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異世界奴隷はホワイト労働!?  作者: 武池 柾斗
第三章 自分がやらなきゃ誰がやる?
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3-11 戦士たちの再会

 火竜氷結隊の四人がジャーガン国内水運から出た直後、アスラの体がふらついた。


 倒れそうになった彼女を、堅枠大はすぐに支えた。


「おい、大丈夫か! 無理はするなよ」


「ああ、すまない。だけど、こんな調子で、ワタシの体は決戦の日に間に合うのだろうか。もし治り切らなかったら、戦士としては役に立たない……誰か、追加で戦士を入れたほうが得策だね」


 アスラは堅枠大の肩に腕を回しながら、弱音を吐いた。


 診療所を出てから彼女は一人で歩いていたが、その歩行は火竜との戦いで重傷を負った体には無理があったようだ。治療魔法によって治癒力が高まっているとはいえ、彼女が満足に動けるようになるにはそれ相応の時間が必要なのだろう。


 アスラの言葉を聞き、リサは顔をしかめた。


「えっ、またここから隊員探しをすんのかよ! アテはあんのか! 兵隊からとってくんのか? それとも親衛隊か? そこら辺の人間じゃカタワクを守れねえだろ」


「兵隊は足りてないくらいなんだ……他国の武力は借りられないし、軍本隊も、国境警備隊も、集落駐在隊も、親衛隊も、警察だって今は人手が足りない。そもそも、小隊を一人で守れる人間なんて、限られている」


 アスラは自信の無い声でリサに目を向ける。

 その困り果てている顔を見て、リサも意気消沈してしまう。


「じゃあ、どうすんだよ……あたしだけじゃ、火竜の攻撃を防ぐなんて、絶対に無理だって……」


「やっぱり、親衛隊から一人借りるしかないか……いや、ダメだ。キーテス様の身の安全を考えると……」


 アスラは悩み、目を伏せた。


 四人は言葉を失ってしまい、火竜氷結隊に重苦しい空気が漂う。街は非常時対応の熱気に包まれているため、この四人だけが別の空間に切り取られてしまったかのような感覚があった。


 その時、四人の後ろから元気な声がかかってきた。


「おや、そこにおるのはカタワクさんとマッコウさんか!」


 その声に、四人は振り返った。


 すぐ後ろに、農耕奴隷のバーンとアリィの老夫婦が立っていた。二人の表情は明るく、火竜氷結隊とは対照的な様子だった。そんな二人の登場により、息詰まるような雰囲気は一瞬にして消え去ってしまった。


 アリィは堅枠大とマッコウの顔を見上げる。


「ちょうどよかったねぇ。国務所の件で報告をしに来たんだよ。国務所の建物が人でいっぱいだから、所員を村や都市の各区域に派遣するみたいでさぁ。無理して国務所に詰めかけなくてもいいんだってねぇ……ところで、そこのお二人さんは?」


