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Chapter1:NO RUN その1

時間逆流。6日前。

_____________________

_______________


4月12日。


放課後。


朴月ほおづき君ってさ相も変わらず変態さんなんだね」


「記念すべき一言目がそれとは全く理解に苦しむね」


部活人は終わりの見えないハードワークに、ガリ勉ちゃんやガリ勉君は物音ひとつない図書館で脳に休みを与えることなくいじめ続ける勉強地獄に励んでいる中、俺と同級生のゆるふわボブヘアーの少女、明日風あすかぜ 京子きょうこは誰もいなくなった教室にいた。


2人きりでいた。


つい先程まで30何人ものクラスメイトがいたとは思えないほどに広く虚しくひらけた教室は快適な空間となって俺たちを必要性のないこの部屋に閉じ込めていた。


「閉じ込めていただなんてそんな他人行儀な」


明日風が手に持ったシャープペンシルを器用にくるりくるりと数本の指を使って回しながらそう言った。


「私たちは次のテストの勉強をしてるんでしょ?主に朴月君の」


ズビシッ、と鋭い先端部分を俺に向けてつき立てる明日風。


もし俺が先端恐怖症だったら今頃発狂しながら裸で盆踊りを披露していたところである。


よかったな、俺が先端恐怖症じゃない紳士的な高校生で。


「仮に俺がこの場で裸で盆踊りしたらどう思う?」


「そんな生産性のないものを披露してどうしたんだろう?なにがしたいんだろう?もしかして私のスルーを期待しているのかな?それともそれすらうけいれる広い心の器を求められているのかな?でもそもそもにおいてそんなことをする立場に今あなたはいるのかしら?って私なら思っちゃうかなー」


あんぐり。


「あれ?まさか本当にする気だったとかじゃないよね?」


「仮だって言っただろうこの馬鹿者めが」


目が泳ぐ。


大波にもまれる海藻のごとく法則性のない無気力な揺れを見せる。


まさか適当に言ったifの話をあそこまで現実的かつ攻撃的に変換してくるとは思いもしなかった。


机を通り越して床にまで到達した顎を両手で持って元の位置へと強引にしまいこんだ後、俺は再び机上にあるテキストの山に目をやった。


どうしてお前みたいな奴が生まれたんだと恨めしい数学の公式を見ながら俺は早速やる気スイッチをオフにした。


もとより俺のやる気スイッチは不良品で作動するのは年に1・2回あるかないかなのだ。


こんなところで貴重なスイッチを作動させるわけにはいかないという俺の精神的な枷が見事に機能している。


誰だって最後の最後にとっておくとっておきなるものはあるだろう。


とっておき。

裏技。

火事場の馬鹿力。

隠しコマンド上上下下左右左右BA。

以下etc…。


これらは本当に困ったときにこそ使うべきものだ。


となれば俺のやる気スイッチもまた大事なときにはきっと機能してくれると確証性のない信頼をよせる。


やる気スイッチの材料。

確証性のない信頼と少量の希望。

後味に絶望と不幸の大量スパイス。


とはいってもテストの勉強を一緒になってしてくれている恩人が遠回しに勉強をやれというのだから下手な抵抗や反抗はしないでおこう。


まだ始業式が終わって間もないこんな時期にテスト勉強だなんていくらなんでも早すぎるのではないかと思われるかもしれないが、しかし早いなんてものではない。


むしろ俺の場合はこうでもしなければ間に合わない。


というのも俺は去年…もっといえば高校2年生の雪が降り始めた後期から諸事情により全くといってよい程学校に行っていないのだ。


高校の勉強とは積み重ねである。


にもかかわらず後期の大半をでなかったということは即ち皆が積み重ねた知識というブロックが1人だけ欠損しているということである。


支える柱がない展望室のみの東京タワーを想像してもらえると分かりやすいか。


とにもかくにも俺はその空いた大穴を塞ぐ為にもこうしてテスト勉強という名の明日風先生による個別授業を受けているというわけである。


なんとも申し訳ない限りだが彼女曰く『いいのいいの。私もいい復習になるし、まわりまわって受験勉強にも繫がるからね』らしい。


もっともなことを言ってはいるがその9割は彼女の優しい嘘なのではないかと俺は思っている。


ならば少しは真面目に勉強をしろと外野からは言われるだろうが、うるせえ黙ってろこれは俺の問題だ外野はさっさと帰んな的なニュアンスでペン回しを再開する。


「そういえばさっきのアレ、どういう意味?」


「んー?さっきのっていつのー?」


明日風はノートに今日出た英語の新出単語を丁寧な字で書きながらのんびりとした口調で尋ね返した。


「いやだから1番最初の朴月君って相も変わらず変態さんなんだねーのくだりだよ」


本当にいきなりすぎてびっくりした。


メタい話をするとまさか初登場初コメントが俺に対する変態さんなんだね発言だとは思いもしなかったからだ。


「たしかに俺は汗で濡れた柔肌や雨で濡れてシャツからでもスケスケなブラやニーソとスカートが織りなす絶対領域とか大きく上にのびをしている時に見えるヘソチラや脇チラとか物を床に落としてそれを拾い上げた時の上目遣いとかトイレに行く前のやや落ち着かない感じの顔とか椅子に座る時にスカートを手で押さえる仕草とかに欲情および興奮する性格だがそれらを変態と捉えても良いのだろうか?むしろほとんどの男子高校生が口にはしないだけで同意見だと言うと思うが?」


「……答えはいつだってすぐそこにあるってことを伝えるいい方法だねそれ。でもまさかそんなことを思っていたなんて、わたしの予想はるか斜め上をいっちゃってたよ。今日イチの驚きポイントだよ」


明日風 京子の今日イチの驚きポイント。

朴月 しゅんの異常なまでの欲情シチュエーション。



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