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童話

グレイスランドの春の女王

作者: 天界音楽

挿絵(By みてみん)


 さあ、今日はあなたにわたしのお祖父さんのお祖父さんの、そのまたお祖父さんが旅人から聞いたお話をしましょう。

 昔々、あるところに人と動物が一緒に暮らす、平和な国があったそうです。そこには山と湖があり、なだらかな丘と森があり、グレイスランドとよばれていました。



 グレイスランドの王さまは偉大な魔法使いでした。王さまは国を作ったとき、最後の仕上げにと杖を振って、四人の妖精の女王を呼び出しました。



 一人目は、夢見る瞳の春の女王。


 次に出てきたのは、陽気で快活な夏の女王。


 その次には、寂しげな眼差しの秋の女王。


 最後に、包み込むような優しさを持つ冬の女王が現れました。



 王さまは国の真ん中に塔を立てました。そこへ女王が入ると、まるで服を着替えるように国中の景色が変わります。春の女王が入れば春に、夏の女王が入れば夏に。

 グレイスランドに四つの季節がおとずれるのは、王さまと四人の妖精女王のおかげなのです。



 ところが、ある年のこと、いつまで経っても春がやってこなくて、冬のままということがありました。湖でスケートをして楽しんでいた子どもたちも、雪と氷しかないので、だんだん寂しくなってきました。大人たちも何だか元気がありません。



 知りたがりの女の子、九歳のポリアンナはお母さんに聞きました。



「お母さん、どうして春が来ないの? どうしてお花が咲かないの?」


「それはね、冬の女王さまが塔から出ていらっしゃらないからよ」


「どうして出てこないの? お腹が痛いの?」



 お母さんは困ってしまいました。ポリアンナはどうしてもわけを知りたくて、冬の女王に会いに出かけて行くことに決めました。お母さんがお弁当と水筒を持たせてくれたので、なんの心配もいりません。



 雪の積もる白い道を雪靴できゅっきゅと踏みしめて歩いていくと、塔が見えてきました。バラ色の素敵な石でできている塔は、今ではすっかり氷が張って青くなってしまっています。塔の近くまで行くと、氷で作られた、人間そっくりの像がいくつも立っているのが見えました。



 騎士の像、粉屋の像、おかみさんの像、娘の像、それにたくさんの男の人の像です。ポリアンナはおもしろくて、一つ一つの顔を覗きこんでは笑いました。どの像もとってもびっくりした顔をしているんですもの。



 ポリアンナは知りませんでしたが、この像は元は本物の人間だったのです。王さまが、「冬の女王を連れ出して春の女王と交代させた者に、なんでも好きな褒美を取らせる」と言ったので、欲に目がくらんだ大人たちが無理やり女王を連れ出そうとしてこんな姿になったのでした。



 塔の入り口を探していたポリアンナの耳に、悲しそうな泣き声が届きました。誰が泣いているのかと探してみると、氷の像に隠れるようにして女の人が二人、道ばたに座っていました。



「だあれ? どうして泣いているの?」



 泣いていたのは、コケモモとぶどうの色をしたドレスを着た女の人でした。頭には満月のように金色に輝く冠をのせています。落ち葉の色の髪の毛をまっすぐに垂らしたこの人は、秋の女王に違いありません。



「わたしは秋の女王よ。冬の女王が出てこないので気がふさいでいるの」


「悲しいのね」


「ええ。冬の女王は苦しんでいるの。でも、わたしには助けてあげられない」



 秋の女王はそう言って両手で顔を覆うと、わっと泣き出してしまいました。もう一人は秋の女王の背中を撫でながら、しょんぼりしています。思わずにっこりしてしまうような青空色のドレスを着て、新しい葉っぱのような色の髪を短く切っているこの人は夏の女王です。耳にはパラパラと降る雨のしずくのイヤリングをしていて、頭には露をうけて輝く蜘蛛の巣で作ったような冠をさしています。



