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異世界奴隷はホワイト労働!?  作者: 武池 柾斗
第三章 自分がやらなきゃ誰がやる?
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3-16 運命の日

 そして翌日。火竜迎撃当日の朝、日の出前。


 ヒューライ国は静かにその時を待っていた。


 焼け野原となっていた南の農耕地帯には、防御柵や簡易的な砦が数多く設置されている。防御策の後ろや砦の中には戦闘員が待機し、都市の南門前には戦士隊が立ち並ぶ。


 都市内では戦闘員以外のほぼすべての国民が地面に座り込み、戦闘員に魔力を捧げるための準備をしている。また、彼ら彼女らの周囲には魔法士や医師などの後方支援部隊が配置され、南門の付近には正規兵養成所の訓練生が予備隊として待機していた。


 都市の南防壁の上には弓兵や魔法士とともに投石機が設置されている。そして、その中央では、国王キーテスと親衛隊員十名が南の方向を睨みつけていた。


 火竜襲撃から現在に至るまでの二日間半、ヒューライ国は火竜撃退に向けての準備を進めてきた。


 従来の兵力はヒューライ軍正規兵と魔法士と現場警官を合わせて千五百人ほど。しかし現在は、退役軍人や戦闘力を有する奴隷などが加わったことによって、その数は一万人にまで増強されている。


 戦闘員の中には、再教育学校で体育を学んでいる林業奴隷の男性や、水路凍結騒動の時に堅枠大を率先して助けようとした人々の姿もある。また、木剣訓練の教官や魔法士カオンなどは、臨時兵士の訓練や統率をおこなっていた。


 その他には、子どもたちの保護を担当する者の存在もあった。幼い子どもは準備に参加できないため、この二日間は誰かに面倒を見てもらう必要があった。それを実行したのは義務教育学校の教師たちだった。これには再教育学校に勤める語学教師のフーカも参加にしていた。そして今、子どもたちは保護者監督のもとで魔力を捧げる準備をしている。


 また、経営者たちは迎撃準備の現場指揮官としての役割を全うした。彼ら彼女らは今も、後方支援部隊の指揮官や補佐役としての使命を与えられている。


 さまざまな業種の人間が助け合うことにより、ヒューライ国は万全の状態で火竜迎撃の日を迎えることができた。



 そして、火竜氷結隊も静かにその時を待っていた。


 六人全員はいつもの服装に加え、国王キーテスから授かった赤い布を身に着けていた。アスラは腰布、リサは首に巻くスカーフ、マッコウは髪をくくる布、バーンとアリィは右腕の腕章、そして堅枠大は鉢巻として。赤い布を身に付けることで、自分たちは国王直属の特別任務隊であるという意識が六人の中で強まり、連帯感も生まれていた。


 火竜迎撃当日の早朝、アリィは一足先に隊を離れ、援護射撃をするための潜伏場所へと向かった。彼女の行き先はアスラだけが知っている。これは、アリィの存在を火竜に悟られないようにするための配慮だった。


 マッコウは舟の整備とともに、救急箱や水と非常食の準備をおこなった。また、彼は頭の中に地図を描いて進行のシミュレーションもしていた。マッコウは緊張した様子だったが、行動自体は落ち着いていた。


 アスラとバーンは訓練場の草場で精神統一を図っていた。アスラは立ち、バーンは地面に腰を下ろして目を閉じている。アスラの傷は見た目では癒えたものの、体内のダメージはいまだに残っているようだ。そのため、アスラが指揮官に徹し戦士としての役割はバーンが受け持つという方針は変わらなかった。


 余談ではあるが、アスラの戦闘不参加が逆に戦闘員の士気を高める結果となった。ヒューライ国最強の戦士の代わりに自分たちが火竜を倒すのだという信念が、戦闘員たちの中に生まれていた。


