第4章(娘視点)
彼を私の家に連れて行ってから、しばらく経って私は彼から別れを告げられた。別に僕には好きな人が出来た。君の好意には僕は応えられない。彼はそう言って私の下から去って行った。私は茫然としてしまい、別の好きな人が誰なのか、その時に彼に聞くことが出来なかった。しばらく彼とプロダクションで顔を会わせるのがつらかった。彼も私を避けた。
その頃から、母は好きな人が新しく出来たということで機嫌がよかった。少なくとも私が物心ついてから、母が誰とも付き合っていなかったのを私は知っている。母もまだ20代だ。元モデルで更に美容にそれなりに気を使っていたこともあり、充分に20代前半と言い張ってもとおるくらいだ。それから考えれば素直に母の恋を、その頃の私は母の恋を後押しすべきだったのだろう。だが、自分の失恋直後に母に恋人ができるなんて、何か理不尽な感じがして、その頃の私は母の恋を応援できなかった。
それからしばらく経って、私に弟か妹が出来ることになった。母が妊娠したのだ。母が交際相手を紹介するという。本当に申し訳ないけどね、と母がおずおずと言った後に、私の前に現れた母の交際相手は彼だった。私は思わずかっとなって、何も言わずに母の頬を叩いて、そのまま泣きながら近くの祖母の家に駆け込んだ。
祖母は私の泣きながらの話を黙って聞いてくれた。祖母は、何も母娘で同じ人を好きにならないでも、とため息を吐いて、私に同情はしてくれた。でも、祖母に言われた。彼氏は母親を選んだのだ。幾ら自分が一方的に好きになっても、相手が好きになってくれないとどうしようもない。母と彼氏が相思相愛で子どももできたというのなら仕方ないでしょう。確かにそうだった。でも、私の腹の虫が治まらなかった。よりにもよって、彼が好きになったのが自分の母だったなんて、母は若々しく見えるが、彼よりも10歳以上年上なのだ。そんなに年が離れているのに恋人同士になることは無いだろうに。私は腹の虫が治まるまでのしばらくの間、祖母の家に寝泊まりした。
それから3年近くが経った。母と彼は正式に結婚した。母は彼との2人目の子どもを産んだ。私は彼の養女になった。彼はようやく公然と私達母娘と同居して、家族5人で暮らせるようになったのだ。それにしても、と私はため息を吐いた。母と養父がずっと相思相愛なのはいいけど、私の前でいちゃつかなくてもいいのに。養父は一時は私の恋人になりかけていたのだから、少しは私に気を使ってほしい。腹が立つので、養父のことは、外でもお父さんと呼んでいる。事情を知らない人は、私のことを養父の愛人だと思うようだ。愛人の方がマシかもしれない。養父は私のことを養女としてしかみていないみたいだから。私はそんなに養父にとっては女の魅力に欠けるのだろうか。養父は、芸能界の仕事を頑張っていて、少しずつ俳優の仕事が入るようになった。私も女優として少しずつ声がかかるようになった。




