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1 推しキャラって何かしら?

流行りの乙女ゲームの転生ものに手を出してしまいました。

ちなみに作者(わたし)は乙女ゲーム好きです_(^^;)

 どうやらわたしには、今生きている人生の、もうひとつ前の記憶があるらしい。

 時々、目にした風景を「知っている」とか「見たことがある」って思う瞬間がいくつもあった。侍女のアヤメに話すと、それは「既視感」というもので、誰もが少なからず感じるものだと教えられた。

 以来、あまり深く考えなかったのだけれど、十二歳の誕生日、改めてその「既視感」に向かい合うことになった。


「姫様。今日から王城に上がることになりました、うちの倅です」


 庭師のゴウの隣に立つ少年は、緊張した面もちで礼の形を取った。

 背はわたしよりも、頭ひとつ分は高い位置にある。紅茶の水色のような赤みを帯びた茶色の髪は、後頭部で括られ、短いしっぽを作っていた。

 少し長めの前髪に隠れて、彼が今どんな表情をしているのか見えない。


「この方があなたの息子さんなの?」

「はい」


 本来なら王族は使用人たちと直接口を利くことなどない。でもわたしは四番目の王女であるせいか、王太子である兄上や姉上たちよりは自由に振る舞うことを許されている……というか、放任されている。だから王城の庭園によく足を運んでいるうちに、そこで働く庭師たちとも親しくなったというわけ。


 庭師の頭でもあるゴウは父上よりも年上で、どちらかといえばお爺様に年が近い。そんなゴウの息子さんが庭師見習いとして王宮へ上がると聞いていたから、もっと年上の人がやってくるかと思っていた。話を聞けば、この少年は養い子であるということがわかった。


「初めまして。わたくしは此花このはな、あなたは?」

「カイ、と申します」


 相変わらず顔は隠れたままだ。なのに、今溜まらなく「既視感」を彼に感じていた。

 今まで風景や部屋といった場所に対して既視感を感じていた。でも、人に対してこれほどの既視感を感じたのは初めてのことだった。


「ね、お顔を見せてくださらない? わたくし、まだあなたのお顔を見ていないわ」

「いえ、ですが……」


 焦る気持ちを抑えてお願いするものの、カイは困ったように言葉を濁してしまった。

 どうしよう、困らせたかったわけじゃないのに……。

 助けを求めるように、彼の隣に立つゴウを見上げる。


「カイ、面を上げていい。この城では王族の方々と直接お話をしてもいいと許されている」

「……はい」


 すると、カイは仕方がなさそうに顔を上げる。まだあどけなさが残る少年の顔を目にして、わたしは思わず息を呑んだ。


「……あなたの目は、雨上がりの空のような色をしているのね」


 頭に浮かんだ台詞を、思わず口にしていた。するとカイは驚いたように瞬き、初めてわたしと目を合わせた。


 知っている。わたしは、この人のことを……。


 これまでにない強い既視感。瞬間、頭の中にいっぺんに処理しきれないほどの記憶が押し寄せる。

 春の花々が咲き乱れる庭園。

 背が高く、紅茶色の髪と青みがかった灰色の瞳を持った青年。

 彼と向き合った銀髪と翡翠の瞳を持った幼い少女。

 少年は白いシャツと濃い草色のズボンといった洋装なのに、向き合う少女は鞠や小菊を散らした模様の赤みを帯びた着物姿だ。

 設定はなんちゃって大正浪漫風。

 でも王様が統べる国なのね。

 民主主義じゃないのね。

 一応「陽出国ひいづるくに」ってなっているから、明らかにモデルは日本だよね。

 それにしても主人公が銀髪ってどうなの?

 まあ、キャラ全員黒髪黒目だったら区別がつかないから仕方がないよね。

 ……って、今の何?!


「姫様?」


 押し寄せる記憶に翻弄される。思わずふらついたわたしを、カイが素早く支えてくれた。

 まだ少年らしい細い腕だというのに、意外にも力強い。

 さすがわたしの推しキャラ! 

 ああ、今のスチルがあったら欲しい!

 ……って、これも何?!

 頭の中に、今まで知らなかった単語がポンポンと飛び交う。


「ごめんなさい、少し目眩がして……」

「大丈夫ですか? すぐ侍女殿をお呼びして薬師を手配しなければ」


 焦ったカイのシャツを掴んで、大丈夫よと微笑んでみせる。


「もう平気よ。ただの立ちくらみ。ごめんなさい。みっともないところをお見せしてしまって」

「いえ、あの……親父殿が、もう呼びに行ってしまいました」

「あら……」


 ゴウってば、心配性だなあ。

 それだけ大事にしてもらっているんだな、と思うだけで心が温まる。ひとりでほっこりしていると、カイが不安げに、恐る恐るわたしの顔を覗き込む。


「姫様、大丈夫ですか?」


 幼さを残したカイのアップ! どうしよう、尊い! カイの心配そうな表情が尊過ぎて鼻血が出そう。


「ありがとう、もう平気。これからよろしくね、カイ」


 大事なカイとのファーストシーンに、鼻血なんて噴くわけにはいかないわ。さあ、王女らしい気品溢れる笑顔を浮かべるの。

 なのにいつも心掛けていた王族らしい笑顔ではなく、思い切り弛みきった満面の笑顔になってしまったことだけが悔やむところ。

 初めて会ったはずのカイを知っている。でもわたしがよく知るのは、もう少し大人びた彼だったはず。


 ところで推しキャラってなんだろう?

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