 リサは連絡魔法を使い、火竜迎撃の作戦について国王と詳細な打ち合わせをおこなっていた。


 それによると、軍本隊が火竜の体力や魔力を削り、火竜の意識が本体に釘付けになったところで火竜氷結隊が出発。それと同時に第二陣が第一陣に変わって火竜を足止めする。火竜氷結隊が南の農耕地帯に到着したところで、砦に潜んでいる第三陣が火竜に向かって突撃。第三陣に紛れて火竜氷結隊が接近し、最終的に堅枠大が火竜を凍らせる。という作戦のようだ。


 状況によっては第二陣と第三陣の早期投入や国王親衛隊と予備隊の参戦もありうるが、それは国王が状況に応じて判断するとのこと。


 どのような戦況になろうとも、火竜氷結隊が為すべきことは変わらない。火竜の注意力が落ちるまでは安全な場所で待機し、その後は堅枠大を火竜のもとへと送り込むだけだ。


 そして、火竜撃退の要である堅枠大は、舟の横に立ち、火竜が来る予定の方向をただ静かに眺めていた。


 今の彼はブレスレットとグローブを装着し、魔力障壁も施されているが、魔力抑制剤は服用していない。体内で強大な魔力が渦巻いていることもあってか、火竜撃退への興奮と恐怖は高まる一方だった。彼はそれらの感情を抑えつけるので精一杯だった。




 やがて東から太陽が昇り、空が明るくなった。


 天気は快晴。薄暗い空が、紫色から茜色を経て、雲一つない青空へと変貌していく。すがすがしいほどに澄み切った秋の空気が、穏やかな日差しとともに新しい一日の到来を告げる。


 それと同時に、東の山脈から大きな影が飛び立った。その影は翼を広げて山頂からヒューライ国へと飛行していく。


 そして、その影、火竜はヒューライ国に降り立った。


 火竜は三日前と同じ場所に立つ。南の農耕地帯の、国有森林付近。そこから見える景色は黄金色に輝く畑ではなく、茶色や黒色が支配する焦土。その焼け野原に、ヒューライ軍が待ち構えている。


 火竜はこの小国に向けて吠えた。


「時は来た! 我に滅ぼされる覚悟はできているのだろうな!」


 その低い声が国全土に響き渡る。

 火竜という破壊者の再来に、ヒューライ国民全員が息を呑んだ。


 その中で一人、国王キーテスだけは鋭い視線を火竜に向けていた。彼は拡声魔法を自らに施し、両手を大きく横に広げて口を開く。


「滅ぼされる覚悟など必要ない! 今、我らに必要なのは、貴様をここで打ち倒すという確固たる信念のみ!」


 国王の言葉に、国民たちは怯えを捨てた。


 自分ができることをやる。力を合わせて火竜からこの国を守る。それは、迎撃準備の二日間半においても、これから始まる戦闘においても変わることは無い。


 ヒューライ国王と火竜が焦土を挟んで睨み合う。

 火竜は周囲の状況を確認し、満足気に口元を上げた。


「約束通り、この国の人間のみで戦うようだな! 気に入った! 我は全力をもってこの国を破壊してやろう!」


「貴様の相手など、このヒューライ国だけで十分だ! 西国は協力し合って発展してきた! 東国は長年の覇権争いで疲弊した愚かな国々だ! そのような国と我が国が、同じだと思うな!」


「それがどうした! 東も西も我には関係ない! 我は人間の国を打ち破り、自らの力を世界に知らしめるのみ!」


 火竜とヒューライ国王が互いに言葉をぶつけ合う。

 キーテスは両拳を強く握り締め、腹の底から声を響き渡らせる。


「貴様のその悪行も今日で終わりを迎える! ヒューライ国のすべてをもって、暴虐非道の火竜をここで成敗する!」


 彼の宣言とともに、ヒューライ国二十万人の雄叫びが上がった。


 地を割り空を裂かんばかりの声がヒューライ国に響く。戦闘員たちは闘気に満ち溢れ、後方支援員たちの士気は最高潮に達した。


「上等だ! 貴様らごとき小国、ひねり潰してくれるわ!」


 怒声とともに、火竜は都市に向けて歩き出す。


 ヒューライ国の存亡を懸けた戦いが、幕を開けた。





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