「あなたはどうして、そんなにため息をついているの?」


「ふぅ。わたしは夏、夏の女王なんだよ。いつもは楽しく過ごしているんだ。でも、大切なお友達の春の女王が帰ってこないんだ」


「探しに行かないの?」


「無理だよ。わたしまでいなくなったら、秋の女王は涙になって消えちゃう。そんなのダメだ、わたしは秋の女王が大好きなんだから」


「そうなの、早く春の女王が帰ってくるといいわね」


「うん。ところで、ごめんね、あなたはだあれ?」


「わたしはポリアンナよ。どうして冬の女王が塔から出てこないのか、聞きに来たの」


「そう。塔の入り口はあっちだよ」


「ありがとう」


「さようなら」


「さようなら」



 ポリアンナは二人にさようならを言って、塔の下まで行きました。木でできた扉をノックすると、中から「どうぞ、入って」と声がします。



「お邪魔します」


「あら、いらっしゃい、小さなお嬢さん。春の女王かと思ったのだけれど、違ったのね」


「こんにちは、わたしはポリアンナ。あなたが冬の女王さま?」


「ええ、そうよ」



 ポリアンナは白い息を吐きながら挨拶しました。手袋に入った指の先も、雪靴の中の足の指も冷たくなっています。なぜなら、塔の中は氷付けで、ストーヴも、温かいお茶もなかったからです。



 出迎えてくれた冬の女王は、南天の実でできた真っ赤な首飾りをしていて、ふわふわの雪みたいな髪の毛の中に、つららを集めて作ったような冠をさしています。野原に厚く積もった新雪のようなドレスを着ていましたが、それは半分以上が凍って床に張り付いてしまっていました。これでは女王は動けません。



「わたし、聞きたいことがあって来たの」


「どうぞ、なんでも聞いてちょうだい」


「冬の女王さまは、どうして塔から出てこないの? 女王さまが塔から出ないから、冬が終わらないの?」


「違うのよ。春の女王が戻ってこないから、わたしはここから出られないの」


「じゃあ、冬は終わらないの?」


「いいえ。もうすぐわたしは雪になって消えます。そうしたら冬は終わるけれど、代わりに今度は冬が二度と来なくなるの」



 ポリアンナはびっくりしました。女王さまが消えて冬が来なくなってしまったらどうなるんでしょう。もう、そりすべりも、スケートも、雪だるまを作ることもできません。



「そんなの困っちゃう」


「ええ。とっても困るわ。お願い、春の女王を探してきてくれないかしら?」


「いいわ。わたしが探して連れてきてあげる」


「ありがとう。では、わたしからあなたに贈り物をしましょう」


「なあに?」


「これは、《眠り》よ。役に立つかもしれません、持っておいきなさい」


「わかったわ。いってきます」


「ありがとう、ポリアンナ」



 ポリアンナは受け取った《眠り》をポケットにしまいこみました。それはフワフワした、雪のような小さなものでした。塔を出ると、二人の女王がさっきと同じように座っています。もう秋の女王は泣いていませんでした。



「夏の女王さま、秋の女王さま、わたし、春の女王さまを探しに行くわ」


「ありがとう、ポリアンナ。一緒に行ければいいんだけど、秋の女王はもう動けないみたいだ」


「心配しないで、大丈夫よ」



 ポリアンナが笑うと、秋の女王が顔を上げて言いました。



「わたしから、あなたに贈り物をしたいの。これよ。これは《忘却》と言うの」


「ぼうきゃくって、なあに」


「忘れることよ。上手に使えば、きっとあなたの役に立つわ」


「ありがとう、秋の女王さま」


「だったら、わたしからも贈り物をしよう。わたしからは《元気》だよ。きっと役に立つよ」


「ありがとう、夏の女王さま」



 《忘却》と《元気》はそれぞれ、小瓶に入った透明なしずくと、とても良い匂いのするミントの葉っぱでした。ポリアンナはそれらをポケットに入れました。



 手を振る二人に見送られたポリアンナは、ちょっと考えて、なんでも知っているという偉い魔法使いの王さまのところへ行くことに決めました。湖の向こうにあるお城まで、スケートですべって行くことができます。



 ところが、湖まで来てからスケート靴を持っていないことに気が付きました。これではすべれません。ポリアンナは泣きたくなってしまいました。とても疲れてしまい、しばらく岸の切り株に座って膝を抱えていましたが、夏の女王さまにもらった《元気》のことを思い出しました。



「そうだわ、わたしにはこれがある!」



 ポリアンナはポケットから《元気》を取り出して、くんくんと鼻を動かしました。ミントのすーっとなる甘い匂いに、もう一度歩ける気がしてきました。ポリアンナはぴょんと立ち上がると、湖を遠回りしてお城まで行きました。



 大きな立派なお城には門があって、兵隊が立っていました。ポリアンナが王さまに会いたいと言いますと、中に入れてくれました。赤いじゅうたんの廊下を通って、王さまの部屋まで来ました。



