかな」
頭をかきながら踵をかえすと後ろの方からうめき声のようなか細い声がした。
「たす…け…て…」
「…」
それはどう考えても十代そこらの声であり、未来を担う若者だ。
「はぁ…俺もそれぐらいだったらなぁ」
振り返って手を突きだし、子供と緑色の小人の間に境界をつくる。それにより小人はどう頑張っても子供には触れられない。子供を触ろうとして弾かれ、何度かそれを繰り返した後、俺に気がつき、怒りを顕にした。
「グギャアアア」
「気づくのが遅いよ」
小人は拳を突きだすが俺を通り抜けて勢いのままたおれる。それを踏みつけ、蹴飛ばす。避けられたのだと勘違いする小人を一方的に殴り付ける。
「全然ダメージを与えてねぇな。どういうシステムなんだ?ちょっと志向を変えてみるか」
槍を作り出し、小人の身体に刺してみる。しかし全く刺さる気がしない。ならば、突き刺さった状態で接触させればいい。
「ほらよ、これならいけるだろ」
小人を横たわらせ槍を手に突き刺し、地面にまで刺さるようにして接触させる。
「グギギギギャアア」
突き刺した時の痛みはないが接触した時の勢いで傷は開き、その現象にて小人は痛みを発した。
「これならいけるか」
四肢すべてに槍を刺し、そいつを放置して子供の様子を見に行く。外見的には殴り付けたような跡があり、気になるのは手首の紐のようなもので縛られた跡だ。
「ひどい怪我だ。あいつにやられたのはこの打撲だが、この跡はやつではなさそうだ。それに、あとの三人はどうして縛られてるんだ?」
三人はすでに事切れており、なんの施しようもない。年齢は12、3歳そこらであり、このダンジョンに来るような年齢じゃない。それに気になるのは服装だ。どう考えてもあの門番が止める軽装だ。
「事件の臭いしかしないな。まずはあのごみを片すか」
わめき散らしながら槍から抜け出そうとする小人の頭に槍を突き刺す。恐怖を与えるために具現化した槍だ。それをゆっくりと頭に向けて突き刺す。するりと透過した槍ににやりと笑う小人だったが、すぐに悲鳴へと変わる。
小人の悲鳴は収まり、部屋全体が揺れた。
「な、なんだ?」
部屋が光出すと部屋の中央に宝箱が出現した。目を離した隙に小人は消えており、変わりに真っ黒な結晶があった。
「変わった石だな」
それをポケットにしまって宝箱に向かう。宝箱なんともゴージャスなもので王室にでもありそうなものだった。それを開くと中には試験管が5本ほどあり、それ以外にはファンタジーによくあるインゴットが3つ入っていた。あとは巻物が一つ。スクロールというやつだろうか。
「これらはありがたく頂いておこう。これは…緑色だがファンタジーにありきたりなポーションというやつか?ちょっと実験みたいになるが使っておこう」
まだ息のある子供の口にポーションを流し込む。顔が苦渋のものに変わるが、小さな傷がみるみると治っていくのが目に見えてわかる。
「まずいんだろうな。だって涙流してるし、でも治ってるから勘弁な」
ポケットの中のものが多すぎてズボンがずれそうだったので、片手で引っ張れる台車をつくり、そこに子供の遺体を乗せる。縛ってあった紐は解いて頭にはジャージの上着を被せておいた。
生きている子供は片手でだっこして扉を開けて元来た道へ引き返していく。誰にも見られないように道を踏破していき、ダンジョン前の事務所までいくと姿を見えるようにした。
その間に見つけた挙動不審のグループは透明の檻に閉じ込めておいた。今頃必死になって脱出を試みているだろう。
「すいません、医務室はどこですか?」
「はい…あちら…に!?その子供たちはどうしたんですか!?」
事務職員の方は台車で横たわる子供に寄り添った。
「ボス部屋らしきところで倒れていたので連れてきました。その上着は剥がさないであげてください。出来ればこの子を先に治療してくれ。この子はまだ生きている」
状況を察した事務職員は子供を抱き上げ、医務室へと走っていった。台車に乗せた子供たちも他の事務職員が優しく抱き上げて医務室へ連れていった。それを見送って台車を消す。
「これに至った経緯を教えていただきますか?」
「もちろんです。場所を変えましょう」
奥までついていき、執務室のような場所までたどり着いた。そこにはやはりといっていいがお偉いさんもいてそれを護衛する傭兵がいた。
「この方に経緯をお話しください。これは貴方の罪の可能性を否定する場でもあるので、正直にお答えください」
「わかりました。まず最初に俺は橘監察官と知り合いです」
「うええ…やばいやつじゃない?あのおやっさんの知り合い?怖すぎだろ」
どれだけあの橘監察官が恐怖の対象かわかった瞬間だった。
「簡単に説明しますと戦える場所がなくてちょうど厳つい扉があったので、入ってみたというのがあの子たちに遭遇した経緯です」
「つまり、ボスは倒されていたと?」
「いえいえ、ボスは生き生きしてましたよ。閉まってる扉から入ったんですよ」
「そんなことは不可能だ。これは政府共同で試したことだ」
「それは政府にそういう能力がなかっただけでは?わかりやすく説明するために俺に触ってみてください」
お偉いさんが顎をくいっと動かすと傭兵が近寄ってきた。肩に手を置こうとするが、するりと抜ける。勢いよくしてもそれは透過される。よくみるとこの傭兵はフードを被っているが、女性だった。
「なっ!当たらない!お、おい、やめ、頭を撫でるなぁ!」
「こんな感じで俺には触れないし、俺からは触れます」
「や、やめろぉ!」
「わ、わかった。そういうスキルがあることはわかった。よし、そのまま続けてくれ。若葉さんがそんな反応をするのは珍しい。ぜひ続けてください」
「み、見るなぁ!」
若葉と呼ばれる女性が距離を取ろうとするがそれに追従して俺もついていく、頭を撫でながら。仕掛けは簡単。ロープで繋いでいるからだ。どれだけ俊敏に動こうとも離れることはできない。