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エピローグ(それぞれの視点)

「今日は、新進の役者として活躍中のこの2人に来ていただきました」私が見ているテレビには夫と娘が映っていた。

「お2人は法律上は親子とのことですが」

「はい。母が再婚した際に彼の養女になりましたので」司会者の質問に娘が答えた。

「親子と言っても2歳しか違いませんから、兄妹のようなものです」夫が答えた。危ない答えをしたものだ。

「確かにそうですね」司会者が同意する。私は彼との間の3人目の子どもをあやしながら、あらためて物思いにふけった。テレビ映りのせいか、2人がテレビに出ていると直接、顔を合わせるよりも、よく似た兄妹だなとおもってしまう。ネット上では、2人は本当は異母兄妹ではないかという噂が流れているという。それが真実なのだが、それよりも私との間に夫が16歳の時に最初の子どもを作っていたという方が噂としてはインパクトが大きく、夫にとっては本音としてはそっちの方が困った噂らしい。18歳まで待っていたら、他の人に君を取られるかもと心配だったからなのだけど、早まり過ぎたと今頃になってぼやいている。私はそれを笑っている。夫の母は真実に気づいているようだ。私にそれとなく言った。親子2代であなたに好かれたようですね。私は思わず縮こまった。別にいいですよ、息子を幸せにしてくれるのなら、夫の母は笑って私の背を後押しした。あの人はあの人なりに自分でそうしたのですから、あなたのせいではありませんから。夫の母も20年近くの時の流れの中で自分の想いを整理したのだろう。私は本当にうれしかった。この家庭はいつまでも続いてほしい。願わくば4人の子がそれぞれ立派に巣立つまで、私は心から願った。


「お疲れ様」インタビューが終わって、養父は私に声をかけた。

「これから京都へ2時間ドラマ撮影に出発だ。留守の間、妻と子供たちを頼む」

「たまには親子2人で食事でもと思っていたのに」私は不満を言った。養父は私と2人きりにはなろうとしない。芸能界でこれ以上、スキャンダルに巻き込まれたくないということらしい。確かに結婚したので収まっているとはいえ、養父が16歳で母との間に子どもを作っていたというのは、一部の週刊誌をにぎわせたものだった。私と2人で食事をして周囲に誤解されたら困ると養父は言うが、親子なのだし、そこまで警戒しなくてもと私は思うのだが。

「今度、埋め合わせはするから」

「利子が高くつくわよ」私は養父に言葉を返した。

「分かっている」手を振って、養父はテレビ局を出た。私はそれを見送りながら、思った。こうしてみると養父と自分はどことなく似ている。やはりネットの噂は真実なのだろう。だから、養父は自分を捨てたのだ。でも、母も養父も真実を私に教える気はないようだ。それもいいか、今更の話だし、家族にはなれたのだし。私は首を振って、思いを振り払った。


 新幹線の中で僕は考える。もし、あの時に芸能界に入ろうと思わなかったら、そして、妹に逢わなかったら、僕はどういう人生を歩んだのだろう。あの時は、もちろん妹とは知らなかった。彼女が妹と知ったのは、(あの時は、まだ女友達の母に過ぎなかったけど)妻からの告白を聞いた時だった。僕はりつ然とした。お互いに全く知らなかったとはいえ、妹と本気で恋人になって結ばれる寸前だったのだ。そして、妻からの告白を聞いてしばらく僕は考えてしまった。ふと悪戯心が起きてしまい、彼女に恋人として僕と付き合ってくれますか、と半分、冗談のつもりで僕は言った。彼女は顔を真っ赤にして沈黙して、しばらくして喜んでと微笑みながら言葉を返した。その顔を見た瞬間に思った。父もこの笑顔に惚れ込んでしまい、道を過ったのだと。僕もこの人が本当に好きになってしまった。かつて父の恋人だったことから考えると彼女は義母といえるかもしれない。その背徳感も相まって僕は彼女に急速にのめり込んでしまった。彼女も同様だった。あの時はお互いに妹の感情を完全に無視して恋に狂っていて、お互いに理性を取り戻したのは彼女が妊娠したのに気づいたときだった。このことで妹は激怒して、しばらく家に帰ってこなかった。何とか妹とやり直せて本当に良かったと思う。そして、僕の実の娘が産まれ、妻と結婚して、今は僕は22歳になる。妹にして養女の彼女は20歳になった。彼女も真実に薄々は気づいているのだろうが、問いただす気はないようだ。僕も妻も彼女から聞かれない限り話す気はない。真実なんて見たい人が見ればいい。彼女が真実を聞きたくないのなら教える必要はない。それに僕にしても妻にしても真実を全て知っているわけじゃない。お互いに都合のいい真実しか知らないのだ。そして、僕にとって今の妻と子ども4人との暮らしが幸せな最大の真実だった。

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