「お邪魔します。わたし、ポリアンナよ。王さまに会いに来たの」


「入っておいで。そして、わしを助けてくれ!」



 扉を開けると、部屋の中は本がいっぱいに散らかっていました。ポリアンナはきょろきょろ見回しましたが、誰もいません。



「王さま、どこにいるの?」


「ここだよ、ここだ。助けてくれ~!」


「きゃっ」



 足元から声がするので見下ろすと、崩れた本の山に挟まれた小さな人がいました。ポリアンナは本をどけて助けてあげました。



 手のひらにすくって、顔の高さまで持ち上げると、ようやくそれが王さまだと分かりました。大人の親指よりもちょっと大きいくらいの、真っ白い服を着たおじさんです。

 その人は針と同じ大きさの、金色の杖を持っています。杖の頭にはカエルの飾りがくっついていました。王さまの夜の色をした三角帽子には、星のようなダイヤモンドが散りばめられていて、とてもキラキラしています。



「助けてくれてありがとう」


「あなたが、王さまなの?」


「そうだ、わしが王さまだ。いったいなんの用だね」


「春の女王を探しているの。王さまはなんでも知っているんでしょう、どうやって探せばいいかしら?」


「もちろん、なんでも知っているとも。春の女王なら、森にいるよ」


「森にいるのね」



 ポリアンナは嬉しく思いました。でも、森はお城の正反対にあるのでとても遠いのです。



「ありがとう、王さま。わたし、お弁当を食べたら森に行くわ」



 お弁当と聞いて王さまのおなかからぐぅぅと大きな音がしました。ポリアンナはお母さんが作ってくれたサンドイッチを分けてあげることにしました。



「わしはトマトが嫌いだ。きゅうりも嫌いだ」


「好き嫌いすると大きくなれないよって、お母さんがいつも言ってるよ」


「だからわしは縮みつづけているんだ」


「ふぅん」



 ポリアンナは大嫌いなピーマンを思い浮かべました。次に王さまを見ました。



「王さまは、ピーマン好き?」


「大嫌いだ!」



 ポリアンナは、もしピーマンが自分のお皿にのせられたら、今度からちゃんと食べようと思いました。



「おいしいサンドイッチだった。ありがとう、ポリアンナ。お礼に森まで送ろう」


「やったあ。ありがとう、王さま」



 王さまはお城で飼っているカラスのうち、起きている方のカラスを連れてきました。これは夜を運んでくる黒いカラスでした。朝を運んでくる白いカラスはまだぐっすり寝ていたのです。



「このカゴに入ってごらん、カラスが運んでくれるよ」


「わぁ、すごい」


「気をつけていっておいで」


「ありがとう。さようなら」


「さようなら、また会おう」



 小さな王さまと兵隊さんに見送られて、ポリアンナは大きな黒いカラスに連れられて、森へ飛びました。カラスはゆっくりとカゴを下ろすと、森の木に止まってカァと鳴きました。待っていてくれるようです。ポリアンナは暗い森の中に入っていきます。



