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第3章(母視点)

 私は娘が連れてきた男友達を見た瞬間に固まってしまった。なぜなら、余りにも私がかつて心から愛してしまい、更に娘の実父にもなったあの人にそっくりだったから。そして、その男友達の名字を聞いた瞬間に確信した。この男友達は、あの人の忘れ形見なのだ。


 ともかく娘とこの男友達の仲を引き裂かねばならなかった。お互いに全く知らないことだが、娘とこの男友達は異母兄妹なのだ。ただの男友達ならともかく2人が恋人同士になっては絶対にいけない。だが、どうすればよいだろうか、私は苦悶した。真実を娘に明かして、娘にこの男友達を諦めさせる。本来から言えばそれがベストの選択なのだろう。だが、それが私にはどうにもできなかった。なぜなら、そうしたら、この男友達は私達母娘の家を二度と訪ねなくなるだろう。あの人そっくりの彼と会えなくなる。そう思うだけで、私の心はざわめいて仕方なくなり、涙があふれてしまった。とりあえず、彼が家に帰った後で、私は娘にアイドルの卵なのだから、男女交際は慎重にするようにと訓戒した。だが、中学生の娘にとっては逆効果になったらしい。私を16歳で産んだお母さんに言われたくない、という感じの態度を娘は採った。私はますます困惑した。真実を娘に明かすべきなのだろうか。困惑して考える間に、私はふと疑問を覚えた。彼は、私のことを全く知らなかったようだ。彼は父の死の真相をどう聞いているのだろう、それを彼に聞いてみよう。私は芸能界のかつての細いつながりを頼って、娘には内緒にして彼と連絡を取って、彼に会うことにした。


 彼は私と秘密裏に会ってくれた。娘から母が自分との交際に反対して困ると言われたことから、自分も会いたいと思っていたとのことだった。私は、彼に父の死についてどう聞いているのかを確認した。父は事故で死んだと聞いているが、自分の母は自殺ではないかと疑っているとのことだった。そうだ、彼の父は半分自殺したのだ。私の求愛に負けて関係を持ってしまい、私が懐妊したらしいと聞いたことから、最愛の妻に会わせる顔がないと悩んだ末だった。私は自分の愛を押しつけたことから、あの人を死に追いやったのだった。私はあの人が死んだことを聞いて、葬式等に行きたかったが我慢した。あの人を死なせて葬式に出られるわけがなかった。誰かアイドルに父は求愛されていたと母から聞いています。ひょっとしてあなたではありませんか、と彼は私に尋ねた。私はつい肯定してしまった。先に娘に話すべきだった。だが、あの人にそっくりの彼の顔を見ている内に黙っていられなくなった。彼は黙ってしばらく考えた後で、私にある提案をした。普通の人からすれば、ある意味、悪魔の提案だった。でも、その時の私には天使の提案に思えた。

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