 アリィの視線がアスラとリサに移る。


 この二人を初めて見るかのような顔を、アリィとバーンは浮かべる。リサも同じように、この老夫婦は誰なのだろうと首を傾げていた。


 だが、アスラだけは違っていた。


 何か思い当たる節でもあるのか、彼女はバーンとアリィを何度も交互に見る。そして何かわかったのか、彼女は一瞬だけ動きを止めた後、驚きで目を見開いた。


「し、師匠!?」


 アスラはそう声を上げ、口を大きく開けたまま固まってしまった。

 その言葉は、堅枠大を驚愕させた。


「へっ!? 師匠!? バーンさんとアリィさんが!?」

「間違いない……あの二人は、以前話したワタシの恩人だ」


 アスラはうろたえながら、バーンとアリィを見つめる。


 常時冷静な彼女にしては珍しいその姿を、堅枠大は驚きつつも疑うような目で見る。一方、バーンとアリィはアスラを眺めながら首をひねっていた。


「ん? 師匠とはワシのことかの?」


「いや、わたしのことだと思うけどねぇ……おや? なんだかどこかで見たことがあるような顔に似てるねぇ……」


 二人は呑気な口調で呟く。この老夫婦は、アスラが誰なのかわかっていないようだ。


 そんな二人に対し、アスラは自分の首を指差して叫んだ。


「ワタシです! アスラです! 十五年ほど前に国境でお二人に捕まって、一か月お世話になった、あの野生児です!」


 アスラはそう言って、堅枠大に支えられながら老夫婦に詰め寄った。


 バーンとアリィは困惑したような顔を浮かべていた。二人はアスラの足先から頭のてっぺんまで何度も見渡す。そうしていると思い出したのか、二人は自分の手を強く叩いた。


「ああ! オスロか! 全然気づかんかったわい! ははっ! すまんのう!」

「いやぁ、こんなに大きくなって……立派に育ったもんだねぇ」


 バーンは豪快に笑い、アリィは孫を見るかのような優しい目をアスラに向ける。

 思い出してもらえて嬉しいようで、アスラは頬を緩めた。


「すみません、今まで挨拶にも行けず。お二人がどこに居るのかもわからなかったもので……あの後、学校に通いながら訓練を続けて、卒業後は国王親衛隊に入りました」


「おお! そうじゃったか! 随分と偉くなったもんだ!」


「でも、親衛隊員なら、新年の挨拶で国王様と一緒に村に来るはずなんだけどねぇ」


 アリィのその疑問に、アスラは照れくさそうに答える。


「それが、ワタシは非常時要員でもあるので、基本的には王宮で待機なんです。そういうわけで、新年の挨拶にもご同行できないんですよ」


「なるほどねぇ……」


 その答えにアリィは納得し、懐かしそうに話を続けた。


「今頃あの子はどうしてるかねぇって、バーンとたまに話したもんだよ。歳のせいか、オスロのことを思い出してもすぐに忘れてしまってたけどねぇ」


「いやいや、思い出してくれただけでも嬉しいです。あと、ワタシはオスロではなくアスラです。今すぐ覚え直してください」


 アスラは笑顔になりながら、先程から名前を間違い続ける老夫婦に顔を近づける。


 そのにこやかな顔が威嚇に見えたのか、バーンとアリィは珍しくたじろいだ。


「お、おう……オス、じゃなくてアスラじゃな。アスラ、アスラ……うむ、覚えたぞい」


「は、発音が似てたせいだねぇ……アスラ、だね。間違えたまま覚えちまってすまなかったねぇ」


 自分の名前を正確に呼んでもらえて満足したのか、アスラは笑みを弱めて二人から顔を遠ざけた。


「いいんです、正しく覚え直してもらえれば。ワタシも、お二人をちゃんと名前で呼ぶことにします。ええと……」


「ワシはバーンじゃ」

「わたしはアリィだよ」


「バーン師匠にアリィ師匠ですね。覚えました……ところで、お二人はどうしてここに? あと、カタワクとは知り合いのようですが」


「ああ、それはの……」


 アスラからの質問を受け、バーンは彼女に説明を始めた。


 堅枠大とマッコウとは仕事で繋がりがあること、自分たちの担当区域の畑を火竜に燃やされたこと。堅枠大とマッコウに連れられて都市に逃げてきたこと。一時的にジャーガン国内水運の世話になっていること。自分たちも火竜撃退に参戦しようとしたこと。国務所は熱狂的な対応参加希望者で混雑していて、二人の名簿登録はまだ出来ていないこと。


「そうだったんですか……大変でしたね」


 バーンの話を聞いて、アスラは共感するように深く息を吐いた。

 そのとき、アスラの頭の中で何かがひっかかった。


「ん? お二人は、非常時対応に協力しようとしていたんですよね? しかも、農耕奴隷としてではなく、兵士として」


 彼女の言葉に、バーンとアリィは強く頷く。


「ああ、そうじゃ」


「わたしらの畑を焼いたんだ。あの火竜を射抜いてやらないと気が済まないからねぇ」


 二人の声は力強く、その戦意が本物であることを示していた。

 そんな二人に、アスラは顔を寄せる。


「それなら、ワタシの部隊に入ってください!」


 彼女は目を輝かせてそう言った。


 接近戦闘や即時対応が可能な戦士が、今の火竜氷結隊には一人もいない。そんな致命的な状況の中、歴戦の元戦士であるバーンとアリィの登場は、アスラにとって暗闇に差し込んだ光にも等しかった。


 だが、この老夫婦にとっては、話の飛躍もいいところだった。


「は? いったいどういうことじゃ?」

「急すぎて訳が分からないねぇ……」


 二人は困惑し、眉根を寄せる以外の反応ができなかった。

 アスラはそれを察知し、顔を引いて先払いをする。


「ごほんっ、失礼しました。実は……」


 そうして、アスラはバーンとアリィを火竜氷結隊に入れるため、二人に対して説明と説得を開始した。

 話を聞き終えた老夫婦は、納得したように唸った。


「なるほどのう。撃退当日にアスラが戦えぬ可能性があるから、その代わりをワシらが務めるというわけじゃな」


「一人で火竜を足止めするような戦士の代わりねぇ……わたしたちに務まるとは思えないけど、要はカタワクさんを守りさえすればいいんだろう? だったら話は早いねぇ」


 二人の言葉に、火竜氷結隊の期待は高まった。


 蚊帳の外だったマッコウやリサは、老夫婦の返答を待ち望むかのようにこの場を見守る。堅枠大も二人を見つめ、無言で参加を懇願する。あの狂暴な大イノシシを一瞬で退治した二人ならば、堅枠大も安心して身の安全を任せられる。


 アスラに至っては、バーンとアリィの返答を待ちきれない様子だった。


「ということは!」


 彼女は興奮したように二人を凝視する。


 老夫婦は互いに顔を見合わせた後、アスラに白い歯を見せつけながら笑みを浮かべた。


「おう! 是非とも火竜氷結隊にワシらを入れてくれ!」

「かわいい弟子の頼みだからねぇ。断れないよ」


 その言葉に、アスラの目に輝きが増した。


「ありがとうございます!」


 彼女は叫ぶように歓喜の声を上げ、バーンとアリィの手を取る。彼女は二人の手を握り締めながら、腕を上下に振って喜びを露わにした。


 その様子を見ながら、堅枠大、マッコウ、リサの三人は顔を見合わせた。


「はは、なんだか意外と簡単に集まったな」


「バーンさんとアリィさんがアスラさんの師匠だったなんて……オレたちすげえ人と仕事してたんだな」


「まっ、何はともあれ隊員が集まったんだからいいでしょ。むしろ、探す手間が省けたんだから最高じゃねーか」


 堅枠大は拍子抜けしたように、マッコウは驚いたように、そしてリサは心底嬉しそうに笑みを浮かべていた。


 それからすぐにアスラは落ち着きを取り戻した。彼女は凛々しい表情になり、堅枠大、マッコウ、リサ、バーン、アリィの五人に目を向ける。


「これで、隊員は揃ったね。さっそく、キーテス様に報告しに行くよ」


 そうして、火竜氷結隊の六人は王宮へと向かっていった。





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