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悪役令嬢の拳  作者: 二三三一
2/7

儂、明日から女学生

「ぬううん!」

 ヘレンが腕を振ると大木が真っ二つになる。


 ヘレンは歯が生えそろい、自らの力で自立できるようになった。


「不幸な事故(爆死した父は奇病という事で処理された)があったけども、貴方が十歳から学校へ行けるだけの貯蓄はあるわ、心配しないで」


「むう……」

 訳の解らぬ事を言う小娘だ、何を騒いでいるとヘレンは睨み付けた。

 ようやく歩けるようになった自分の子であるためか、いくら殺気をぶつけても動じなかった。


「貴族として恥ずかしくないよう準備するために明日から身体を鍛えたりお勉強したりするのよ」


 身体を鍛えるという二言を聞き取り

「うむ」

 鷹揚に頷き、ヘレンは外へ出た。そもそも、胸が出なくなった娘の所に留まる事は無いのだ。鍛える事を期待しているようだし丁度いい。儂も身体を動かしたかったところだ。

 ヘレンはその日、すぐに武者修行の旅へと出かけた。

 三歳までは山犬を。

 五歳からは猪を。

 八歳からは熊を倒せる程度にはなった。


 学園へ通う前日、ヘレンは娘の元へ戻った。

「娘よ、腹が減った」


 そしてヘレンが戻ってきた時、そこには見知らぬ男が居た。


「お母さん、この人誰?」

「誰だね君は……」


「まさか、ヘレン?……ヘレンなのね!ああ、生きていたなんて!神様、ありがとうございます!」


 弟と新しい父親が増えていた。


「儂もついに女学生か」

 袖を通すと、ヘレンの弟がじっとヘレンの着替えを除いていた。

 まだこの身体は幼い。色欲よりも、興味の視線と言った所だろう。


「姉様?」

「どうした?」

「姉様……。こんな綺麗な姉様ができて、ボク嬉しいです」

トテトテと近寄ってくるヘレンの弟。

「ぬううん!」

 バシュッ。

 ヘレンの人差し指が頭蓋骨の中へとめり込んだ。鍛え上げたヘレンの鉄指は、熊の強靭な肉体を貫くほどに完成していた。

「ぬう、小僧。攻撃かと思ったぞ。紛らわしいではないか」

「あ、あべ、あべ……あべ」

「ここか?」

 親指で、解除の経絡のツボを付く。

「あれ、姉様?ボクお昼寝したの?」

 目をこするヘレンの弟を睨み付け、伝える。

「いいか、赤子よ。儂の側に近寄る時は、殺す気で来い。次は儂も止めぬ。姉より優れた弟等おらぬのだ」


「う……うん。よく解らないけど、解った。姉様の邪魔はしないようにするよ」


 そして、仲が良い設定のこの姉弟は、これ以降一度も話をしなくなる。

 将来、悪役女優に苛められ告発をする時に後ろを支えてくれる弟はもういない。

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