外伝ー恋敵
語り手が病んでいます。そういうのが嫌な人は読まないでください。
私は時々、夫の墓参りに赴き、手を合わせて目をつぶり、心の中で亡き夫に尋ねる。私を本当に恋人として愛して結婚してくれたのと。瞼の中の夫はいつも笑顔で私に答える。もちろんだよ。でも、私はつい、疑ってしまう。本当は私は夫にとって都合のいい女だったので、夫は結婚したのではないかと。
私と夫が最初に知り合った時は思い出せない。それくらい幼い頃からの同い年の幼馴染みだ。だが、お互いに異性として意識しだしたのは中学生になってからで、周囲から相思相愛の恋人として公認されたのは高校生になってからだったと私は覚えている。そして、あの出来事が起こったのだった。
私が物陰にいたので、夫は私に気づかずに友人と話していた。私は夫を驚かすつもりで隠れていたのだ(もちろん、この時はお互い高校生だったので、まだ恋人同士だったが。)。友人が夫に言った。
「いい彼女を持ってお前は幸せだな」夫は答えた。
「いや、彼女が積極的なだけで、僕はそれほど彼女を好きでもない」夫は照れてそう答えたのかもしれない。でも、私にはショックだった。夫には高校入学の前後から交際を申し込もうとする女性の影が絶えなかったが、私が公認の恋人としているので、大抵の女性は夫に交際を申し込もうとはしなかった。夫は交際を申し込もうとする女性にうんざりしていて、その風よけに私を利用しているのでは、と私には思えたのだった。そして、高3の冬に私は夫を半ば騙して体の関係を持ち妊娠して、それを理由に高校を卒業してすぐに結婚した。そうでもしないと夫を失うという不安感が私にはあったのだ。夫は私を愛してくれているようだった。でも、夫からは私を愛しているよ、とは決して言ってくれなかった。そして、結婚から2年後、夫の周囲に女性の影が見え隠れするようになった。私は自分が捨てられて、その女性のもとに夫が奔るのではと怖くて、夫に詳しい話を聞けなかった。そして、夫は事故で亡くなった。ひょっとして夫は自殺したのかもしれない。息子には夫は私を心から愛していたと言うけれど、私は心の奥底で夫は私を愛していなかったのでは、とずっと思い続けていた。
そして、夫が亡くなって14年近くが経ったとき、息子はいきなり16歳になるかならないかの歳で、好きな人が出来たので18歳になったら結婚したいと私に言ったのだった。私が反対しようとすると、彼女のお腹には自分の子どもがいると言ったのだった。彼女は産むつもりだと。私は唖然としたが、心の片隅で思った。私と同様に、息子も既成事実を突き付けて結婚を宣言する。本当に私の息子だと。
そして、彼女に会い、彼女の連れ子の写真を見たのだった。その瞬間に私は直感した。夫は彼女を初恋の人として愛したのだと。そして、子どもを遺したのだと。今、息子も彼女を選んで行ってしまう。私は内心で泣きながら笑い転げた。夫も息子も彼女のところに行ってしまう。どうして、私ではダメで彼女のところに行くの。私は心のどこかが壊れた気がした。いいわ、あなたと息子の結婚を許してあげる、内心で彼女に泣き叫びながら、表面上は微笑んで、息子と彼女の結婚を許した。
そして、今や息子は22歳になり、彼女と結婚して幸せに暮らしている。彼女の連れ子は息子の養女になった。息子が異母妹を養女にするなんて、と私は内心で思う。私にとっては義理の孫になった彼女の連れ子は公然と実父である夫の墓参りをするようになった。実際、表向きは義理の祖父なので非難しようがない。私は今でも複雑な感情を息子とその家族に抱いている。この感情がほどける時が来たとき、私は亡くなった夫との関係についても心の整理がつくのだろうが、それはいつのことになるのだろう。私はそう思いながら過ごしている。
主人公である母からすると、かつての恋敵にして夫の実母が語り手になっています。登場人物に実名が無く、分かりにくくてすみません。




