儂、攻略対象の第二王子と出会う
トウノ=ベッカー。ベッカー王国の第二王子である。
トウノの先祖は転生者であった。勇者として転生し魔王から姫を救い出し結ばれた。
おとぎ話のような物語は今もベッカー王国に語り継がれている。
「トウノ様、ごきげんよう」
「トウノ様、お疲れ様です」
第二王子というブランドは良くも悪くも目立つ。
同学年だけならまだしも、上級生、はてには教師までが特別扱いをする。
「私はそこまで、心配されるような人間ではないのに」
そして、セイジオとキョウヤ。二人の友人の事を考える。
「セイジオは私よりも賢い。領地運営でも実績を残している。同じ年なのに新型の武器をいくつも開発している」
「キョウヤは私よりも強い。幼少の頃から鍛え上げられた身体と天性の反射神経、運動神経を持ち正規兵と戦っても勝てる程だ」
そして、トウノ王子は頭を抱えた。
「私には何も無い。第二王子に産まれた、というだけの平凡な男なんだ」
平凡な男、といいつつもトウノはあらゆる面で優れていた。
甘いマスクをした美少年である。
十歳にしてはありえない人望とカリスマを持ち、人の話を聞き、判断力に優れている。
知識欲が旺盛で、教師が読むような研究書を理解し、覚えていた。
魔力も勇者の資質の遺伝により、王宮魔術師がいくら束になっても勝てないだけの魔力を持っている。
武力も大人の正規兵には勝てないが、見習い程度ならあしらって見せるくらいの腕前を持っていた。
王としての器は十分に持っていた。
「自信が無くなってしまうよ。どうなっているのだ、今年の生徒は……」
攻略対象ズ+ヘレン(ヒロイン)の当たり年だ。当然と言えば当然であった。
ズシン、ズシン……。
ズシン、ズシン……。
廊下が揺れる。地震か?と王子が後ろを振り返ると、そこには一人の妖精のように美しい少女が居た。
「ぬう、暴れるでないわ!」
それは、犬というには大きすぎた。
馬というには小さすぎた。
ポニーサイズの、獰猛そうな巨大な狼に乗った少女が居た。
呆然と廊下の真ん中で立ち尽くすトウノ。
「そこのこわっぱ。そこは儂の道だ。うぬはどけ」
ヘレンが罵ると、トウノ王子は横に逸れた。
巨大狼へ乗ったまま進むヘレン。トウノ王子の横を通りすぎる時に、巨大な狼が唸り始める。
「黒玉よ、こわっぱを喰う事は許さぬ」
そう言って闘気を立ち上らせると、巨大狼は大人しく進み始めた。
「何故あの少女はあんな危ない物に乗っているんだ!?」
王子が突っ込んだ時、ヘレンの姿は既に無かった。