「暗ぁい。こわぁい」



 泣きそうになりながら、それでもきょろきょろ探していると、遠くに明かりが見えました。狩人の小屋かもしれません。ポリアンナはそこに行って、聞いてみることにしました。



 明かりの漏れる扉を叩こうとしたとき、中から声がしました。



「ああ、どうか行かないでください。あと少しだけ、ぼくの足が治るまではいてくれると言ったじゃないですか」


「そうですね。わたしは、約束しました。だから、あなたのそばにいましょう」


「よかった。では、食べるものを取ってきますから、ここから出ていかないでくださいね。お願いです」


「わかりました」



 若い男が小屋から出てきました。ポリアンナは木の影に隠れたので、見つからずにすみました。静かになったので、ポリアンナは扉を叩いてみました。



「はい、どなた?」


「わたし、ポリアンナよ。春の女王さまはここにいるかしら?」


「わたしが春の女王です」



 開けてくれた女の人は、にっこりしています。猫柳のようなつやつやした、銀の髪の毛をくるくると巻いて、花畑のようにたくさんの色が集まっているドレスを着ています。



「女王さまなの? 冠がないわ」


「そうなの。隠されてしまって、わたしには見つけられないの」



 春の女王は目を伏せて言います。ポリアンナは女王がかわいそうになりました。



「わたし、探すのを手伝ってあげる」


「ありがとう。でも、冠が戻っても、わたしにはここから離れられません。狩人の足の怪我が治るまでは、どこへも行かないと約束をしたのです」


「でも、あの人はちゃんと歩いていたわ。怪我は良くなっているんじゃないの?」


「そうよ。でも、まだ痛むからそばに居てほしいと言うの」


「そんなぁ。冬の女王さまが待ってるのに。どうしたらいいのかしら」


「秋の女王だけが持つ、《忘却》があれば、彼はわたしを忘れて、自由にしてくれるでしょう。もうすぐ狩人が帰ってきます、秋の女王のところへ頼みに行ってくれませんか?」



 春の女王はすまなさそうにしています。ポリアンナはにっこり笑って、ポケットの中身を見せました。



「大丈夫、《忘却》ならここにあるわ。それに、《眠り》も!」


「まぁ!」


「ねぇ、狩人さんを眠らせて、そのうちに冠を探しましょう?」


「わかりました。じゃあ、そこの戸棚に隠れていてちょうだいな。わたしが彼を眠らせます」



 ポリアンナが言われた通りに戸棚に隠れると、狩人が帰ってきました。二人は食事を済ませ、女王が狩人をベッドに誘いました。



「お腹がいっぱいでしょう。ひと眠りされたらよろしいわ」


「まだ眠くはないよ」


「傷に響きますよ。さあ、枕に頭を置いて横になって?」


「いいや、結構です」



 狩人は女王の言うことに二度とも首を振りました。隠れて聞いていたポリアンナはドキドキしてきました。女王は黙っていましたが、やがてゆっくりとお願いするように言いました。



「わたしが眠くなってしまいました。添い寝してくださらない?」


「そういうことなら、喜んで」



 狩人が横になると、枕の下に忍ばせてあった《眠り》のせいで、すぐにぐっすりと寝てしまいました。ポリアンナがつついても、全く起きません。


 二人は家中を探して探して、ようやく冠を見つけました。それは、狩人の仕事道具が入っている棚の奥、布にくるまれていました。



 トロトロの蜂蜜色の冠を、春の女王の頭にのせます。すると、小屋の中がさらに明るくなったように思えました。



「きれい…」


「ありがとう。さぁ、次は《忘却》を使わないといけません。急ぎましょう」


「どうするの?」


「彼の目に、この中身を一滴ずつ垂らすのです。わたしがやりましょう」



 春の女王は狩人の目に《忘却》を垂らしました。あとは、彼を起こして、「出ていけ」と言われるようにするだけです。



「もう、起こしてもいい?」


「待って。最後に一つ、彼に贈り物をしたいの」



 春の女王は狩人の上に身をかがめると、額の髪の毛をはらい、そこに口づけを落としました。



「なにをしたの?」


「わたしからの贈り物は、《歓び》です。わたしは去って、代わりに素敵な夢だけを置いていきましょう。彼の未来が明るいように」



 ポリアンナはうなずき、狩人を揺さぶって起こしました。



「誰だ、お前たちは! 勝手にひとの家に入るんじゃない、今すぐ出ていくんだ!」



 楽しい夢を見ていた狩人は、びっくりして怒りだしました。二人は逃げるように小屋を出て、森の入り口で待っていたカラスのカゴに乗り込みました。



 カゴはふわっと浮かび上がり、橙色に染まるグレイスランドが見渡せました。行きは怖くてカゴにしがみついていただけの空の旅も、今は春の女王が後ろから支えてくれているから大丈夫です。



「わぁ、素敵ね。見て、塔が見えてきたわ!」



 凍りついた青い塔は、夕日できらきら光っています。黒いカラスはゆっくりと旋回しながら、塔のてっぺんにカゴを下ろすと、急いで仕事に向かいました。もうずっと待たせていた夜を呼んでくるためです。



「ポリアンナ、一緒に来てくれるかしら。冬の女王に会わなくちゃ」


「もちろんよ」



 二人は塔の内階段を下りていきました。中は冷え切っていて、なんの音も聞こえません。



「冬の女王さま? わたしよ、ポリアンナよ。春の女王を連れてきたわ」



 薄暗い塔の中、ポリアンナが最後に見た場所に冬の女王は立っていました。祈るように指を組んで、目を閉じています。そしてそのまま、まつげにまで霜が下りて氷の像になっていたのです。



「きゃあ!」


「そんな。間に合わなかったのね」



 ポリアンナの後ろから覗き込んでいた春の女王が、悲しそうに言いました。



「どうしましょう、これじゃあ、もう、グレイスランドには二度と冬が来ないわ!」



 ポリアンナは悲しくなって泣き出してしまいました。春の女王もポリアンナを抱いて涙を流します。やがて、秋の女王と夏の女王もやってきて、みんなで一緒に冬の女王のために泣きました。



 窓の外には雪がしんしんと静かに降っています。吐き出した息も、あふれ出た熱い涙もカチンコチンに凍りつきそうな夜でした。ポリアンナは寒くて寒くて震えてしまいました。そして、冬の女王の言葉を思い出しました。



