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第2章(恋人視点)

 新人でかわいい子が入ってきたな、というのが彼女を見た第一印象だった。だが、何かはわからないけど、それ以外に惹かれるものがあった。つい、気になって話をするうちにお互いに父がいないことが分かった。僕も一緒だというと彼女は驚いた。


 僕が2歳の頃に父は亡くなった。母によると表向きは事故だが、自殺の可能性もあるという。父は自動車を運転していた際に路面が凍結していたことから、車のブレーキが利かなくて自損事故を起こして死んでしまったと母は言った。だが、母によると日頃から慎重な運転だった父がそんなミスをするわけがない。だから、自殺ではないか、と母は疑っているのだというのだ。父が自殺したかもしれない根拠はある、と母は言う。当時、父は芸能界で俳優になっていたが、あるアイドルに惚れられてしまった。だが、父にはすでに母と言う妻がいた。親切を好意と勘違いされているのだと父は母に言っていたが、彼女は本気だったらしい。それで父は悩んでいたと母は言うのだ。そのアイドルに母は自分で話を付けたかったが、誰なのかは父は明かさずに、自分で話をつけると言っている内に死んでしまった。だから、そのアイドルが誰なのかは母には分からないという。父が亡くなった後で誰か探さなかったの、と僕が母に尋ねたら、母は笑った。父が死んでまで護りたかった秘密の交際相手を暴くなんて、私にはできないと母は言った。父と母は幼なじみの同級生だったが、お互いに惹かれあって自然に交際して、母が高校の卒業式の時には自分を身ごもるような間柄だった。そんな母にしてみれば、父に言い寄ったアイドルなんて鼻で笑うレベルだったのだろう。実際に父は母と死ぬまで愛し合っていたのだから。所詮、一時の気の迷い、父は自分のところに帰って来ると思っていたら、父が亡くなってしまった。アイドルの方も、父が死んで目が覚めたのか、何も言ってこない。それならば事を荒立てないほうがいい、というのが母の判断だった。僕も母の理路整然とした説明を聞いて何となく納得してしまった。だから、父の死の真相や父が付き合っていたアイドルについては調べようとは思わなかった。幸いなことに母は中小企業の社長令嬢で、シングルマザーで僕を育てるくらい何でもないことだった。僕から言えば母方の祖父、母から言えば実父の良きビジネスパートナーとして企業を県内企業から関東一円の企業まで企業規模を拡大させるだけの才覚も母にはあった。


 そんな母と母の両親の愛に包まれて僕は育った。父の実家とも行き来があり、僕は年に何度かは父の実家に小学生までは泊まったことがある(父と母は幼なじみで家は近所なので当然と言えば当然かもしれないけど。)。中学生になり、僕は父と同様に芸能界にあこがれて飛び込むことにした。そして、芸能界に入って暫くして彼女に会ったのだった。


 彼女と友達づきあいするようになり、彼女の家に遊びに行ったら、彼女のお母さんは僕の顔を見た瞬間にとても動揺した。僕も彼女のお母さんに彼女とは別の意味で魅かれてしまった。何故なのだろう。

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