毎日が休み
「あんた、仕事楽しくないでしょ」
「えっ、はい。そうです。わかるんですか」
「言わなくたってわかるよ。さあ席に座って」
「あっどうも」
「ま、ここに来る人ってあなたみたいな人ばかりだからね」
「ああそうなんですか、それはよかったです」
「看板がなくて心配だったんです。中も怪しい占い屋みたいで」
「ははは、それで誰からの紹介で」
「あっえーと、高田という者からです」
「はいはい高田さんね。最近来てないけどね」
「それで、何をお探しで」
「毎日が休日になるとかいうやつをお願いします」
「あら、あれが欲しいの。結構するわよ」
「いいんです。あるだけください」
「そう。それではここにサインと口座番号を」
紙にサインして、大量の瓶を自宅に持ち帰った。
「おう。例のアレはどうなったんだ」
「ほらこれ、でも大丈夫かそんな怪しいの。信用できないぞ」
「いいんだって。もう一年は使ってるんだしよ。お前もどうだ」
「いいよ。俺は怪しいやつには頼らないんだよ」
「次も代わりに買ってきてくれよな、もっと出すからさ」
「はいはい。明日も早いんだからさっさと帰れよ」
「とにかく、次も頼むぜ。じゃまた」
ポケットから瓶を出す。
一つくらい高田にはバレないだろう。
あの時占い師のようなあいつはこれの説明をしてくれた。
仕事をしている時間と記憶が飛び、気づくと仕事を終えて家に帰っていることになる。
一種の催眠のようなもので、家に着いたりリラックスすると催眠が解かれる。
仕事の間は自分がするであろう行動を勝手にしてくれるので、誰かに不審がられたりすることはなく、人との会話もそつなくこなせる。
最近では学生の間でも流行っているとか。
使用方法は寝る前に一錠飲むだけ。
瓶をじっと見つめる。
次の日。
「おっす、おはよう」
「おはよう。あれ飲んできたのか」
「ああもちろん。もう、あれ無しはキツイ。中毒だね、ははは」
「はは。そのことで聞きたいことがあるんだけど、ちょっと帰りに飲みに行かないか」
「いいよ。えーと、今メモるから」
「ああ。お前がいちいちメモを取るのがやっとわかった。記憶が飛んでたのか」
「そうそう。この会話も忘れるから、ボイスレコーダーもつけてんだぞ」
「マジか。下手なこと言えないな」
「ははは。んじゃ、今夜飲みってことで」
「じゃあな」
仕事終わりに行きつけのバーに高田と寄った。
「んで、興味でてきたんかアレに」
「少しだけだけどね」
「アレはいいぞ。つまらない仕事の時間は他人がやってくれている気がする感じで」
「アレを飲んで寝るだけで金が入ってくるしな」
「でも疲れとかないのか」
「あるよ。でも疲れっていうのは、心からくるものなんだよ」
「体がいくら疲れたって心が元気ならなんにでもやれるのさ」
「暇なときにボイスレコーダーを聞くんだけどさ、お前俺に愚痴結構言うよな」
「そうかな。確かに高田以外には言わないな。なんか明日まで覚えてない感じだったし」
「だろ。俺に愚痴ってもそれはいいんだけどさ。言ってる方も幸せになれないよな」
「ああ、それはあるかも」
「だからさ、そう幸せっていうのは心からなんだよ」
「失礼かもしれないけど、よく体が不自由とかホームレスとか引き合いに出されてお前は幸せだ、とか言うやついるけどさ、心が幸せだったら関係ないんだよ、そんなこと」
「そう思わないか。俺はそう思うんだけど」
「あ、ああ。わかる。その話すげえわかる」
「だろ、俺はなりたくてこの仕事を選んだわけじゃないんだ。それで何とかこの仕事を好きになる方法や上司との付き合い方を学びにあちこち行った。でも、違ったんだ。何をしても少しも面白くない。こっちが頑張っても何も変わらない」
「そんな時に高校の同窓会があった。それで紹介をもらうことができた」
「なるほどな。そんなこと思ってたなんてな」
「たぶんだけど、そんなやつは知らず知らずのうちに消えていくんだよな」
「そうか、なるほど」
「どうだ。強制はしないけど」
「それって、あそこでまた買えるんだよな」
「そうだよ。次からは名前を出さなくていいことになっているはず」
「そうか、ありがとう。興味が出たら使ってみるよ」
「おう。いつでもやめれるしな。ま、俺はやめないけど」
「ははは。体に気をつけろよ」
家に帰ると、すぐに瓶から薬を出して飲んで寝た。
気づくと家の玄関に立っていた。
スーツをを着て、汗をかいている。
スマホを見ると、次の日になっている。
玄関のドアを開けて外を見ると、暗闇だった。
興奮と不気味さがこみあげて、高田に電話した。
しかし、高田は電話にでなかった。
仕方がないので、シャワーを浴びて、ゲームをしてから薬を飲んで寝た。
いつもタイマーをセットして寝ていたが、今日はつけないで寝た。
気づくと玄関に倒れていた。
スマホで確かめようとしたが充電が切れていたので充電すると、寝た日から三日後ということがわかった。
不安になって高田に電話したがでない。
玄関のドアを開け、暗闇の中あの店に走った。
「あら、いらっしゃい。久しぶりってほどじゃないわね」
「あの、起きたら三日後になっていたのですが、これは」
「え、あーはいはい。たまにあることよ。緊張がほぐれなかったのね、使って日も浅いでしょ」
「はあ、そうですが」
「そうね、確かに三日はショックよね。無駄にしたって感じでね」
「はい、そうなんです。どうすれば」
「緊張がほぐれるようなことをすればいいんじゃないかしら。家にお香をたくとか」
「そうですか。ありがとうございました」
「いいのよ。また足りなくなったらいらして」
店のドアが閉まる。
女はスマホを取り出し耳に当てた。
「ふう。あの子もう気づいちゃった。どうするの、社長」
「構わん。高田が気づいてないのはあいつが馬鹿だったからでこれが普通だ」
「また来たらどうするの」
「大丈夫だ。次来ることはない。家に帰らせないんだからな」
「そうね。それなら安心ね」