外伝ー祖母
テレビをつけると、孫娘と娘婿が仲良く司会者のインタヴューに答えていた。それを見ながら、私はふと思った。あれだけのことから、うまくいって、家族仲良く暮らせるようになって本当に良かった。あの時、2回もあったけれど、その時は本当にどうしようかと思っていた、表面上は平静を懸命に装ってはいたが、内心では2回とも私は途方に暮れていたのだ。
娘というか、長女は本当に亡くなった元夫に外見はともかく内心はそっくりだ。思い込んでしまうと外が見えなくなってしまうのだ。更に自分が正しいと思うと絶対に曲げなくなってしまう。元夫もそうだった。だから、私との仲がうまくいかなくなり、それに対して元夫は私に暴力を振るうようになり、私は子どもを連れて元夫の下から逃げ出して家庭裁判所に駆け込むことになったのだった。娘がアイドルとして売れるようになった後、元夫が娘に助けを求めた際に端金を出して話を娘が収めようとしていれば、あそこまでの騒動にはならなかったろう。だが、私の元夫の実父に娘はびた一文出すものか、という態度を絶対に崩さなかった。娘の所属しているプロダクションの人が仲介してくれて、一応は娘の言い分を記者会見で発表してくれたが、予想通りと言うか、世間は納得せず、元夫はますます意固地になってしまった。娘にしてみれば正しいことを言っているのに、どうして世間は認めてくれないのという論理なのだが、世の中には建前と言うものがあるのだ。建前からすれば、娘が親を養わないのはとんでもないことなのだ。そして、傍で優しくしてくれる男に、自分は惚れられていると思って、娘は更に一直線に暴走してしまった。娘が我に返ったのは、男が死んだ後だった。もっとも、私もその頃は娘と元夫に振り回されていて、目の前の事に対処することに手一杯で、細かい記憶には自信がない。ともかく、私の記憶では、娘が自分が妊娠していること、相手の男が事故で死んだことを私の前で泣きわめいたのが、娘の妊娠を知った発端だった。娘が絶対にお腹の子を産んで育てると言い張るので、私としては芸能界からすぐに引退して身を隠せと娘にアドバイスした。世間のパッシングに疲労しきっていた娘は私の忠告に素直に従った。そうでなかったら、娘は別の対応をしたかもしれない。ともかく、それが奏功したために、それから10年以上は私と娘と孫娘は平穏に暮らせていたのだった。
次に大荒れになったのが、孫娘が私の元へ泣きながら駆け込んできて、私の元彼と母が結婚すると言っていると言ってきたときからだった。お母さんは酷い、よりにもよって自分の彼氏を奪うなんて等々、孫娘は泣きわめいた。私は、溜め息をつきながら、孫娘をなだめて、こっそり娘に連絡を取った。一体、どうしてこうなったのか、私にも謎だらけだった。娘は口を濁しながら、結婚しようと思っている相手が孫娘の異母兄であることを私に明かした。それで、孫娘にはそれは教えてあるの、と私が尋ねたら、娘は私の孫娘にはまだ言っていないと渋々言った。どうにも言いづらくて、言いそびれていたと娘は言う。そういうことは自分からきちんと説明しなさい等と私は娘を思い切り叱った後、孫娘が落ち着くまで自分の家で私は孫娘を寝泊まりさせることにした。孫娘の気持ちが落ち着くまでには半年ほどはかかった覚えが私にはある。いつか真実を孫娘に明かしなさいと言ってはいるのだが、結婚してからでも4年は経つのに娘はまだ孫娘に直接は言ってないらしい。もっとも孫娘の方が既に覚っているらしい。養父はどうもお兄さんみたいなの等と私がどきっとすることを言っては私をからかってくる。いい加減に真実を明かしてくれてもいいのに、と孫娘は私にぼやく。一度言いそびれると、中々言えなくなるとは言うが、娘はいつになったら真実を孫娘に明かすのだろうか。
いや、本当は娘は孫娘に既に真実を明かしているのかもしれない。でも、言いそびれたことから、私には言いづらくて黙っているだけなのかもしれない。私は孫娘と娘婿が出ているテレビを見ながらそんなことを思った。それくらい、テレビの孫娘と娘婿は秘密の無い仲の良い家族にしか見えなかった。もっともどう見ても親子ではなく夫婦、百歩譲っても兄妹にしか見えない。実際に兄妹なのだから仕方ないか、私はそう思った。すると、なぜか微笑が浮かんでくるのを止められなかった。