『もうすぐわたしは雪になって消えます。そうしたら冬は終わるけれど、代わりに今度は冬が二度と来なくなるの』



 冬が終わって二度と来ないのなら、どうしてこんなにも雪が降ってくるんでしょう。どうしてこんなに冷たいんでしょう。春の女王が塔に入ったら、春になるはずなのに。



「聞いて、冬の女王はまだ死んでいないわ」



 ポリアンナの言葉に、春の女王と夏の女王と秋の女王は顔を上げました。不思議そうにポリアンナを見ています。



「ほら、見て。女王さまはまだ消えてないの。冬の女王さまが雪になって消えちゃったら、次は春が来るはずでしょう?」



 みんなの目に希望の明かりが差しました。そこへ、外から扉がノックされました。ポリアンナが開けてみると、そこには白いカラスがいました。ポリアンナたちを運んでくれたカラスと同じくらい大きな大きなカラスです。



「待たせたな。よくぞ春の女王を連れ帰った」


「王さま!」


「どれ、わしが冬の女王の魔法をといてやろう。近くまで連れて行ってはくれまいか」


「ええ、ええ、もちろんよ」



 ポリアンナは両手で王さまをすくい上げると、固まってしまった冬の女王の近くへ寄りました。王さまは金のかえるの杖で、つんと一回つきました。それだけで霜はすべてなくなり、氷の女王はハッと息を吸い込みました。



「冬の女王、大丈夫かね」


「王さま、もう、平気です。ああ、ポリアンナ、あなたが助けてくれたのですね。どうもありがとう」


「どういたしまして。約束通り、春の女王さまを連れてきたわ」


「では、さっそくだが交代の儀式をしよう。さぁ、冬の女王以外はみんな外に出るんだ。さぁ、話しはぜんぶ、終わった後に聞こう」



 そうして、みんなが見守る中、春の女王は塔の扉を優しくノックします。それにこたえて、冬の女王が戸口を開けました。



「いらっしゃい、春の女王」

「ありがとう、そしてさようなら、冬の女王」



 二人の女王は優雅にドレスをつまんで、おじぎをします。冬の女王が先に塔から出て、春の女王を手を差し伸べると、その手に助けられてゆっくりと塔へ入っていく春の女王。パタンと扉が閉まると、それが合図だったように塔が元のバラ色を取り戻します。



 塔を中心にして、いっせいに春の風が吹き抜けていきます。そして、白いカラスが連れてきた、いつもよりちょっと早起きの朝がグレイスランドの家という家を起こして回りました。



 王さまは塔の近くにたくさんあった氷の像をすべて、杖でつついて人間に戻しました。起こされた人々は手を取り合って春のおとずれを喜びました。



「ありがとう、ポリアンナ。きみの勇気と優しさが国を救ってくれた。なんでも願い事をかなえてあげよう。ただし、一つだけだぞ」



 王さまがいたずらっぽく笑います。ポリアンナはちょっとだけ考えて言いました。



「みんなで楽しく遊びたい!」



 そこで、王さまは塔のそばでパーティーを開くことにしました。国中からみんながあつまって、美味しいごちそうを食べ、好きな飲み物で乾杯しました。春の女王も塔の上から花を降らせて歌います。



 あの狩人もパーティーに来ていました。彼はもう寂しそうではないし、怒ってもいません。みんなと楽しそうにおしゃべりしています。



 ああ、王さまだけはお皿にのせられたピーマンを見て、口をへの字に曲げていましたね。でもね、ポリアンナが食べているのですから、王さまもひと口は食べなくっちゃいけませんよ。それに、これ以上縮んでしまったら、消えてなくなっちゃうんですからね。




 おしまい。

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[一言] 嫌いなものを食べないでいると縮んでしまうなんて! 冒険譚から「好き嫌いなく食べよう」なんていうテーマが出てくるだなんて予想外でした。 この結論にたどり着くまでも、与えられたアイテムをポリア…
[良い点] 天女の羽衣? 童話なのに、狩人さんがヤンデレ(^^; [一言] 可愛らしいお話で、とても良かったです。 王様はピーマンが嫌いって、なんて子供(^^) 童話らしい優しい気持ちになれました。…
[良い点] とても綺麗な童話です。悪い人が誰もいない心温まるお話でした。 [一言] 心の汚い私は狩人の野郎絶対にやっ...... ポリアンナちゃんがとても良い子で素敵ですね。よかった探しを始めないかと…
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